第97話 衝撃の宣告、そして勇者の欠片


 アズライール様の話は衝撃的過ぎた。

 ルナ様が居なくなる、いえ、死んじゃうなんて……

 正直、それは聞きたくない事だったんだけど


 「私が、崩壊する、だと?」

 「どういう事なんだそりゃ!?」

 「ルナ、お前の体はやや特殊とはいえ基本は人間そのものだ。故にお前にその器は脆弱すぎるんだよ。」

 「何だと?」

 「ルナ様……」

 「そんな……」


 アズライール様の話によると

 こっちの世界に転生した際、性別がないだけでその基本構成は概ね人間の体に近いものだった。

 でも、そもそもルナ様は人間として転生した訳じゃなかったらしい。

 方法は間違っていたにせよ、ジーマでは星を守る事がその使命でもあったルナ様、その前身であるブルーは、すでにジーマの世界では人間とは別の階層にいた存在だったんだって。


 「それって、ジーマではウリエル様やマコーミック様と同じ存在だった、という事なんですか?」

 「少し違うが、概ねそんな所だ。ただ、あくまでその存在は機械、つまりAIとして、だがな。」

 「……私は、ブルーは人間に造られたのではないのか?」

 「大元はそうだ。スパコンからさらなる進化を遂げた量子電算機、それがブルーの母体だな。」


 ルナ様の前身、ブルーは、結局AIという人工知能以外の何物でもなかった。

 でも、インプットされていた作製者の思想もあってか、星を守る事を最優先としたらしい。

 そこに、あのダルシアによってこっちの世界の瘴気、つまり悪意が追加上乗せされてしまった、と。

 いつしかその星を守るという優先事項は、イコール人間を滅ぼす事が星を救う、という図式に変換されてしまったんだそうだ。

 ある意味、呪縛によって暴走したともいえる、とはアズライール様の言葉だ。


 「そんなお前を開放したのがタカヒロなんだ、月の欠片を使ってな。その際に、月の欠片と同時に別の意思がお前に入り込んだんだよ。」

 「別の意思、だと?」

 「おい、それってまさか……」

 「本来なら、だ。ブルーが暴走する前に、お前はその別の意思と融合するはずだった。」

 「なんなんだ、それは?」

 「私の古い友人だ。名をツクヨミという。」

 「ツクヨミ、だって?」

 「お前が転生し、その脆弱な体でここまで行動できたのは、今お前の中で眠っているツクヨミの力に依るところが大きい。」

 「私の中で眠っている、だと?」

 「今のままでは目覚めることは無い、そして、お前の体がお前自身の力に付いていけない程に、お前の力は大きいんだよ。」

 「それじゃ、ルナ様はこのままだと体が……」

 「そうだ。もはや限界を超えているんだ、お前の体は、な。」

 「……」


 言葉を失うルナ様。

 私達も、何も言えない。

 言葉が出ない。


 どれだけの静かな時間が流れただろう。

 私もシャルルも、自然に涙が流れていた。

 ウリエル様も言葉を失ってしまっていた。

 ルナ様も、うつむいて震える唇を嚙んでいた。


 「……なるほどな。言っている事は理解できた。」

 「ルナ様……」

 「お前……」

 「要するに、私は遠からず死ぬ、という事だな。」

 「そんな!」


 悲しさと寂しさを浮かべた表情には、同時にどこか吹っ切れたような、晴れ晴れとした気持ちも浮かんでいるようでもあった。


 「これで……これで私も、死んでアイツの元に行ける、という事なんだろう?」

 「いや、ルナ、残念だがお前は……」

 「ッ……」


 そんな事って、ない……

 それじゃ、ルナ様は存在そのものが消えてしまうって事なの?

 そんな事って……


 「お前も意地が悪いな。勿体ぶらんとさっさと本当の事を言わんかドアホが。」

 「へ?」

 「まぁ、端的に言おう。ルナ、お前はまだタカヒロの元へは行けない、というのは事実なんだ。何故ならお前にはまだこの世界でやるべき事があるからだ。」

 「なん、だと?」

 「なに言ってやがんだ、こいつの体は崩壊しちまうんだろう?どういうこった?」

 「さっきディーナも言っただろう、このままだと、と。」

 「それって……」

 「私がなぜタカヒロの一部を持っているのか、その答えは……」

 「答えは?」

 「お前達へと渡して本来の存在に昇華させる為、なんだよ。」

 「「「「 …… 」」」」


 ちょっと、思考が追い付かない。

 ルナ様の本来の存在って、何?

 確かにお父様はルナ様を天上に住まう者になるかも、と言っていたけど……


 「私を本来の存在に、だと?」

 「そうだ。そして同時にツクヨミと同化させ、ツクヨミを目覚めさせることだ。」

 「なんだと?」

 「このアホの説明じゃ足りんじゃろう。一つ言えることはな、今のルナの肉体では、ツクヨミ殿を目覚めさせても肉体はキャパオーバーで霧散してしまうんじゃ。」

 「い、いや、だからってこいつの体をどうこうってのはできねぇだろうよ?」

 「もちろん私にも、このアホウにもそれはできない。だが、それを唯一実行できる者、それがタカヒロなんだよ。」

 「アイツが……」

 「お父様が?」

 「もはやタカヒロはこの世界に直接干渉することはできないんだ。こっちを見知りする事はできても、な。」

 「それ故に、あのお方はこのアズラとワシに直接依頼をしたんじゃよ。」


 何だろう。

 すごく不思議な話で現実味が殆ど無いような感じだ。

 それって、まるっきりお伽噺の世界じゃないのかな?


 「で、だ。その具体的な方法というのは、私が持つこのタカヒロの一部をお前達に融合させる、という事だ。」

 「融合だと?」

 「今の私の存在意義はその為だけにある。この世界の行く末が心配だというのはその通りなんだが、残念ながら私はそこまで干渉できる存在ではないんだよ。」

 「ワシも同じでの、この世界の未来は、この子達に託すしかないんだ。」

 「そもそも我らの階層に住まう者は、基本的にこの世界に直接介入できないんだよ。しようとすると、その存在は消される。例外なくな。」

 「この世界で、この世界の為に活動できるのは、ウリエルやマコーミックといったもう一つ近い階層の存在だけなんじゃ。」

 「……」

 「つまりはなんだ、アタイらはお前らの下層階級ってことかよ。」

 「まー、そう思うのも無理はないが、上か下かという話じゃないんだ。遠いか近いか、なんだよ。我ら存在がそんな階級社会みたいな事をするかという話だ。」

 「あん?ちょっと何言ってんのかわかんねぇぞ?」

 「無理に理解しなくても良いと思うぞ。」

 「ちッ」


 「で、結局私とウリエルはどうなるんだ?」

 「お前達にはタカヒロの一部を融合させる。それは言わば“勇者の欠片”だな。それによってルナもウリエルも何も問題が無くなる。」

 「あの、アズライール様?」

 「どうした、シャルル?」

 「お父様の一部って……」

 「ああ、一部といってもだ、至極簡単に言えばタカヒロが持っている力とデータ、といえばわかりやすいだろう。」

 「データ、情報、ですか?」

 「ああ、故にタカヒロの意思はないんだ。お前が思っている物とは違うんだよ、すまない。」

 「い、いいえ……」

 「とりあえずはわかった。で、どうすればいいのだ?」

 「今ここで、というのは流石に無理だな、一度外に出る必要があるな。」

 「そうか。では、戻るとするか。」



 ぱったりとモンスターの出現がなくなったし、詳しく話を聞く必要もあって、私達は一旦トンネルを出たんだ。

 

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