第75話 モンスター退治は思った以上に大変


 オデッサから西北西へ行った所、ブラソフという所に着いた。

 シャルルが龍形態になり、私とルナ様はその上に乗っている。

 ウリエル様は既にワールドに入っている。


 「見えたよ、アレだよね!」

 「うん、もう兵隊さん達は……」

 「負傷者だらけのようだな。死者も数名いる。」

 「ッ!シャルル、行くよ!」

 「うん!」


 シャルルがモンスターの群れの中心まできた所で人形態へと姿を変える。

 同時に私はシャルルから飛び降りてモンスターの群れへと飛び込んでいく。

 ルナ様もそれに続き、まずはロムリアの兵隊さん達を退却させた。

 私達は覚醒一歩手前の状態で次々とモンスターへ攻撃を仕掛ける、んだけど……


 「ちょ、ちょっと厄介だね!」

 「何?こいつら!?凄く強い!」

 「お前達、動きをよく見極めろ!モンスターは連携しているぞ!」


 一体一体の強さは、確かに強いけどそれ程でもない。

 だけど、これまでよりも更に全体の統制が取れているようでお互いの隙を埋め合わせるような動きで襲ってくる。

 こんな動きは初めてだし、何より数が多いのが厄介だ。


 (これ、個々に戦っても分が悪いかも、なら!)

 「シャルル!」

 「うん、今行く!」

 「補佐するぞ!」

 「「 はい! 」」


 こちらも一塊になり個人戦闘からフォーメーションでの各個撃破へと戦術を変える。 

 一体、また一体と屠っていってるんだけど。

 なんで?

 数が、減らない?

 というか、増えてる?


 「ルナ様、これ?」

 「ああ、さらに厄介になったな。」

 「ディーナ、これ、斬るだけじゃダメみたい!」


 斬り倒した傍から、その死体からモンスターが再発生している。

 おまけに斬り離した腕や体から再生しているみたいだ。

 そのサイクルまでもこれまでのモンスターとは違っている。

 このままじゃ悪戯に敵を増やすだけ、よね。

 なら


 「サラマンダ様!」

 「ちょっと厄介だけど、行くよ、両方にあたしの力を分配するよ、シルフィード手伝って!」

 「オッケー、ウリエル!載せるよ!」

 《ああ!頼んだぜ!》


 精霊様達の力をヴァイパーとイーグルへと流し込む。

 斬ると同時に焼却するんだ。

 私とシャルルは、魔力をそれに集中させてモンスターを斬っていく。

 ルナ様は私達が討ち漏らした本体や欠片を片付けていってくれている。

 そうして倒していき、最後の一体になった。

 だけど、その一体、よくよく考えると最初から攻撃に加わっていなかった気がする。

 今もじっとこちらを見て動こうとしない。


 「な、なに、このモンスター……」

 「凄く嫌な感じがする……」

 「こいつ、もしや……」


 かつて聞いたことがある、『稀に出現する瘴気をまき散らす個体』かも知れない。

 それだけじゃない、強さも他の個体より高いみたいだし、何より何か思案しているようにも思える。

 知能があり高い戦闘能力をもつモンスター。

 これまで存在していない、いや、知られていない、のかも知れない個体。


 「とにかく、やっつけよう。」

 「うん、考えるのは後だね。」


 私とシャルル二人で攻撃をかける。

 やっぱりこれまでの個体とは動きが違うみたいだ。

 直線的な剣撃は素早い動きで躱している。

 なら……


 「シャルル!」

 「うん!」


 準覚醒から完全覚醒状態に高めて魔法と剣戟を同時に、それも二人で繰り出す。

 剣筋を変化させつつ、個体の至る所へと斬りつける。

 そうしてようやく最後の一体を沈黙させた。

 魔法を乗せた剣では燃え尽きない個体に、二人で強力な火の魔法をぶつけてようやくチリと化した。


 「何とか、終わったね。」

 「うん、でも、このモンスターちょっとおかしいよね。」

 「何というか、最後のやつはこの集団のボスみたいな感じ、よね。」

 「これは、またこれまでとは違う個体のようだな。」

 「ルナ様。」

 「ん?」

 「コア封印前のモンスターって、このレベルの強さだったんですか?」

 「うーん、その頃は私は直接やりあっていなかったからなぁ、よくわからん。が……」

 「??」

 「感じるのはそれに匹敵する、あるいはそれ以上のような気もする。」

 「あー、その意見はあながち間違いじゃねぇな。」

 「ウリエル様。」

 「強さ的にはその頃のモンスターに準ずるな。けど、最後の奴はダンチだ。かなり強いし、何より“瘴気”をまき散らしていた。」

 「その上、集団を纏めるほどの知能を持っている、か……」


 何やら、モンスターの進化という話が現実味を帯びている、というのは実感していたけど、それ以上に何かが起こっているような気もする。

 となると、カルメンの危機は予想以上なんじゃないかな。

 ひとまず私達はロムリアの兵隊さん達に報告した後、ラミウス様の所に戻った。



 ―――――


 ロムリアからさらに西にある辺境地グラズ。

 かつては都市があったと思われる場所だが、いくつものクレーターによって人が住むには適さない土地だ。

 その山岳にある小屋の中で、その老人は佇んでいた。


 (ほほう、見事なものだな……)


 その老人は、見えるはずのない遠く離れたロムリアでのディーナ達の闘いを見ていた。

 どうやって見ていたのか、それ以前になぜ見ていたのか……


 (そろそろルナやウリエルの助力も卒業しても良い頃合い、かも知れんのぅ。アズラはどう思っておるのか判らんが。)


 と


 「じいちゃん!帰ったよ!」

 「ほい!頼まれた酒だぜ!」

 「おお、おかえりじゃ、二人とも。」

 「ん?何ボケっとしてたんだ?」

 「酒が切れて動けなかったの?」

 「わしゃ蘇化子か。違うわ、遠くで何かあったようでの、それを見ていたんじゃ。」

 「ふーん……」

 「で、じいちゃんメシは?」

 「というかじゃ、その前にお釣りを返せ。」

 「え?無いよ?」

 「何じゃと!?」

 「だってその酒、高かったし。」

 「ついでに俺達も腹減ったから買い食いしたし。」

 「バ、バカ者!無駄遣いするなといつも言っておろうが!」


 「何言ってんだい、その酒こそ無駄の最たるモンじゃないか、なあ?」

 「そうだよじいちゃん、俺達は飲まないのにさ。」

 「う、ま、まぁ、良いじゃろう。というか、高い酒?」

 「ああ、店主がこれが今一番いい酒なんだって言ってたぜ?」

 「こ、こりゃ“ワイン”じゃないか、あれほどワインはダメだと言ったのに……」

 「ワイン?」

 「葡萄酒の事じゃ。はー、まぁ、仕方がないか。」

 「で、じいちゃん何みてたんだい?」

 「ああ、後々お前達の仲間になるだろう者達じゃ。お前達と同じくらい、いや、それ以上に強いぞ?」

 「えー、オレ達より強いって?」

 「それって勇者ってやつかい?」

 「どうじゃろうな。ところで……」

 「うん?」

 「お釣りで夕飯を買おうと思っていたんだがな、お釣りがないんじゃ今夜は夕飯抜き、じゃな、ははは。」

 「ははは、じゃねぇよ!」

 「じいちゃんイケズだな……」

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