第61話 村の正体


 それから2日程経った。

 その間モンスターの襲撃は無く、私とシャルルはイメージトレーニングで本当の姿へのトリガーを習得できた。

 まぁ、変化するつもりはないんだけどね、今の所。

 その過程で、私もシャルルも個人が持つ特殊能力の事を少し理解できたので、今はそれを訓練しているところだ。

 私の能力は“使い魔”と“空間移動・魔法”、シャルルは“龍形態への移行”と“飛行能力”だ。

 

 「それってな、お前らの母親が持ってた能力だぜ。」

 「そうなんですか?」

 「ああ、アルチナは、まぁお前もそうだけどヴァンパイアだ。それってな、その種族だけが持つ特別な力なんだってよ。」

 「ヴァンパイア族……」

 「シャルルのそれも、だな。シャヴィやピラトゥスと同じだ。だけどな」

 「だけど?」

 「お前ら二人のその力は、母親のそれよりも強力だぜ。アイツの血が合わさってな、相乗効果を生み出しているみたいだ。」

 「お父様の血……」

 「お父様……」

 

 そして今、私は早速“使い魔”を使役する訓練をしてるんだ。

 使い魔はかなり便利で、人間が使い魔自体を認識することはない。

 それは精霊様たちと同じで別層位で行動するからだ。

 もちろん、現実世界での顕現もできるけど、それは使役する目的毎に使い分ける。

 使い魔の情報は、直接私の脳裏に入ってくるんだ。

 でも、それで脳の処理が混乱することは無く、使い魔の見聞きする事は私が今見聞きしているものとは別で認識できる、という不思議な感覚だ。


 しばらく村中を使い魔で探索していた。

 すると、村の南側にある崖の所に、大きな建物と洞窟があった。

 その大きな建物の隣には粗末な長屋がある。

 

 「こ、これ……」

 「ディーナ?」


 粗末な長屋には、奴隷?なのか、やせ細った男女が横たわっていた。

 たぶん村人なんだろう人が、その男女を足蹴にしたりと手荒く扱っている。

 と、大きな建物には洞窟から石ころみたいなものが奴隷と思われる人によって運び込まれている。


 ……何?これ……


 一旦、使い魔を引き揚げさせる。

 何か、凄く嫌なものを見たような気がする。

 

 傍らにロザさんとクラウディアさんが居るので、流石にこの話は声にだせない。

 なので、フェスター様とムーン様を介してシャルルとウリエル様と念話する。


 (あのね、何か奴隷みたいな人達が沢山いた。)

 (奴隷っていうと、ロザさんみたいな人?)

 (ううん、もっとひどい扱いで重労働させられているみたいな感じ?)

 (えー?それって、何してんの?)

 (何かね、洞窟から石ころみたいなものを運んでた。)

 (それって、前にルナ様が言っていた鉱物じゃないの?)

 《こりゃ確定だな、この村は貴金属採掘をしてる村だな。それも奴隷を使って、な。》


 そこに、ルナ様が帰ってきた。


 「ルナ様、お帰りなさい。」

 「ああ。」


 少し、ルナ様の様子がいつもと違うと思った。

 すると


 「おい、ロザとクラウディアと言ったな。お前達に話がある。」

 「は、はい……」

 「何でございましょう……」

 「単刀直入に聞く。お前達、ここが無くなったら行くあてはあるのか?」


 いきなりだった。

 でも、どういう事なんだろう?


 「私は……」

 「あ、あの、それは……」

 「そう、か。わかった。無いんだな。」

 「「 ッ!! 」」

 「ディーナ、シャルル、ここはな、銀鉱山だ。この村は銀の採掘と精錬で糧を得ている。」

 「やっぱり……」

 「そして、だ。奴隷を使って掘り出すんだが、その奴隷は使い捨てにしている。」

 「え!?」

 「洞窟の向こう、沼地に腐った死体が溢れんばかりに捨てられている。」

 「そ、そんな……」

 「ロザ、クラウディア、お前達はそれを知っているな?」

 「……」

 「まぁいい。それで、だ。こっちが本題だ。」

 「こっち?」

 「本題?」

 

 ルナ様は、一呼吸置いて


 「先日のモンスター、あれはここの死体から発生した個体だ。」

 「「 ええー!? 」」


 ルナ様は驚愕の事実を話し始めた。


 「無残に死ぬまでこき使われ捨てられた人間の、憎しみや悲しみといった怨が、そのままモンスターへと成形されている。」

 「それって!」

 「ああ、この世界にコアは無い。が、そういった思念や怨がそのままコアと同じ事をやっている。」

 「じゃ、じゃああのモンスターは!?」

 「この場所固有のモンスター、と言っていいだろう。」


 つまりはこういう事だ。

 この世界のモンスターは、コアを介さずに人間の悪意を始めとした負の面がそのまま物質化した個体、という事みたいだ。

 言い換えれば、悪意そのものはそのままとして、その悪意によって無念のうちに亡くなった人の怨念や無念も、モンスターとして成形される、という事。

 という事は、先日のモンスターは、その悲しい運命をたどった人達の想い、憎しみや無念の残滓という事……


 「そ、そんな……」

 「ただな、発生の要因はそうであっても、モンスターであることには変わりない。奴らには既に生前の記憶はない。」

 「で、でも、恨みがあってここを襲撃しているんじゃ?」

 「そこは判らんが、恐らくはそうした恨みや憎しみの根源がここ、という事だけはインプットされているのだろうな。」

 「そんな…それじゃ、ここでなくなった人達は救われない……」

 「あ、あのな二人とも、何度も言うが、これが人間の本当の姿なんだよ。」

 「だからこそ、アイツはこんな世界を否定したんだ。この世界に飛ばされたアイツは、尚更その思いは強いだろう。」

 「……」


 結局のところ、この村がモンスターに襲われるのって、自業自得って事、だよね。

 村人自らモンスターを生成する原因を作り、それに気づいていない。

 そして、奴隷のような扱いを受け使い捨てにされた人達。

 その人達って……


 「ロザ、クラウディア、お前達は奴隷として買われたのか?」

 「……あ、あの、」

 「正直に話すんだな。言っておくが、この村はもう先がない。お前達は殺されるぞ。」

 「先が、無い?」

 「どうなんだ?」

 「は、はい。私達は大陸東の貧しい村で奴隷狩りにあい、ここまで売り飛ばされてきました……」

 「こ、この村の元々の住民は、すでに全員殺されています……」

 「やはりな。そうか、すまなかったな二人とも。」

 

 ルナ様は少し悲し気な、それでいて怒りを含んだ表情を浮かべている。


 「ルナ様、これってどういう……」

 「ディーナ、シャルル。これからこの村で起こる事は、単純に私個人の思惑でする事だ。」

 「え?」

 「できればお前達には見せたくない。どうやら私にも、我慢の限界があるようだ。それに私の過去が、その想いに拍車をかけている。」

 「そりゃ近親憎悪、みたいなモンか。」

 「そうかもしれん……。」

 

 その時、再びモンスター襲撃の報が入った。


 「話は後だ、一先ずはモンスターを片付けよう。」

 「ああ。」

 「は、はい……」

 「で、でも……」

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