第73話 挨拶回りも楽じゃないけど楽しい



 「それじゃ、気を付けるんですよ。」

 「たまには帰ってくるんだぞ?」

 「はい。」

 「ちょくちょく帰ってくるよ、お母様。」


 早朝、まだ陽も登り切っていない時間に私とシャルルは出発することにした。

 みんなには昨夜の内に、今朝早く出る事を伝え、本当についさっきまで話をしていたんだ。

 おかげで少し眠いけどね。


 「「 じゃあ、行ってきます。 」」

 「行ってらっしゃい。」

 「頑張れよ、二人とも。それと」

 「ルナ様、ウリエル様、宜しくお願いしますね。」

 「ああ。行ってくる。」

 「任せておけよ、じゃあな。」


 駅までの道を振り返らずに歩む私達。

 お母様達は、それをずっと見送っていたそうだ。


 「行ってしまいましたね、あの子達。」

 「何というか、寂しいと言うよりかはやっぱり応援したい気持ちが大きいな。」

 「ただ、少し心配は残りますね。」

 「そう、だな。というかだな、あの子達は本当にこのままで良いのかな?」

 「良く、は無いような気はしますが、でも、ねぇ。」

 「ま、言ったところでそれはあの子達次第ってのもあるしな。それに他の兄妹も同じだけど。」

 「みんな、タカヒロ様と同じで奥手なんでしょうね、きっと。」

 「……タカは奥手だったっけ?」

 「ふふ、いずれにしても良い人を見つけるのは難しいでしょうしね。」

 「そういう意味じゃ、私達は幸運過ぎた気がするな。」



 ハグロ駅で始発の列車に乗り込んだ。

 まず最初に向かうのはラディアンス王国の城だ。

 私達はまず、世界各国の首長の所へと挨拶へ向かうべきだと思ったんだ。

 ラディアンス、モンテニアル、エスト、ネリス、ロマリア連邦各国、デミアン、龍族の里、アインフリアン、フリーズランド、ジパング、と。

 所縁のある国だけでもこれだけあるから、結構な時間がかかるわよね。

 もちろん、その道中でもモンスター討伐は行うので、モンテニアル以降の国々へは列車ではなく馬車での移動が主になる。

 すでにラディアンスでは、その為の馬車を準備してくれているんだそうだ。

 

 ラディアンスの王都にはすぐに到着した。

 駅から王城までは数キロの道のりなので徒歩で向かう。

 駅前通りはもう朝市がたっていてそれなりに賑わっているんだけど、そんな中を私達は外観にフィルターをかけて通っていく。

 これで無駄に声をかけられることはないってのは良いよね。


 「シャルル、ちょっとお腹空かない?」

 「うん、朝ごはん食べて無いしねぇ……」

 「お前達、別に急ぐ理由もないんだ、腹ごしらえ位はしておいても良いんじゃないか。」

 「「 そうですよね! 」」

 「あ、ああ……」


 私達はとたんに目を輝かせて、とある屋台へと突進したんだ。

 アツアツに焼いたお肉とレタス、みじん切りの玉葱をパンで挟んだこの屋台の“ホットドッグ”が美味しいんだ。

 わりと濃厚でピリッとしたタレがまたいい味を出してる。

 

 「おじさんおはよう!」

 「ホットドッグ8人前ね!」


 やれやれ、とルナとウリエルは苦笑する。

 食欲旺盛なのは良い事だが、160歳とはいえまだこの二人は色気より食い気、なんだろうか。

 昨夜のアルチナ達との話を思い出す。


 (アルチナもシャヴィも、この討伐行脚に関しては心配していない、ただ、そんな二人は彼氏も作らずに女の子としての青春も送らずに過ごすつもりなんだろうか、と。

 二人は実年齢は160歳だが、人間の年齢に換算すれば20歳そこそこ、下手をするとまだ成人前くらいだ。

 精神的には実年齢と同じだが、その辺は私やウリエルでは良く解らない。

 もっと言えば、そういう恋愛とかいうものも、良く解らないのでアルチナとシャヴィの心配も、実は良く解らない。

 人を好きになる、というのは理解できるし、事実私とウリエルはアイツを好きなんだしな。

 うーん、良く解らない。)


 何かルナ様は考え事をしてたみたいだけど、4人で8人前をペロリと平らげて再び歩き出す。

 そうこうしているうちに城に到着した。

 と、

 城門にはなんとワブレア王自ら出迎えてくれた。


 「ディーナ姉様、シャルル姉様!」

 「ワブレア王!?」

 「お久しぶりです、ようこそおいでくださいましたね。ささ、どうぞ。」

 「あ、あの、王様?」

 「なぜ?」

 「何故も何も、私が出迎えずだれが出迎えるというのですか?というか、本当に久しぶりなので待ちきれなかったのですよ。」

 「お、王様……」


 王様のエスコートで、王様の執務室へと案内されたんだ。

 王様に会うのは4年ぶりくらいだなぁ。


 「ささ、ゆっくりしてください。ルナ様もウリエル様も!」

 「お前、相変わらずだなぁ。そういうトコ曾爺さんそっくりだぞ?」

 「そうだな、まるでラークそのものだ。が、そこが良いんだがな。」

 「王様、そんなお気遣いなんて……」

 「何を言いますか。というか、ここでは昔みたいにワブレア、と呼んでくださいよ。」

 「あはは、わかりましたワブレア。ところで、王妃様は?」

 「ああ、まもなく来ますよ。今茶を淹れているんですよ。」


 そんなこんなで、王と王妃との話になった。

 

 「では、これから各国へ挨拶回りに行くんですね。」

 「そうです。まず最初はここに。」

 「では、次はモンテニアル、という事ですか。」

 「そうです。モンテニアルも久しぶりなんですけどねー。」

 「そういえばその、姉様達の此度の件で、モンテニアルは大反対したんですよ。」

 「そう聞きました。でも、それも女王ならそうかなぁ、と納得しました。」

 「プラム女王は本当に姉様達、兄弟姉妹を好きですからね、凄く心配だったんでしょう。」

 「なんというか、その点では申し訳ないって気もしますけど。」

 「でも、私も気持ちはプラム様と同じでしたよ。姉様達がそんな危険を冒す事はないんじゃないかって。」

 「ごめんなさいワブレア。でも、私達がやらないといけないんです。それが、私達家族の使命なんですもの。」

 「そう言われてしまうと、やはり誰も反論できませんね。でもその分力の限り応援しますよ。」

 「ありがとう、ワブレア。」


 短い時間だったけど、話も終わり私達は次の訪問国へと向かった。

 ラディアンス王国では現状そこまでモンスターによる被害は出ていないけど、サクラお母様とローズお母様が直接兵の教導を定期的に行っていたので強者揃いとの評判が高い。

 なのでそこまで心配はしていなかったんだけど、それも今の状況では楽観視できないんだよね。

 何しろモンスターは進化してるし、数も増える一方なんだもの。


 ラディアンスを発って直ぐにモンテニアル王都に着いた。

 モンテニアルの城は駅からかなり遠いので、乗り合い馬車で向かう事になるんだけど……

 駅前には、なんと城からの迎えの馬車が来ていたんだ。






 モンテニアル王国。

 かつてはラディアンス王国とは姉妹国のような関係だったんだけど、現在はラディアンス王国の属国となっている。

 それは言ってみれば原点回帰とも取れるそうだけど、本当の理由は200年前の王様に世継ぎがなく、存亡の危機にあった事が理由としては大きいらしい。

 そして、公にはできない事情によってその危機は回避され、今に至る、のだけど。

 その公にできない事情っていうのが、これまた複雑なのよね。


 馬車へと案内され乗り込むと、そこには。


 「「 女王様!? 」」

 

 プラム女王がいた。

 女王自ら出迎えにきてくれたんだ。


 「おお!お前達!会いたかったぞ!」


 涙を流して抱きしめてくるプラム女王。

 御年200歳を超える人間、サクラお母様の妹君で、ローズお母様の姉様だ。


 「お前もかわんねぇな、プラム。」

 「とは言え、少し痩せたか?」

 「ルナ、ウリエル、そなたたちも久しぶりだな。」


 プラム女王は純粋な人間、なのにサクラお母様達と同じく、寿命が長くなっている。

 世継ぎのいないモンテニアルへと養子として入り、子を産んで王族の存続をしたんだけど。

 だけど、産まれてきた子は二人とも女の子、結果として女帝家系の王国になったんだとか。


 で、これが本当の秘密なんだけど。

 女王は婿を迎えてはいない。要するに一度も結婚はしていない。

 そして、その二人の子は、私達の妹なんだ。

 つまりは、そういう事。

 私達家族と、先々代のラディアンス王、モンテニアル王達しか知らない事だ。


 とはいえ。

 そうした秘密は、必ずどこかで漏れるというのも必然なんだろうね。

 この事はいわゆる『公然の秘密』という状態だ。


 「女王様、わざわざお出迎えくださるなんて……」

 「ほ、本当にすみません。」

 「ふふ、なに、わらわがそうしたかったからな。こちらへ来ると聞いてな、一刻も早く会いたかったんだよ。」

 「女王様……」

 「にしてもよ、お前二人のモンスター討伐に大反対したんだって?」

 「当然であろう。今でも大反対だ。なぜ二人にばかり危険で過酷な苦労を背負わせねばならぬのだ、とな。」

 「まー、だけどよ……」

 「うむ、わかっておる。心中は未だ迷ってはいるがな、やはりあの人の子だというのと、相当な強者に成長したと聞いたのでな、今では応援する事にしたのだよ。」

 「「 あ、ありがとうございます、女王様。 」」

 「ところで、今日はこの後まだ別の国へ向かうのか?」

 「いえ、今日はこちらで一泊して近隣の情報を集めようかと。」

 「そうか、なら今宵は宴だな。あの子達もそならたに会いたがっているぞ。」

 「リコとペルシアも元気なのですか?」

 「ああ、あの子達は元気過ぎてな、少し心配になるくらいだ。」


 その日はモンテニアルで楽しく過ごした。

 ラディアンスとモンテニアルでは、今の所モンスターの脅威はそれ程ないみたいで安心できた、かな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る