第67話 大陸間飛行!
アンデスの山に朝日が降り注ぐ。
美味しい空気を胸いっぱいに吸い込むと、頭も体もスッキリ爽やかな気分になる。
そんな感覚とは裏腹に、気持ちは複雑だ。
色々な事があって想い出も沢山できた、南米大陸とはこれでお別れになるからだ。
「あー、ほれ、泣くんじゃねぇよバカめ。」
「えぐッ、だ、だって、ウリエルさん……」
「あーもう、しゃあねぇなもう。ホセ、手を出せ。」
「うう、はい。」
別れが辛くて泣きじゃくるホセさんに、ウリエル様は何かを渡した。
7色に輝く、宝石?
「これをお前にやる。いいか、絶対に無くすなよ。」
「ウリエルさん、これは?」
「“この”アタイとはもう二度と逢えない、永遠の別れになる。」
「は、はい、ううぅ……」
「だがな、いつか“もう一人の”アタイと逢うかもしれねぇ。そん時はそいつにコレを見せるんだ。きっとお前の事を理解する。」
「え?もう、一人?」
「そいつはな、アタイ程優しくねぇ。言動に気を付けないとあっという間に殺されるぞ。」
「ウリエルさんに殺されるなら本望です!」
「あー、やっぱバカだな、お前。」
「ありがとうございます!」
「ホセさん、お世話になりました。ありがとうございました。」
「お別れするのは辛いけど、さようなら、元気で、ね。」
「ディーナさん、シャルルさん、ありがとう、俺、君たちの事は絶対忘れないよ。」
「うふふ、私達より、ウリエル様、でしょ?」
「あ、いえ……はい。」
「女将さんやボスさんにも、よろしく言っておいてくださいね。」
「はい!」
そんなやり取りを経て、私とシャルルは馬さんにもお別れを告げる。
馬さんたちは名残惜しそうに顔を寄せてくる。
ちょっと、寂しいなぁ。
馬さん達をホセさんに預け、私達は出発した。
ホセさんはいつまでも泣いていたけど、大きく手を振って笑顔で送り出してくれた。
本当に色々あった。
港町で悪徳馬商にカモにされたこと。
デビッドさんに頂いた美味しいコーヒー。
コアを確認できなくて残念だったこと。
馬さんたちとの道中。
覚醒できたこと。
鉱山村での一件。
優しい女将さん。
そして
決して忘れることはない、愛しい少年カルロ。
そんなかけがえのない出来事を思い出すと、ちょっと瞳が潤んじゃうなぁ。
だけど、南米大陸へ渡ったことはこれ以上ない成果を得られたと思う。
今飛んでいる事もそうだし、ね。
「ところで、お前にしてはいやにホセに優しかったな、ん?」
「う、うるせぇよ。しょうがねぇだろ、あんなに泣かれちゃよ……」
「ホセはまんざらじゃない、という事か?」
「あー、そうじゃねぇんだよ、何と言うかホセな、不器用な所がアイツに似てるような気がしてな。」
「あ、そうか、お前が惚れてるのはアイツだけだったな。」
「ば!な!んナニ言ってんだアホ!アタイはタカヒロを愛してるわけじゃ!」
「ん?タカヒロ?愛して?」
「ぐぬぬぬ……」
ちょっと、ルナ様がいぢわるしてる。
でも、ウリエル様のいう事も何かわかる様な気がする。
ところで
「ウリエル様、ホセさんに渡した宝石って、アレ何ですか?」
「ああ、あれはな、アタイ達の情報を記したメモリストーンってやつだ。この世界のアタイにしか解析できない、もう一つのアタイみたいなもんだ。」
「へぇー……」
「たぶんな、こっちの世界のタカヒロ達は南米に行くと思う。そん時にこの世界のアタイが居たとしたら、な。」
「確かに、この大陸に来るなら、あの都市に、そして女将さんと出会うような気がする。」
「そうなると、ホセさんにも逢うかもしれない、という事ですか。」
「まぁ、あくまで可能性の話だがな。」
「……お前、変わったな、いい意味で。」
「だからうるせーよ、もう……」
「うふふ、さて、上昇しますよ。」
「ああ、行ってくれ。」
シャルルは急角度で上昇を始めた。
私達は南米から太平洋を西に横断するので、風の抵抗が大きいらしい。
偏西風、というらしいけど相当な強さの空気の海流みたいなものなんだって。
その偏西風は少なからずシャルルの飛行の抵抗になるので、弾道飛行が負担軽減の手段の一つだという事みたい。
すでに空間魔法は展開済なので、上昇中でも音の2倍ほどの速度を出している。
徐々に地表が丸みを帯び空の色が青から藍色、そして黒に近い深い紺色になっている。
ムーン様によると、高度は10万フィートと言っていたけど、フィートという単位が分からない。
キロにすると30キロメートルくらいだって。
「地球って、本当に丸いんですね、それに、凄く青くて綺麗……」
「そうだな、宝石みたいな星だと、アイツは言っていたな。」
「宝石、か。巧い事言うな。」
「かつてな、私の名はこの星をイメージした名前だったらしい。」
「そういやそうだったな。ブルーって、マジでそのまんまの表現だな。」
「ああ、だが、それは私にとっては忌み名のようなものだ。今のルナのほうがしっくりくるな。」
シャルルは上昇を止め水平飛行に移る。
魔力や体力は大丈夫なんだろうか。
「シャルル、大丈夫?」
「うん、今はまだ全然大丈夫、だけど……」
「だけど?」
「結構抵抗が大きい気がする、かな。これ、体力持つかな……」
「無理しないで、疲れたら一旦どこかに降りよう、ね。」
「そうだね、でも、太平洋って島がほぼ無いよね……」
「そういえばそうだね……」
少し、思った以上に負荷がかかっているみたいだ。
飛びはじめてすぐに長距離飛行っていうのも心情的にもキツイのかも知れないなぁ。
とはいえ、ここからは降下飛行だ、少しは負担が減るかも知れない、かな?
「ねえディーナ、今ってどの辺なのかな?」
「えーっとね、フェスタ―様によるとハワイって島の手前だって。」
(全体の道程の4分の1だな。)
「まだ25%ですか、けっこう厳しいですね。」
(まぁ、さすがに太平洋横断は距離がありますからね。偏西風からは外れているけど影響は強いですね。)
飛び立って2時間程経過している。
できるだけたらふく朝食を摂ったけど、やっぱりノンストップは厳しいのかも知れない。
やっぱりどこかで一休みは必要かも。
「ねぇシャルル、無理しないでキツイ時はすぐに言ってよ?」
「うん、でも、できれば早く帰りたいし、ね。」
「だけど……」
「あ、大丈夫だよ、無理はしないからさ。」
そんな感じで緩い降下で距離を稼ぐんだけど、速度は落とさないので結局は魔力消費はそのままみたいだ。
4時間程飛び続けているシャルルも、けっこうきつくなってきたようだ。
何より
「お腹すいたー……」
「大丈夫?何処かにっていっても、島らしき所が無いよ。」
「も、もうちょっと我慢できるから、頑張る!」
「シャルル……」
そう言ってシャルルは再び弾丸飛行をすべく上昇する。
ムーン様によれば、あと2時間弱で大陸には付くはず、と言っていたけど。
シャルルがお腹空いたって言う時は、本気で腹ペコで動けなくなるレベルなのよね……
と、さっきよりも低い所で水平飛行に移ると、姿勢がふらふらと不安定になった。
「ちょ!シャルル大丈夫?」
「お、おなかー、へったぁー……」
シャルルはお腹をグウゥーと鳴らして、少し目も回っているみたいだ。
「が、頑張って!もうすぐジパングが見えるはず、まずはそこに軟着陸しよう!」
「う、うん……」
高度はみるみる下がっていく。
滑空状態みたいで、もはやシャルルの体力というか、空腹は限界突破しているようだ。
「みんな、ごめんねー……」
そしてシャルルは、なんとかジパングに辿り着いたけど、とある山頂へと激突した。
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