第62話 迷い、そして……

 あんな話を聞いてしまった今。

 私は襲い来るモンスターに、今までの様に対処できなかった。

 シャルルも同じだった。

 でも

 対処しないと村人はともかく、ロザさんやクラウディアさんみたいな人達に危険が及んでしまう。

 やっつけないわけにはいかない。


 襲い来るモンスターは4体。

 先日の個体と同じ姿のモンスター、という事は、このモンスターの元はあの奴隷の人達……


 そんな想いが、私とシャルルの動きを鈍くする。

 覚醒状態にあっても、体が思うように動かない瞬間があった。

 そんな状態での戦いで、隙ができないはずが無かった。


 「シャルル!」

 「くッ!!」


 シャルルの背後から襲ってきたモンスターに、シャルルは反応が遅れる。

 それに加え、反撃も逡巡していまっている。

 

 「あがあッ!!」

 「ディーナ!」


 シャルルの体を突き飛ばした所で、モンスターの鋭い爪が私の背中を引き裂いた。

 痛い。

 とても、痛かった。

 

 「ちッ、こりゃダメだ、仕方ねぇな。」


 ウリエル様はワールドに宿ったままで実体化した。


 「お前ら、少し休んでろ。コレはアタイが処理する。」


 いつもと様子が違うウリエル様。

 体全体から怒りと悲しみなんだろうか、そんな気を放っている。

 いつの間にかウリエル様は両手にヴァイパーとイーグルを掴んでいた。




 結局、モンスターはルナ様とウリエル様が片付けた。

 私とシャルルは、攻撃する事が出来なかったんだ……


 「さ、引き上げるぞ、ディーナ、シャルル。」

 「あー、何も言わなくていい。帰るぞ、ほら、ヴァイパーとイーグル、持っとけ。」

 「あ、」

 「は、はい……」


 わかっている。

 わかってはいるんだけど。

 文字通り死者に鞭打つような気がして、何もできなかった。


 「あのな二人とも、お前らの考えている事は解る。だけどよ、そこに答えはないぞ?」

 「まぁ、悩むだけ悩むといい。だが、まずはお前の治療が先だがな。」


 背中の傷が酷く痛む。

 さっきシャルルが治癒の魔法をかけたのに傷が塞がらない。

 ひとまず小屋に戻り、傷の手当てをする事にした、んだけど……

 そのさなか、村長さんをはじめとした村人多数が小屋へとやってきた。

 

 「はッ、やられて怪我をしたか。まぁ、一応アレを撃退したことには感謝する、が……」

 

 何か、いつもと態度というか、私達への対応が違っている気がした。


 「お前達、村の南側を見たそうだな。それを見られたとあってはこの村から出すわけにはいかないんだ。」


 そう言うと、村人は武器を持ちつつ、何あれ?足枷と、手枷?


 「お前達にはここに死ぬまで居てもらおう。どんなに強くても、怪我をした今ならお前達を拘束できる。」

 「な、何を言って……」

 「抵抗できなくなるまでここに幽閉して、そうだな、美味そうな体だし、ワシの慰み物にでもしてくれる、服従するように、な。」


 小屋に入ってきた村人の他にも、小屋の外には大勢の村人がいて取り囲んでいる。

 どうやら村の秘密がばれたと思ったのだろう、まぁ、バレたんだけど。

 それで、態度を一変して私達を拘束する、という事なんだろうな。

 

 何だろう。

 とても頭が冷静になっている。

 身体が、思考が、とても冷たい。

 冷たいけど、熱い不思議な感覚。

 ふつふつと、怒りが沸いてきているみたいだ。

 村長さんや村人のしている事が、とても気持ち悪く、滑稽に思えてきた。


 気が付くと、いつの間にかルナ様が居なくなっている。

 ウリエル様は凄く冷静に、小屋の中の村長さんと村人を眺めている。


 そして、何か紐が切れるような、「プツン!」という音が聞こえたような気がした。

 あ、これ、もしかして……


 「ディーナ、シャルル、お前らそこの二人連れて上に行け、今すぐだ。」


 ひどく冷淡に、抑揚もなくそう告げるウリエル様。

 声に出さず頷く事で返事をして、ロザさんとクラウディアさんを伴なって2階へと行こうとした。


 「待てそこの女、何処へ行くん……」

 

 村長さんが何か言ったけど、それは最後まで言葉にならなかったみたいだ。

 階段の前に、とても表現できない笑みを浮かべたウリエル様が立ちはだかったからだ。

 私とシャルルはその声を無視して、ひとまずロザさんとクラウディアさんだけを2階の寝室へと押し込んだ。


 「な、何だ、貴様!」

 「あぁ、黙れクソ野郎が。てめぇらの最後にいいモンを見せてやるぜ。アタイがなぜ悪魔を自称していたか、それを今から教えてやる。」


 と、そんな時に外にいた村人全員が小屋の中へ押し寄せてきた。

 広くない小屋の中は、すし詰め状態になっている。

 

 「な、なんだお前達は!なぜ無理に入ってくる!?」

 「いや、女神様が、ここに入れと……」

 「な、何を言っているんだ、バカか?」

 「でも、女神様が、ああ、女神様……」


 ルナ様は、外に居た村人に全力で“魅了”の能力を浴びせて思考を歪ませたみたいだ。

 こうなると、ルナ様に魅了された人間はルナ様の思うがままだ。


 すると、二人の村人が階段を上がろうとした。

 私達の事を捕まえる為なのか、狭い所から逃れたいのか、は解らないけど。

 それはウリエル様に止められた。

 ウリエル様の右手は、村人の首を喉輪状態で掴んでいて、左手は別の村人のこめかみを掴んでいる。


 「へへへ、いい加減にしろよテメェら! さあ! 望み通り天国に連れて行ってやるぜ!」


 狂気を含んだ、怖い顔で笑うウリエル様。

 そう言うと、右手の人は頭と胴体がブチンと千切れ、左手の人の頭は潰したトマトのようにグチャグチャになった。


 それを見た村人の何人かは小屋を出て逃げようとしたけど、そこにルナ様が居た。

 ルナ様も、ひどく冷たい笑みを浮かべていた。


 「どこへ行く、お前達は地獄に行きたいんだろう?」


 ルナ様も、その村人達の頭を鷲掴みにすると躊躇なく握りつぶした。

 ここでようやく、村長さんを始めとしたここにいる村人は、何が起こっているのか理解し始めた。

 でも、もう、遅かった。

 床、壁、天井、つまり部屋中が血で真っ赤になり、そこら中に肉片や骨が散らばっている。

 ただの一人も、生存者は居なかった。

 というか、一体たりとも人の姿を残していなかった。


 あれだけの惨劇を繰り広げたにも関わらず、ルナ様もウリエル様も、返り血を一滴も受けていない。

 そして


 「ディーナ、シャルル!そこの二人を担いで窓から外に出るんだ。荷物も忘れるな!」

 「は、はい!」


 ルナ様はそう叫ぶと、ウリエル様と共に小屋から外に出た。

 小屋の外で合流すると、ルナ様とウリエル様は魔法で小屋に火を点けた。

 オレンジ色の火ではなく、青白い炎が小屋全体を焼く。

 

 「すまない、ディーナ、シャルル。私は、我慢の限界だった。」

 「アタイもだよ。ここまでキレたのは何百年ぶりか、だ。」


 気づくと、洞窟周辺に残っていた村人は、その光景を見て散り散りに逃げていった。

 たぶん、この村から、いいえ、私達から逃げたんだろう。


 「一先ず、だ。気を落ち着かせたい。村長の家に行こう。」


 怯えまくっているロザさんとクラウディアさんを伴なって、村長の家へと歩いて行ったんだ。

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