第99話 ツクヨミが“月の欠片”だと?
私とウリエルは、アズライールから聞いた事をそのまま説明した。
「アズライールという者が言うには、だ。私とウリエルはこの世界を“見守る者”なのだそうだ。」
「何?それ?」
「アタイら自身もよくわからねぇんだよ。ただな、今この世界はモンスターで混乱してるだろ?そうした世界の危機に直面した時に、アタイとルナは世界の修正を見守る、とか言っていた。」
「は?」
「じゃあ、まさに今その状態ってことはアンタ達がモンスターやコアを何とかするって事なの?」
「それがだな……」
「アタイらが直接どうこうって訳じゃないんだとさ。」
「??」
「あくまで私達は世界を見守る者であって、この世界に住まう者を救うのは、この世界に住まう者だけなのだそうだ。」
「という事は、結局ディーナとシャルルがそれをしなければならないって事、なのですか?」
「まぁ、あいつらとさっき言ったもう一組の者達と、だな。」
「うーむ、いまいち納得できぬし釈然としない話ではあるのぅ。とはいえ、ヌシらは今まで通りあの子達に同行するのじゃろう?」
「もちろんだ。奴の言葉をそのまま鵜呑みにする訳ではないし、なにより私もウリエルも、現実としてこの世界に住まう者なのだしな。」
「まぁ、あいつらは覚醒して強くなってはいるけどな、まだまだアタイらのサポートは必須なんだ。もう一組の奴らにしても、な。」
「な、なるほどの……」
「では、ひとまずは新たなコアへの対応と、モンスター討伐対処を考えないといけませんね。」
「そうですわね。あの子とシャルルが戻ってから、その話を進めるとしましょう。」
「ところで、じゃが……」
「なんだサダコ?」
「おヌシら、その変化の程度は実際どの程度なんじゃ?」
「それ、アタシも知りたいわね。もはやこの世界に並ぶものはないレベルなんじゃないの?」
私とウリエルの変化は、確かに普通じゃないのだろう。
もっとも、存在自体が普通じゃないので、その認識は的を射ているかどうかは定かではないが。
あの時、アイツの一部を体に宿した瞬間、変化の詳細やアイツの想い、そうした私が知るべき事はアイツの肉声のメッセージと共に全て受け取ったのだ。
アイツからのメッセージとは……
―――――
『久しぶりだねルナ。色々と大変な思いをさせてしまった事、済まないと思っている。
自分勝手な事だと理解しているけど、月の欠片をその身に取り込んだお前とウリエルにしか頼めない事なんだ。
ディーナ、そしてシャルルの二人を、俺の代わりに見守り手助けしてあげて欲しいんだ。
あの二人がその悲願を達成するまで、そしてその世界を見届ける為に、俺の一部をお前とウリエルに託す。
だけど、お前の体は元々少し特殊な体ではあったけど、もはやお前本来の力に耐えられる身体じゃないんだ。
だから、俺と同じ体、存在へと変化させた。サクラと極めて近い存在の体だ。寿命はない。
さらにはこの世界の森羅万象を理解し、それにより使える能力はもはや魔法という枠を超える。
それは星の力、つまり月の欠片の力と“もう一人のお前”の力だ。
そしてそんな存在となったお前なら、やがては俺の――
押し付けてしまう事は謝るよ。でも、ルナならきっと俺の意思を理解してくれると思う。
じゃあ、またな。ルナ、愛しているよ。』
―――――
アイツのメッセージを皆に聞かせた。
話している内に少し涙ぐんでしまったのは、うむ、仕方がない、な。
私は聞いた時に密かに号泣してしまったし、それをウリエルに見られてしまったし。
まぁ、そんなウリエルもアイツのメッセージを聞いて同じく号泣してたが。
「そう……そうじゃったか……」
「なんだかんだ言って、結局主人はアンタ達の事もきちんと愛してたのね。」
「ウリエル様も同じ言葉を?」
「ああ、アタイもほぼ同じだったな。けど、アタイもルナも、別に押し付けられた、なんて事は思ってねぇけどな。」
「うむ、元よりそのつもりでもあったしな。」
「でもさ、何か聞き逃せない事を言ってたよねー。」
「むー、そうだね。何個かあるけど、私としては特に“もう一人のルナ”って所かな。」
もう一人の私。
それはアズライールも言っていた事だ。
確か、ツクヨミとかいう者が、変化と共に顕現できるようになったらしい。
未だにその存在も認識していないし、姿も見ていないが。
「確かにそんな気はするのだがな。まだ寝ているらしい。」
「寝てるって、何処で?」
「わからん。というか、本当に居るのかどうかも不明だ。」
「それは、もしやわっちの事でありんすか?」
「そう、お前の……なにッ!?」
「 !! 」
談話室の入口の前に、その声の主は居た。
漆黒の、それでいて光沢がある美しい長い髪。
着物というのか、雪子やサダコと同じような服を纏っている。
透き通るような白い肌に、ぱちくりとした瞳。
ぱっと見は20代中頃の女性だ。
「ふむ、無事この世に顕現できたようでありんす。苦労をかけたのルナ。」
「お、お前が……」
「そうじゃ、ツクヨミという。よろしゅうな。」
「お、おヌシは!」
「む?そこにおるのは童ではないか。ヌシも居りゃんしたか。」
「そうか。ルナに使ったあの月の欠片はサダコの世界のだったよね、そういえば!」
「そうじゃったか、おヌシの事じゃったか……」
「サダコ、こいつを知っているのか?」
「知っているも何も、彼女は我ら妖怪の祖、オロチ様のお子での、ワシらの世界でいう『竹取物語』という神話に出てくるかぐや姫のモデルになったお方じゃ。」
「「「「 ?? 」」」」
「あー、アタシとサダコ以外はわかんないよねー。」
サダコは今一度搔い摘んで解りやすく説明をした。
それによると
ツクヨミはサダコの大先輩であり、常陸の国に妖怪が根付くように尽力したのだという。
それ故にサダコとも面識があった、という事らしい。
そして
「わっちはの、その月の欠片を創った張本人でもありんす。」
「「「「 はい? 」」」」
何でも、月の欠片は本来地球、つまり星の生命力の予備として造られたんだとか。
その生命力とは、何のことは無い、星を形作る宇宙に存在するエネルギーそのものらしい。
なぜそんな物が必要だったのか。
それは、幾千億年にも亘るこの星の命を、少しでも長く維持する為なのだとツクヨミは言う。
真偽のほどはわからないが、我らのような生命が生きていける星は唯一、この地球だけだから、なんだそうだ。
ただ、遠い宇宙の果てには同じ星が幾つかあるらしく、同じように生命が存在しているという話もあるらしい。
その星からこの地球に来たという存在もまた、噂ではあるがいるらしい。
しかしその真偽は、それら星々はもはや遠すぎて不明なのだそうだ。
過去、地球は幾度も星の弱化の危機に瀕してきたらしく、メテオインパクトから始まったあのエルデとジーマの騒動もその一つなのだとか。
そうした星の傷を癒す為のエネルギーとして、月の欠片は造られたらしい。
ただ、月の欠片自体がその本来の目的から幾つもの付加価値を持ちはじめ、それを制御する為にツクヨミは月の欠片と同化したんだそうだ。
「しかし、月の欠片は星ではなく私、それにウリエルへと使われたはずだが?」
「うむ、これは本来の使い方とは言い難い。しかしの、此度の星の危機そのものはあの者によって救われたばかりか癒されたのでありんす。
それ故、本来の使い方ではなく問題の解決策として使われたみたいじゃ。それも、あの者と星の意志によって、の。」
「星の意志、と言いますと、エルデ様、ですか?」
「そうでありんす。まぁ、あの時はジーマであったがの。あくまで星の意志が最優先じゃからの。わっちはその意志に応えたのでありんす。」
「何となくだが理解はできた。という事は、だ。」
「そうだな、この星というか世界にも、月の欠片は存在するってこったろ?」
「可能性としては高い、としか言いんせん。なにしろわっちはこの世界の住人ではありんせんのでな。」
「そうなのか。が、それは無い訳ではない、という事でもあるんだな?」
「そうじゃの。もし近づけば分かるやも知れぬがの。」
そこに、風呂上りでさっぱりしたディーナとシャルルが帰ってきた。
「お待たせしましたって、あれ?」
「え?こちらの方は?」
「ふむ、わっちがツクヨミじゃ。初めまして、になるのかの。」
「ツクヨミ様!?」
「きれい……」
「くふふ、そうかや?嬉しい事をいってくれるでないか。」
「あ、いえ、すみません……」
「よいよい。おぬしらの事はずっと見ておったからの。これから先、わっちはルナの中でお主たちを守るでの。しっかりと己が使命を果たしてくりゃれ?」
「は、はい。」
「よろしくお願いします。」
「くふふ、ではの。」
そう言うと、ツクヨミは私の中へと消えて行った。
ツクヨミの意思と私の意思が混在する不思議な感覚だ。
カスミとコロルも同じ感覚なんだろうか。
まぁ、ただ、悪い気はしないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます