第78話 命名! ディアマンテス?


 宮殿内は人が少なく静まり返っていた。

 近衛兵の人達や兵隊さんはモンスターへの対応で殆ど出払っているみたいだ。


 「ここ最近は王宮を守護する衛士まで駆り出されているのです。」


 と、セルジオさんが教えてくれた。


 王の間に通されると、玉座にはカルメンの王様、そしてその隣の玉座には美しい王妃様。

 あの王妃様が、ラミウス様の妹君のナタリアさんだね。


 「ご機嫌麗しゅう、カルメン王、王妃。」

 「初めまして、こちらはディーナ、私はシャルル、と申します。」

 「苦しゅうない。楽にして良い。」

 「ありがとうございます。」

 「して、そなたらが例のモンスター討伐部隊なのだな。」

 「はい、イワセ温泉郷所属の、世界を回りモンスターを討伐する特殊組織にございます。」

 「ふむ、して、今回は我が国の意を受け、ロマリアよりの依頼と聞いた。わざわざ済まない。」

 「いいえ、滅相もありません。」

 「さて、自己紹介がまだであったな。ワシがカルメン王ルーベンスである。そしてこの王妃が、ラミウス殿の妹君であるナタリアだ。」

 「ディーナ様、シャルル様、此度は兄からの依頼を受けていただいてありがとうございます。」


 そんな話をしている最中、ルナ様とウリエル様は黙ったままだった。

 ウリエル様は何故か王を睨んでおり、少し怒気というか、微妙な気を纏っている。

 どうしたんだろう?


 「さて、ここからは秘密裡に話を進める必要がある。セルジオよ。」

 「ははッ!」

 「ワシらとこの者達以外は全員席を外せ。乱派どもも全てだ。」

 「御意に。」


 すると、王の間からは人の気配が一切消えた。

 天井や柱の陰に居た護衛、なんだろうな、その人達も出て行ったようだ。


 そうして人の気配が消えた途端。

 ウリエル様が王様めがけてすっ飛んでいった。

 王様の胸倉を掴むと


 「おい、なんでお前が“コレ”を持ってんだ?」


 物凄い形相で王様に問いかける。


 「ウリエル様!?」

 「お、おい、お前!」

 「!!」


 王妃様は驚いて声も出ないみたいだ。

 がしかし、王様は驚きもせずに答えたんだ。


 「やはり、貴女がウリエル様でしたか。」

 「……」

 「わかりました、お話ししましょう。」


 一国の王様に掴みかかったなんて、普通に死罪を言い渡されても文句は言えない行為だ。

 でも、何かウリエル様は冷静さを欠いているみたい。

 こんな事をすれば私達だけじゃなくロマリア連邦や私達の国にも影響が及ぶのは理解できているはずなのに。

 と、王様の胸元を見ると、あれは……


 7色に輝く石のペンダント。

 あ、あれって、まさか……


 「この石は、少し前にとある人物から受け取ったものだ。その人物は自らを“時空の旅人”と称していた。」

 「“時空の旅人、だと?」

 「その人物はこの石を私に手渡し、今のウリエル様の姿そのままの者が現れるであろうと告げた。」

 「誰だ、その時空の旅人ってのは?」

 「不思議な人物であった。簡単に入る事の出来ない王宮、しかもワシの寝室に単身で音もなく現れた、顔にいくつもの傷のある大男であった。」

 「……なん、だって?」

 「その者は、ウリエル様、貴女様にあったらこれを渡すようにと告げ、その後虚空へと消えていったのだ。」

 「……」

 「ウリエル様、貴女様がこれを見れば、必ずやこのような行動に出る。その者はそうも言っていたのだ。故に、ワシは驚きもしなんだ。」

 「そ、そいつは……」

 「その者との約束通り、これは貴女様へ渡しましょう。いや、返す、と言った方がよいのでしょう。」


 ウリエル様は王様からその石を受け取った。

 その石は間違いなく、ウリエル様が出した“メモリストーン”だ。

 あっちの世界のホセさんに渡した石、そのものみたいだ。


 その石を受け取ったウリエル様は、みるみる顔を崩し涙を流し始めた。

 そして、その場で声を殺して泣き崩れて蹲ってしまった。


 「その石がどのような物かはワシもわからぬ。しかし、大事な物だというのは理解できる。」

 「ウリエル様……」


 メモリストーンはウリエル様の記憶を、別世界や過去未来の自分の情報を別の自分に伝達するモノだ。

 それが、今のウリエル様宛に存在する、という事はきっと、あちらの世界のウリエル様から、なのかも知れない。


 「あ、あの、王様、大変ご無礼を!」

 「も、申し訳ありません、あ、あの!」

 「良いのだ、ディーナ殿、シャルル殿。こうなる事が判っていた故人払いをしたのだ。それに、ワシはこれを無礼だとは思わんよ。」

 「王様……」

 「そちらの、貴女様はルナ様ですね。あなたの事もその者からお聞きしました。」

 「そう、か……」


 「す、すまなかった、ルーベンス王。謝って済む問題じゃないのは解ってるが……」

 「良いのですウリエル様。貴女様に比べればワシなど矮小な存在なのです。その者からそう教えられましたぞ。」

 「ああ、すまない。だ、だけどこれは絶対に口外しないで欲しいんだ……」

 「心得ております。」


 一時はどうなる事かとハラハラしたけど、何とか収まった、のかな?


 その後、王様と側近の人達を交えてこの国の現状を聞き対モンスター対処の摺り合わせを行った。

 やはりコア周辺でのモンスターの活動が著しいらしく、私達はそちらへ赴く事となった、んだけど。

 聞くと、モンスターは集団でコアの近くにまとまっているそうで、その集団が幾つも存在しているとか。

 その中から、街や都市へと攻撃集団がやってくるんだそうだ。


 「では、早速私達はそこへ向かいます。道中接敵したモンスターもこちらで処置します。」

 「本当に申し訳ない、わが軍は都市を守るので精一杯なのだ。」

 「いえ、その為の討伐隊です。お任せください。」

 「ところで、だが。」

 「はい。」

 「そなたらは“モンスターバスター”と呼ばれておるそうだな。」

 「あ、それは私達こちらに来て初めて耳にしました。」

 「民衆はな、そなた達のような英雄にはそういうニックネームを付けたがるものなんだよ。」

 「そ、その気持ちはよく解ります、けど……」

 「うむ、そなた達には悪いがモンスターバスター、ではちょっと、と思わんでも無くてな、他に何か良いニックネームがないかと思案しておったのだ。」

 「ほかに、ですか?」

 「そうだ。で、考えたのだが……」


 そんな王様の考案で、私達の部隊名というか通称名というか、ニックネームが決まった。


 「ディアマンテス……」


 「何というか、私達というより、ウリエル様に妙にしっくりくるような感じ。」

 「ん、良いんじゃねぇか、アタイは良いと思うぜ?」

 「そうだな、ダイヤモンド、か……」


 『ディアマンテス』。

 こっちの古の方言でいうダイヤモンドの複数形の事だ。

 ダイヤモンドを始めとした宝石には、花のようにそれぞれ“石言葉”というのがある。

 ダイヤモンドの石言葉は“永遠の絆”や“不屈の強さ”などがある。

 ある意味ぴったりかもしれないね。


 王様、王妃様との話も終えて、私達はそのままコアのある平原へと出発したんだ。

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