第5章 次世代の勇者達 編
第98話 帰って来たよ、イワセ温泉郷!
スウィッツランドでトンネルを探索した後。
私達はリンツに寄ってマスミお姉様に留守をお願いした後、そのままイワセに戻った。
夕食時を少し過ぎた時間だった。
領主邸の裏手にある別邸。
ここの小広間はいわゆる談話室として、普段のお母様達の寛ぎの場になっている。
今イワセに留まっているお母様は皆ここに集まって休憩している、という事なので、私達はそこへ向かったんだ。
そして、4人そろって談話室に入るなり
「ただいま!という事で、今後の戦略を見直す為に帰ってきました!」
と報告をした、んだけど。
お母様達は一様に、驚きの表情を見せて固まってしまった。
真っ先に我に返ったのは私のお母様だ。
「……あ、あのねディーナ、その前に言う事があるのではないのですか?」
うん。
お母様のいう事はもっともだと思う。
でも。
私としてはできるだけそこに触れないように話を進めたかったんだけど……
いえ、分かってはいた。
というより、触れないことには先に進まないだろうと。
なぜなら……
「私のこの姿の事なら気にしないでくれ。ちょっと病気になったような物なのでな。」
「どんな病気なのよソレ……」
「ウリエル、ヌシまで何なのじゃその容姿は……」
「あー、コイツの言う通りだ、少し本調子じゃないって程度の事なんだよ。」
「ルナ様、ウリエル様、もしかしてお二人は……」
ルナ様とウリエル様は今、身体的には完全に女性体になっている。
それまでも外見は絶世の美女と言ってもいい容姿だったけど、同時に中性的な雰囲気もあって性別不明にみられる事もあった。
というか、性別不明どころか性別は無かったんだけど。
そこにフィルターをかけるとさらに外見的にはますます謎になってしまうのだ。
もちろん、身体は母性の象徴も男性のシンボルもなく、言ってみれば平坦といえるものだった。
それ故に、あっちの世界のフランお母様がなぜあの水着をあのサイズで準備したのかが謎だったんだ。
それが今は完全な女性体型、あの浜辺の時と同じで表情ももはや中性的な雰囲気はなく完璧に美女なのである。
そしてそれ以上に。
その背中には純白の羽が生えていたりする。
もはや、人間とは全く別の姿なのであった。
その姿を見たサクラお母様は
「お二人はもしかして、私と同じ……」
と驚愕の表情となったんだ。
「サ、サクラ、それは今ここで言う事じゃない。お前自らそれを言ってしまうのはマズいだろう。」
「それって、サクラが天使だってことを?」
「それは既に皆が認識している事。何の問題もない。」
「そうじゃな、あの光る玉によって生き返ったサクラじゃ。もとより皆そうじゃないかと思っておった事じゃ。」
「主人もそう言ってたしね。」
「なんだと……」
「ちなみに、私達妻全員が知っている事よ?」
「マジなのか!?」
「なんと、では私とコイツが今まで秘密にしていたというのは……」
「す、すみません……」
「「 …… 」」
人間であり、一度死んで蘇ったサクラお母様、その存在が実はウリエル様と同じだったんだ。
サダコお母様が持っていた珠、未だその正体は謎だけど、その珠によって命を取り戻したサクラお母様はその時既に人間を超越していたらしい。
そんなサクラお母様とお父様の血を引くトキワお兄様とヒバリお姉様がアレなのも、そう言う事らしい。
ちなみに、今の今まで私もシャルルもそれは知らなかった。
サクラお母様がそんな存在になっていただなんて、考えもしなかったんだ。
で、でも、今はそこじゃないよね、うん。
「あの、お母様、その話はひとまず置いといて……」
「え、ええ、そ、そうですわね……」
「今判明しているモンスターとコア関連の状況を踏まえて、ですね、こちらの体制を見直す必要があるんじゃないかと思って。」
「私達ディアマンテスはこのまま遊撃隊として行動するんですけど、監視網、連絡網、周辺各国の防衛体制強化とかいろいろを……」
「そうですね。現状イワセの国家としての舵取りはトキワとヒバリ、スペリアに任せておくとして、ですが。」
「私達も対モンスター処置には動くべき、かな。」
「今はシャヴィとピラトゥスさんが遠征で出向いてくれていますけど、私も兄とともにデミアン方面に出向くべきでしょうね。」
「エスト方面は私、では役不足ですけれど、コキアとアドニスも含めて担当しようかと。」
「ジパングは現状そのままで良いとして、私はネモとエスト方面を担当する。」
「ネリス方面は私とハーグで対処、が良いかもね。」
と、お母様達はすでにこの状況を見越して色々と考えてくれていたようだ。
実際、今脅威度がもっとも高いのは西方なので、そこは私達を軸に防衛体制を強化する、という話は各国とも進めていたらしい。
でも、それは良いんだけど……
「あの、お母様。」
「ディーナ?」
「こんな時に言うのもアレなんですけど……」
「しょ、紹介したい人が居るんです……」
「まぁ!!!」
「なんと!おぬしらまさか!!」
「ええー!!ついに、というかようやく!?」
なんか、お母様達の驚き方が普通じゃない。
なんで?
「で、そのイイ人ってどこに?」
「え?イイ、ヒト?」
「どこ、と言われましても……」
「あー、みんな落ち着け。少し言い方がアレだったからな、勘違いしているぞ?」
「あのな、そういうんじゃなくてだな、アタイらと同じ遊撃隊がもう1隊存在するって事なんだよ。」
「「「「 ……あ、そ、そうなの…… 」」」」
そんな一幕もあったんだけど、帰ってきてそのままだったのでひとまず私とシャルルは長旅の疲れを落とす為に温泉へと向かった。
その間お母様達は、ルナ様とウリエル様に近況を聞いていたみたいだ。
「で、おぬしらのその病気は結局どういうことなのじゃ?」
「あー、それは、だな……」
「というかね、アンタ達からそこはかとなく主人の気が感じられるんだけど……」
「それはその、間違いじゃねぇんだけどさ……」
「実はだな……」
ルナ様は事の顛末を説明しはじめた。
ここに帰ってくる前の事。
―――――
ルナ様とウリエル様は、あのトンネルから出たところでアズライール様からお父様の一部を受け取ったんだ。
その瞬間、身体が光り、あっという間に体は再構成されて女性化、さらには羽も生えて身に纏う気も増大した。
存在自体は揺らぎ、この世界と別の位相界に同時に顕現したんだそうだ。
そして、アズライール様にも変化が現れた。
体が少し小さくなり、女性の体つきになった。
そして、声も口調も少し変わったんだ。
アズライール様曰く、お父様の一部を譲渡したことで元に戻ったとか何とか。
「ようやく本来の私に戻れましたよ。ところで、あなた達のその存在は今調整中という事です。しばらくすれば同化し完全な状態になるはずです。」
「完全な状態、だと?」
「あなたもウリエルも今は半分の状態なのです。とはいえ、その状態でも今まで通りですが。」
つまりは、完全体となればもはやその力は強いとかの話ではなくなるらしい。
ただ……
「もしあなた達が機能停止になってしまうと再生はできません。この世界に顕現することは二度とできなくなるかも知れないのです。」
「そりゃアタイらは完全消滅するってことか?」
「おそらく、です。実際は判りませんが未だかつてあなた達のような経緯でそのような存在に昇華できたものは唯の一人も存在しない。未知なる存在、とでも言うべきでしょうか。」
「つまりだ、私とウリエルは、そんな訳の分からぬバケモノになった、という事か?」
「バケモノ、とはまたピッタリの言い方ですね。とはいえ、呼称は何でも良いのです、その役目こそが重要なのですから。」
「役目、だと?」
―――――
「なるほどのう、経緯は理解した。しかしの、その役目とは何なのじゃ?」
「それなのだがな……」
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