第79話 カルメンの現状は想像以上に大変だった
王宮を出て軽く物資を購入し、私達は都市部を後にした。
ルーベンス王の計らいで馬さんを借りたので、馬さんでの移動となったんだ。
この大陸ではまだそこまで鉄道網は発達しておらず、電気の供給も都市部に限られている。
飛べば直ぐにコアの所まで行けるけど、その間のモンスターをスルーしてしまう恐れがある為こうして馬さんでの移動がベストとなったんだ。
馬車でも良かったんだけど、なんとなく、馬さん達での移動のほうが、この地ではしっくりくるんだ。
私達はあの街道、カルロと出会った集落に繋がる街道を進んでいる。
あっちの街道とは違い、かなり整備された道だ。
「あ、あの、ウリエル様?」
「ん?」
「あの石って……」
「あ?ああ、あれか。あれはな、あっちのアタイからのメッセージが入ってたよ。」
「あっちのウリエル様……」
「一言で言うとな、あっちの世界は、やっぱりアイツが思い描くような世界に近くなったようだ。良かったな、お前らが頑張ったお陰だぜ?」
「そう、なんですか……」
「素直に、嬉しいですね……」
「何でも、全世界を束ねる“皇帝”とかいう物に祀り上げられたらしいぜ。アイツは断固拒否したみたいだがな。」
「こ、皇帝って。」
「つまり王様の中の王様ってこと、なの?」
「とはいえ、だ、アイツはそんな事に興味はないし、まとめ役は結局家臣になったラークと魔王、マリューが担うそうだ。」
「という事は実質お飾りみたいな立ち位置を選んだ、という事なんでしょうか。」
「お父様らしいと言えばらしいけど、それで争いが無くなれば結果オーライって事よね?」
「まぁ、どうやらあっちにも“コア”と同じシステムができた可能性もある、らしい。
「え?それって……」
「要するに人間の負の面は薄れて、こっちと似たような世界に近づきつつあるってこったな。」
「でもそれは、またお父様が……」
「いや、そうとも言い切れねぇな。第一、あっちのアイツはブラックホールなんて技は使えないみたいだしな。」
「という事は、モンスターの討伐を延々と、という事?」
「結局今のこの世界と変わんねぇってこった。」
それが良いのか悪いのかは判断が付かない、よね。
確かに結果は今のこの世界の状況になった訳だけど、それまでの世界は確かに平和そのものだったんだし、それで発展もしたんだし。
「ただ、なぁ……」
「え?」
「これを持ってきたのはホセ本人だ。」
「ホセさん!?」
「やっぱりそうなんですね!」
「ああ、アイツには悪い事をしちまったな。」
「そ、それはどういう……」
ウリエル様は、少し悲し気な表情で話してくれた。
ホセさんはあの後、あっちのカルメンのマフィアのボスを経て初の都市代表になったんだって。
都市代表になって間もなく、あっちのお父様達と出会って、あっちのウリエル様とも邂逅を果たしたらしい。
ただ、あっちのウリエル様とはそれっきり会う事も無く、ホセさんは妻を娶る事も無く最後には王として、その生涯を閉じる事になったらしい。
その死の間際、あっちのウリエル様がホセさんの元に現れて、石を授けてこちらの世界に飛ばしたそうだ。
そのままホセさんは消えたんだそうだ。
「もしかするとな、アタイらに出会わなけりゃ、ホセはもっと幸せな人生を送れたんじゃないかって思うとな。」
「そ、それは……」
「まぁ、そんな見方もあるだろう。しかしな、それはそれでホセは幸せだったんじゃないか?」
「わかんねぇけどな、そこんとこは。それはアイツにしかわからないだろうからなぁ。」
「だ、だけど、ホセさんはきっと後悔しない人生を送ったっていう事、なんですよね?」
「みたいだな。そこだけは救われると思うぜ。」
いずれにしても、ホセさんやお父様たちのその後が分かって少しは安心した、かな。
あっちのお父様が、あっちの世界へ飛ばされた意味が、結実したって事でいいんだよね。
「あ、それとな。」
「「 え? 」」
「ん?」
「あっちの世界にも、ルナ、お前が居たってよ。」
「何!?」
「お前、やっぱり兵器として造られてたらしくてな、起動しないまま放置されてたのをアイツが見つけたんだってよ。」
「なんだと?」
「で、やっぱりアイツの所に世話になっているんだと。」
「そう、なのか。アイツの元に、あっちの私が……」
「ま、結果あっちも勢ぞろいできたって事だな。」
きっと、それには色々と物語があったんだろうなぁ。
この目で見てみたい気もするけど、それは何か違うような気もする。
これで良いんじゃないかな。
そんな話をしていると、やはり気配を察知した。
モンスターだ。
都市部を出てまだ数時間、こんな近い所まで接近してくるんだから厄介だよね。
都市に行く前に寄ったお店からは離れているけど、いずれにしても脅威度はとても高いと思う。
「ちょっと広範囲に展開しているみたいだね。」
「うん、というより、私達を挟撃しようとしてない?これ。」
「どういう事なんだろ。あいつらってそんな遠くからこっちの動きが見えるのかな?」
「うーん、でも考えている場合じゃない、よね。」
「そうだね、行こう。ルナ様、ウリエル様、出ます。」
「ああ、私はここで馬を見て居よう。つなぎ停めたら私も行く。」
「よし、じゃあワールドへ入るぞ。」
「はい、私が右に!」
「私は左に行くよ。」
街道の左右に数体で展開しているようだ。
ここからでもわかるくらいの手強さみたい。
ロムリアでの個体と同じ位か、それよりも少し強い感じだ。
左右から挟撃してくるモンスターの集団を、私とシャルルで迎え撃った。
3体ずつだったけど、やはり1体1体の強さがロムリアのモンスターよりも上だ。
その姿は、やはり獣というよりも怪獣?みたいな感じで個体毎に全部違っている。
初めて見る形状のモンスターだ。
直ぐに覚醒状態に入って仕留める事はできたけど、普通に出現するモンスターがこのレベルだと、この地の人達にはかなりの脅威、だよね。
「ひとまずは片付いたな、ご苦労だったな二人とも。」
「何とかこの程度のモンスターなら、今の私達でも処分できますけど……」
「何というか、このモンスター達ってこの辺でも低レベルなモンスターなんじゃないかなぁ。」
「この前の統制役みたいなのも居なかったしな。そういう奴は今もどっかでアタイらを見てるかもな。」
強さもさることながら、意思を持ち集団戦で襲ってきて、なおかつ切り刻んだだけじゃ欠片から直ぐに再生する。
今まで聞いてきたモンスターとは明らかに違ってきている事を実感した、んだけど……
南米大陸の状況って、想像以上に大変みたい、よね。
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