第80話 7人の烈士が眠る丘

 カルメンを出て4日目。

 あっちの世界の、カルロたちが暮らしていた集落を経てクッタの街近くまで来た。


 カルロたちが居た集落は確かブランコっていう所だったけど、今は名前が違っていた。

 でも、驚く事にカルロとおじいちゃんの家が、そのままに存在していたんだ。

 とはいえ、住んでいる人も、裏庭のお墓も無かったけど、確かにあのログハウスだった。

 それを見て少し、泣いちゃったのは仕方ないよね。

 家が残っていて安心したのと、カルロとおじいちゃんの残滓が無かったのと、そんな気持ちが綯交ぜになったんだものね。


 その集落、既に村程度まで大きくなっていたけど、相変わらず放牧や農業、そしてあのコーヒー豆の生産で生活しているみたいだ。

 村の人たちはやはり親切で気さくで、あの集落そのままの雰囲気だったのは嬉しかったなぁ。


 そんな道中でも、モンスターの襲撃は止まなかった。

 どうやらこの辺のモンスターは、私達を脅威とみなして標的にしたみたい、とはルナ様の話だ。


 「モンスターの本来の目的や行動理由はわからないが、知能を持った以上、脅威度の高い敵をまず片付けるか、あるいは逆にその脅威を避けるかするはずだ。」

 「でも、避けるって事は無いみたいですよね?」

 「実際、毎日のように私達を襲撃してるし。」

 「そうだな。間違いなく前者だろうな。」

 「ってことはだ。アタイらがモンスターを引き付けてりゃ他の被害は少なくできるかもな。」

 「そういう事ですよね?」

 「ああ、だがな、モンスターの目的も、総数すら掴めない現状では役割分担している可能性も捨てきれないがな。」

 「あ、でもそうなると他への襲撃は私達に向けている戦力よりは弱いって事になるんじゃ?」

 「そうかも知れない。しかし、な……」

 「例のボスみたいな奴はこっちに現れてないだろ?てことは、だ。」

 「それって、脅威度としてはむしろ……」

 「いずれにしても行くだけだ。コアはもうすぐだ。」

 「「 はい! 」」


 コアのある窪地まで、あと数キロという所。

 小高い丘があって周囲を見渡せる場所がある。

 そこを通る道の外れに、話に聞いていたジパングの調査団の方々のお墓があった。


 「ここが……」

 「フランお母様が言っていた……」


 奇麗な石、御影石っていうのかな。

 そんな柱みたいな墓石が7柱並んで立っていた。

 当初はコブシ大の石を積み上げた簡単な墓標だったけど、後にお父様がこれに変えてくれたんだって。

 墓石には見たことがない文字で何か彫られていた。


 「これはな、それぞれの本名と、感謝の言葉が刻まれているんだ。」

 「この文字って?」

 「ああ、アイツの元居た世界の文字、“ニホンゴ”とか言っていたな。私とウリエルなら読めるが、今はジパングの者でも読めないらしい。」

 「フランだけは読めるらしいけどな。あ、あとカスミとサダコもな。」


 墓標は7柱まとめて石で囲ってあり、そこはまるで花壇のようになっていた。

 毎年、ジパングの駐在員がここにきて整備しているらしいんだけど、今は少し荒れている。

 これだけモンスターの脅威に晒されているんだもの、ここまで来る事はできないだろうし、仕方がないんだろう。

 という事で


 「偉大な先人の眠る場所なんだもの、奇麗にしてあげたいです。」

 「そうだな、このままだとさらに荒れ果ててしまうだろうしな。」

 「お花も雑草に紛れちゃってるし、ね。」

 「ま、休憩がてら墓掃除だな。アタイは周囲の警戒にあたるぜ。」


 幸い近くに水辺があったので桶に水を汲んできた。

 墓石を洗って磨き、元々植えられていただろう野菊以外の雑草を駆除してキレイにした。

 心なしか、7柱の墓石が輝いて見えた。


 「でも、よくここは無事ですよね。」

 「まぁ、モンスターも建造物などには見向きもしない、という事なんだろう。あくまで標的は人間や魔族そのものなんだろうな。」

 「ますますモンスターの行動理由というか、何がしたいのかが分からない、ですね。」

 「しかし、間違いなく人間を殺す事が目的というのは疑いようもあるまいな。事実として襲ってきているわけだし。」

 「そう、ですね。」


 お墓のある丘からは、周囲を広く見渡せる。

 数キロ先に見える、何か醜悪な気配を吐出している場所、あれが“コア”で間違いない。


 「では、行きましょう。」

 「うん、ここの人達に挨拶して、コアに向かおう。」

 「そうだな、そういえばコアそのものを見るのはお前達初めてなんだな。」

 「そうです。あっちの世界じゃ存在しなかったですもんね。」

 「とはいえ、見るまでもなく何か嫌な気配を感じますけど……」


 私達は、7烈士のお墓に手を合わせ、コアへと向かった。

 

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