第77話 アンデスの都市カルメン


 アトランタ海手前の上空を、西へと飛んでいる。

 少し肌寒いのは今はゆっくりと飛んでいるから防護壁を展開していないせいでもある。

 でも、それよりも大きな理由は季節がもうすぐ秋から冬へと移り行くからでもある、と思う。

 あっちの世界とは違って、赤道が変化しているから南米大陸は私達の大陸とは季節が逆転するんだって。

 

 「ねぇシャルル、場所は解るの?」

 「うん、凡そはね。地形があっちの世界とは少し違うから、磁場で位置を確認しているのよ。」

 「へぇー、何時の間にそんな技を?」

 「えへへ、ムーン様が教えてくれた。」

 「もっとも、あんた地学も修得してるしね。勉学ってなんだかんだ言っても役立つのね。」

 「そうだね。じゃあ、方角も定まったし飛ばすよ。空間魔法お願いね。」

 「うん、展開するよ。」


 オデッサを飛び立ってから3時間。

 洋上に出たところで音よりも早い速度に達し、さらに速度を上げる。

 シャルルの飛行能力は日増しに向上していて、以前よりも魔力や体力の消費は激しくないんだって。

 今回は距離も前よりは短いので、燃料切れを起こす心配はなさそう、だね。


 「まずはカルメン近くに着陸だな。そこから歩いて行こう。」

 「じゃあ、都市の東側の湖の所が良いですか?」

 「そうだな、そこなら人もそれほど居ないはずだ。」

 「わかりました。」


 さらに飛ぶこと2時間程で大陸に入って、クッタ上空を経由してカルメン近くに降りた。

 クッタを過ぎたあたりにコアがあるんだけど、こっちのコアは遠目でもきちんと確認できた。

 でも、まだコアは後回しだ。

 まずはカルメン周辺のモンスターを一掃する事が先決だしね。


 「着いたね、お疲れ様シャルル。」

 「うん、でも割と疲れも感じないかなぁ。お腹は少し減ったけど。」

 「あはは、じゃあ、まずは腹ごしらえだね。」

 「せっかくだからさ、近くに食堂があればそこに行かない?」

 「あのな、都市方向にちょっと言った所の道沿いに店があるぜ。まずはそこへ行こうか。」

 「ウリエル様、よく知っていますね。」

 「降りる時に見かけたしな。」

 「じゃあ、さっそく行くか。シャルル、腹はまだ持つか?」

 「大丈夫です。」


 カルメンへと繋がる街道に出て西へと進むと、旅人向けなのか飲食店が数件集まっている。

 何ともいい匂いがする。

 どこのお店で何を頂くか、迷っちゃうなコレ。

 と、ひときわいい匂いを振りまいているお店があった。

 店先でお肉を焼いていて、肉とタレの匂いが食欲を激しく刺激してくる。


 「こ、これにしましょう!」

 「賛成!」

 「まったくお前ら、やっぱり食い気優先かよ。」

 「ふふ、らしくていいじゃないか。というか、本当に旨そうだ。」


 店の前に来て、串肉を焼いているおじさんに声をかけた。


 「いらっしゃい、おや、アンタら旅人かい?」

 「はい。」

 「そのいで立ちだとユラシア大陸からだね。」

 「そうです。やっぱり分かるんですね。」

 「あはは、まぁな。ここは旅人がよく来る道だからね、自然とそういう目が肥えるんだよ。で、串肉で良いのかい?」

 「はい。8人前で!」

 「おおう、だ、大丈夫なのかい?結構な量があるぞ?」

 「はい、問題ないでーす!」

 「はははは、気に入った!これもオマケに付けちまうよ。」


 お店の前で串肉とオマケの飲み物を平らげて再び歩き出そうとした時だった。

 街道の北側から悲鳴が聞こえた。

 すると、気づかなかったけど高い櫓があって、その上に鐘が吊るされていて男の人がその鐘を鳴らした。


 「嬢ちゃん達非難しな、モンスターだ。」

 「出たか、行くぞ。」

 「「 はい! 」」

 「あ、おい、嬢ちゃん達!」


 悲鳴がした方向へと走っていくと、2体のモンスターが畑作業をしている人へと襲い掛かろうとしていた。

 私とシャルルはそれぞれの個体へと向かった。

 遠目からでもわかる、ここのモンスターもかなり強力だと。

 なので、私達はすぐに覚醒状態へと移行した。


 ものの3分程で撃破焼却し、追撃がないかをルナ様が監視する。

 どうやら一旦はこれで大丈夫みたいだ。

 そうしてお店に戻ってきた。


 「驚いたねー、嬢ちゃん達強いんだ。」

 「あの、実は私達……」

 

 店主さんに私達の素性を話した。

 すると

 

 「おお、そうなんだ!それなら都市の連中も少しは安全になるのかもな!」

 「都市部にもモンスターは出現しているのですか?」

 「ああ、むしろこの街道よりも都市部外周のほうが出現率は高いね、特に北側がさ。」

 「そうなんですか。」

 「じゃ、あまり寄り道もしていられないね。ご馳走様店主さん。美味しかった!」

 「そうだね、行こうか。店主さんありがとう、またね!」

 「嬢ちゃん達も気を付けてな!」


 腹ごしらえと予期せぬ食後の運動を終えて、カルメンへと歩き出す。

 1時間もせずに都市には入れると思うけど、国王とラミウス様の妹さんの住む宮殿は都市部の西側にあるから、さらに時間がかかりそう。

 

 こっちのカルメンは城壁に囲まれた都市でかなり大きい。

 とはいえ、街の造りや建物なんかはあっちの世界の面影があったりして何か懐かしい感じもするんだ。

 門について入国の手続きをしようとしたところ


 「あ、その紋章は!」

 「もしかして、貴女達が!」

 「え?」

 「イワセからいらしたモンスターバスターの方ですね!お待ちしておりました!」

 「あ、は、はい。そうですが、モンスターバスターって?」


 初めて聞いたけど、私達ってそう呼ばれているのかな。


 「あ、これは失礼しました。私共は貴女方に敬意を払いそう呼称させていただいております。」

 「そ、そうなのですか。」

 「も、もしかしてイヤでしたか……」

 「いいえ!そんな事はありません、ただ、そんなニックネームみたいに言われたのは初めてなので。」

 「そ、そうなのですか。あ、こうしては居られません、さっそく国王の元へ案内します。私は近衛隊長のセルジオと申します。」

 「ディーナです。」

 「シャルルです、宜しくお願いします。」

 「ルナだ。そしてこいつはウリエルという。よろしくな。」

 「よろしく。」

 「はい!ではこちらに!」


 セルジオさんの案内で宮殿まで行く事になった。

 道すがら話を聞くと、ここ数か月の間にモンスターの襲撃が一気に増えたんだそうだ。

 国防軍はかなりの規模を誇っていたらしいけど、モンスターによって半数近くにまで減ってしまったらしい。

 周辺の国々も似たり寄ったりの状況なので、応援もままならず、仕方なくロマリア連邦へ助けを求めたんだって。

 とはいえ


 「あちらの大陸でも同じと伺っておりますので、正直な所まさか貴女方に来ていただけるとは思いませんでした。」

 「あちらはあちらで別の討伐隊を編成していますので、私達はこちらを優先させたんです。」

 「有難い話です。あ、もうすぐ着きます。」


 宮殿まで来た。

 結構な大きさで、外観は奇麗で何というか、荘厳な印象もうける。

 セルジオさん曰く、カルメンは南米大陸を代表する国なのでその象徴なんだって。

 

 私達はそのまま、セルジオさんの案内で宮殿へと入ったんだ。


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