第74話 ロマリア連邦の危機? 


 モンテニアル王国への挨拶のあと、女王様達と楽しく過ごした翌日、私達はエスト王国へ向かった。

 エスト王国への挨拶も済み、私達はそのままロマリア連邦の東端の国オデッサへとやってきた。


 オデッサは大統領府のある、いわゆる連邦の代表国でもある。

 現大統領のラミウス様は、トキワお兄様のご学友のご子息で、トキワお兄様とはとても親しくしている。

 ただ、国家運営に関してはかなり鋭く、連邦の国々のまとめ役としてその手腕はトキワお兄様も舌を巻く程とか。

 そうした国家運営についてトキワお兄様やワブレア王、ディノブ様ともやり合うんだけど、理にかなった哲学的とも言える意見の前にはみんな反論できないくらいらしい。

 それ故に国民からの人気や支持は絶大で、選挙では対抗馬が現れないくらいなんだって。

 とはいえ。


 「ご無沙汰しております、ラミウス大統領閣下。」

 「お久しぶりです。お元気そうで何よりです。」

 「ディーナさん!シャルルさん!会いたかったぞ!!」


 厳格な大統領とは思えないくらい、私達への態度は砕け切っているんだ。

 実はラミウス様とは彼の幼少期、ワブレアと共によくに一緒に遊んでいたんだ。

 二人ともイワセ温泉郷の唯一の大学校に同時期に留学していて、領主邸に滞在していたこともあった。


 「この度は私共の、モンスター討伐隊編成のご報告とその挨拶へと参りました。」

 「何卒よろしくお願い申し上げます。」

 「は、はい。というか、お二人ともその堅苦しい話し方は止めようぜ。今は執務室には秘書だけなので。」

 「ふふ、そうですね。」

 「こっちの方が話しやすいもんね。」

 「ところで、なんだけど、二人だけで全国を回るって大変じゃないのか?」

 「行動範囲は限られますけど、大変ってことは無いと思うの、今の所。」

 「それに、二人だけって事もないしね。」

 「あ、もしかしてルナ様とウリエル様が?」

 「その通りです。」

 「それにしてはお二人の姿がみえな……」

 「ここだ。」

 「わっ!」

 

 やっぱりというか、気配を消していたルナ様。

 ラミウス様の真後ろに立っていた。


 「いい男になったな、ラミウス。大統領が板についてるぞ。」

 「びっくりしましたよ。いや、ルナ様にそう言ってもらえると自信が湧いてきます。」

 

 ラミウス様、実はルナ様とウリエル様の大ファンでもあったりする。

 イワセ温泉郷へお忍びで来るのは、温泉に浸かりに、というよりもルナ様とウリエル様に会いに、という理由のほうが大きいみたいだ。

 ちなみに、ウリエル様は今ここには居ない。

 例によって都市の散策兼偵察に出ているからだ。


 「ところで、ロマリア連邦ではモンスターの被害状況はどうなんですか?」

 「そ、それなんだけど……」

 「まさか、拡大している、とか?」

 「実は、ですな。」


 ロマリア連邦では昨年あたりから西側でモンスターによる被害が多くなってきているんだって。

 各国の軍もその対応に追われていて、兵員不足も深刻化しているそうだ。

 ロマリア連邦各国には魔族も龍族も、そのハーフも居るんだけど、兵の中には割合として半数くらい、それも連邦の東側に比重が偏っているらしい。


 「それ故にデミアン王国とラディアンス王国、ネリス公国への応援要請を出したばかりなんだ。」

 「え?ウチには?」

 「いえ、流石にイワセには要請できません。そもそも兵力を持たない国じゃないですか。」

 「でも、兵じゃなくても対応できる者は居ますし、なにより私とシャルルに言って下されば……」

 「それはトキワ王にも言われましたし、シャヴォンヌ様の隊を出すとも言われました。ですが。」

 「そ、そうですね、現状各国でもモンスターの出現頻度が……」

 「その通りなんだ。だから、お二人がこうして遊撃隊として行動してくれると言うのはとても有難いと思ってしまったんだ。」

 「思ってしまった?」

 「いや、情けない話だけど、これは全世界の首長皆同じ意見でしてね、お二人に頼らざるを得ないのは少し申し訳ないとも思うんです、実際の所は。」

 「ラミウス様……」

 「プラム女王が大反対したのは良く解るし、私達としても気持ちは同じなんです。が、国を預かる身としては……」

 「そういう事ですか……でも!」

 「うん、ラミウス様、お気持ちはわかりましたが、どうぞ気になさらずに。その為の挨拶まわりでもあるんですから。」

 「シャルルさん……」

 「それに、いずれにしてもモンスター被害の鎮静化は我が家の使命でもあると思うんです、こういう形でなくとも同じ行動に出るつもりでした。」

 「そ、そう言っていただけると……」

 「ところで、だがな。」

 「え?どうしましたか?」

 「お前、別の悩みがあるだろう?」

 「か、かないませんね、ルナ様には。」

 「別の悩み、ですか?」

 「ええ、実は……」


 ラミウス様は、その悩みとやらを打ち明けてくれた。

 ラミウス様には妹がいて、その妹さんは南米大陸のとある国へと嫁いだんだって。

 その国とは姉妹都市提携を締結し、交流も大きく盛んになって国交は堅く結ばれているんだとか。

 でも、その国は今この大陸以上にモンスターの脅威に晒されていて、妹さんの身も心配なんだそうだ。

 そして、その国というのが……


 「そのコロンビアにあるカルメン、という都市に妹がいるんだけど、そこもとにかく危ないんだとの連絡があって……」

 「コロンビア……カルメン、ですって?」

 「それってつまり、あのコアから近い山間の大都市ですか?」

 「おや、ご存じでしたか?」

 「あ、ああ、いえ……うん、知っている。」

 「あそこか……」


 南米大陸、その北にある大都市のカルメン。

 言うまでもなく、あっちの世界で訪れた都市だ。

 何か不思議な縁があるなぁと思うけど、そうでなくとも南米大陸のコアに一番近い都市だし、いずれ赴くことにはなっている、んだけど……


 「ね、ねぇ、ラミウス様?」

 「うん?」

 「お願いが、あるの。聞いてくれるかな?」

 「どうした?ディーナさん、シャルルさん?」

 「えーっとね、ロマリア連邦の各国への挨拶回りは、これをもって一応の完了、という形をとってもらいたいの。」

 「そ、それは良いのですが、え?」

 「ラミウス様の妹さんがいる所へ急行する。」

 「な、なんだって!?」


 そんな話を聞いたんだ。

 これが今目の前にある問題として優先度が上がったんだ。

 もとより、あっちの大陸へも渡るつもりだったから、順序が入れ替わっただけとも言えるけど。

 それに何より、カルメンと聞いてじっとしては居られない。

 たとえ向こうの世界とは全く違うと分かっていても。


 そんな話をしている時だった。

 執務室に補佐官が飛び込んできたんだ。


 「大統領!モンスターです!」

 「何!何処だ!」

 「ロムリアのブラソフ近辺、モンスターはおよそ20体ほどが確認されました!」

 「く、くそぅ!今一番手薄な地域に、なんで!?」

 「シャルル。」

 「うん。」

 「ロマリア連邦大統領、私達が出向きます。」

 「ですので、挨拶はこれで、という事でお願いしますね。」

 「ディーナさん、シャルルさん……」

 「ラミウス、お前はここで大統領としての責務を果たせ。モンスターはひとまず殲滅してくるのでな。」

 「あ、ロムリアへはその旨連絡をお願いします。」

 「では、行ってきます。」


 こうして、私達は挨拶もそこそこにモンスターに対処する為、西へと向かった。

 途中ウリエル様が合流したけど、既にウリエル様は情報を得ていたみたいだ。


 とにかく、西へ急ぐ事にする。


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