第101話 オデッサ会議

  

 ロマリア連邦のオデッサに来た。

 既にシャヴィお母様とピラトゥスお母様は到着していた。

 ラミウス様に話を通してあると言い、私達はイワセ領事館ではなく大統領官邸に集結したんだ。

 そして、そこにはマリュー様と姫神子様も居た。


 「ラミウス大統領、ご無沙汰しています。」

 「トキワ王、ようこそ、お待ちしておりました。」

 「というかだな。」

 「ああ、普通に話そうか。」


 官邸の大会議室には、私達ディアマンテスとお母様達全員、トキワお兄様、スペリアお姉様。

 それにマリュー様、姫神子様、ラミウス大統領、エスト国王ディノブ様、ネリス公国のギルバート首相が揃っていた。

 他の国々の首長も是非参加したかったと言っていたみたいだけど、モンスターへの警戒や対処でなかなか国を空ける事ができないみたい。

 マルグリットさんもそうなんだって。

 ちなみにルシファー様も居る。

 あの二人の代理、と言っていた。


 という事で、家族+アルファの会議が開かれた。

 議題はもちろん、今後の対モンスターの活動方針の決定だ。

 なので、ひとまずは現状を整理し纏め、把握する事から始めた。

 今の世界情勢、判明している事を、魔法で作った画面へと表記していく。


 コアの封印はもはや消えかかっている事。

 モンスターの強さが封印前よりも強大になっている事。

 出現頻度が昨年比で4割以上増加したこと。

 特に南米大陸はその傾向が強い事。

 こちらの大陸の人間への襲撃が西側に偏重している事。

 獣人型のモンスターが増えてきている事。

 一部の人間が瘴気に中てられて潜伏している可能性がある事。

 スタンピードが発生した事。

 そして

 第三のコア出現の可能性が非常に高い事。


 「現状、もっとも危惧すべきはモンスターの襲撃であることは間違いありません。ですが、私達ディアマンテスだけで全域をカバーできないのも事実です。」

 「そして、危険度としては第三のコアも同列です。実際、私とディーナもかなり苦戦しました。」

 「幸い、と言えるかどうかはわかりませんけれど、今の所第三のコアからのモンスター放出はトンネル内だけ、のようです。

 でも、先のスタンピードとこの第三のコアの関連性が不明という点で、警戒対象としては最大級と言って良いと思います。」


 全員が無言のまま、私とシャルルの説明内容を吟味しているみたいだ。

 モンスター討伐だけでも複数個所での行動が必須、その上第三のコアという新たなる脅威の存在。

 第三のコアに至っては、未だ確認もできておらず、仮に存在してたとして封印すら施されていない。


 そんな中、口火を切ったのはローズお母様だった。


 「なるほどね。そうなるとモンスター討伐と第三のコアの調査の二本立てが主軸になる、という事よね。

 だけど、その第三のコアの現状を知りうるのはあなた達ディアマンテスと、そこのルシファーさん達だけ、なのよね?」

 「となると、だ。そちらについてはお前達に任せた方が良いかも知れないな。モンスターへの対処は私達で何とかするしかないだろう。そうですねピラトゥス姉さま?」

 「シャヴィの言う事は尤もだな。しかしシャヴィと私、アルチナも含めてそれは可能なんだが、それでもカバーできる範囲は限られてしまうな。」

 「先日の討伐でも実感しましたが、今のモンスターは私とリサ様、トキワとハーグの4人がかりでも厳しい相手でした。」

 「一つ、提案があるんですけど、良いですか?」


 姫神子様が提言した。


 「直接的な戦闘となると厳しいですけど、結界や防御ならボクはある程度広範囲で展開できます。

 なので、一定区域の防御ならボクで対処は可能ですよ。もちろん時間や場所は限定的ですけど。」

 「いやしかし、それだとラファールは姫神子としての……」

 「実は既にボクの後継者は育っているんです。もうすぐ代替わりという事も考えていましたので、それは直ぐにでもできますよ?」

 「それはそうなんだけど……」

 「ちょっと良いか、実はの、それはシヴァ様も同意しているのじゃ。対応策の一つとして考慮しても良いと思うぞ?」

 「マリュー様、それって……」


 そもそもアインフリアンとフリーズランド周辺はモンスターは侵攻してこないらしい。

 聖域と呼ばれるその場所には、何かそういう力があるんだろうとは思う。

 ジーマにおける日本列島の拠点、そこも同じようにアーマーが侵入できない何か、があったそうだ。

 それが何なのかは、誰も知る術がないそうなんだけど……


 「ひとまず、ですが、まずは対モンスター処置については私達母親と姫神子様、魔王様とで対処する方向で詰める事にしましょう。」

 「サクラお母様?」

 「あなた達ディアマンテスは、第三のコアに集中してもらえると助かります。何となくですが、そちらの方がとても気になるのです。」

 「となると、だ。我らイワセメンバーは10の小隊を編成して各国へ飛ぶことにしよう。

 小隊を率いるのは私とピラトゥス姉さま、サクラ、アルチナ、フラン、リサ、トキワ、ティアマト、ハーグ、だな。そしてディアマンテスだ。」

 「そうですね、その内ディアマンテスは第三のコアのあるスウィッツランドを担当、という事になりますね。」

 「あ、あの、少し宜しいでしょうか?」

 「どうしましたラミウス様?」

 「それだと、イワセ王国に全負担がかかる、という事に……」

 「あ、その心配は要りません。これによって私達王族は滅んだとしても構いませんので。」


 サクラお母様はきっぱりと言い切った。

 他のお母様も、トキワお兄様もスペリアお姉様も、うんうんと頷いている。


 「え?い、いや、それは……」

 「この事は既に国民へ告知済です。もしイワセが国家として維持できなくなった場合、イワセ王国は宗主国へと帰属、分割されます。」

 「現国民はそれぞれの国民として、しかし今までと変わらない暮らしができるように根回しはしているんだ。」

 「ト、トキワ王、でも、それでは貴方達は失脚、いえ、全てを失う事に……」

 「ああ、そんな事は些事だよラミウス大統領。イワセ王国は俺達の為にある国じゃない。そこに暮らす人々の為にあるんだよ。

 俺達にとってはイワセ王国民のみならず、世界の民の安全と平和こそが絶対なんだ。

 俺達の地位や何かはその為の手段にすぎないんだよ。

 その事を、ありがたい事にイワセ国民は解ってくれた、賛同してくれたよ。」

 「まぁ、数百名は既にイワセ国から転出したんだけどね。」

 「国を出て行ったのですか?」

 「あー、事実としてはそうなんだけどね。」


 イワセ温泉郷、いえ、イワセ王国の若者およそ300人は、その告知後に国を出て行ったそうだ。

 その理由は、全員がデミアン王国へと向かいモンスター討伐軍へと加わる事、なんだって。

 それは魔王様も賛同し、全員を軍へ編入、今は修復した試練の森で強化訓練中なんだそうだ。


 「教育訓練が終われば、各国の軍へと派遣されると思う。彼らの想いは俺達と同じなんだよ。」

 「何とも……首長も凄ければ、その民も素晴らしいんですね……」

 「いや、そんな事は……あー、そうだな。俺たちはともかく、国民は皆素晴らしい人達だよ。」

 「私達はそれに応えなければなりません。ですので、負担とは思わないのです。」


 ラミウス大統領もディノブ王もギルバート首相も、言葉が出ない。

 首長、とりわけ王族としての責任というものを、今まさに目の前でまざまざと見せつけられたのだから。

 そして

 それは200年前の、お父様の意志そのものだったからだ。


 「我々に……我々にもっと力があれば……情けないな、私は……」

 「なぁラミウス、それは違うよ。俺達がその力を与えられたのはその為なんだ。俺達が、その想いを受けて行動する為の力なんだよ。」

 「トキワ王……」

 「ラミウス、お前らしくないぜそんな考えはさ。本来のお前は向くべき方向が違うだろ?」

 「そう、そうですね……」

 「お前は国民の平和と安全を第一に考えないとさ。

 なーに、さっきの話は万が一の時の話だよ。そうならないように俺達、勇者の一族が頑張るっていう事を言いたいんだ。」

 「うん、そうだな。すまなかった、トキワ王。」


 そんな一幕もあったけど、これで今後の方針が決まった。


 私達ディアマンテスは、スウィッツランドの第3のコアの攻略が主任務だ。

 南米大陸へはシャヴィお母様とハーグお兄様の各小隊、ハーグお兄様の補佐はアドニスだ。

 アボリジニ大陸にはフランお母様の小隊が駐留、補佐はメグ。

 ジパングを含めたユラシア大陸東はお母様とリサお母様とヘレン、ネージュ。

 北方は元々エイダム叔父様が受け持っているのでそのままらしい。

 同様に北西はマリュー様を始めとした龍族が引き続き担当。

 ネリス公国がある大陸南部はサクラお母様とトキワお兄様の各小隊が。

 そして大陸西側全域を、ピラトゥスお母様とティアマトの2小隊が担当となった。


 そして、それらの司令塔としてスペリアお姉様がイワセに司令部を置く事に。

 イワセの政務代行はヒバリお姉様が受け持つ。

 政務の補佐にはネモフィラお母様とサダコお母様、ローズお母様が付く。

 通信等の補佐には結花お姉様、マスミお姉様、コキア、ギニーが。

 各国との調整役にはカスミお母様とピコお母様と雪子お母様だ。


 結局、家族総出でのモンスター対処の体制となった。

 中でもその要となるのは、やはり私達ディアマンテスなんだけど……


 「ワシとウチの小僧二人は、ディアマンテスと同行するのでな、宜しく。」


 そ、そうなんだ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る