そんな私はヴァンパイア

第60話 モンスター退治は気持ちのいいものじゃない

　私達は村の中心部から少し離れた場所にある２階建ての小屋に案内された。

　「この家は自由に使っていい、何か必要なものがあればこの二人に申し付けてくれれば良い。」

　「は、はい。」

　「それと、だ。アレが出たらすぐに対処するようにしてくれ。それと、あまり村の南側には近寄らないようにな。」

　「わ、わかりました。」

　「ではな。ロザ、クラウディア、わかっておるな。」

　「はい、旦那様。」

　「はい、ご主人様。」

　それだけ言って、村長さんは行ってしまった。

　とりあえずはここでしばらく滞在、になるのかな？

　「さて、ひとまずこれからの事を確認しておこう、それで、だ、ディーナ、シャルル。」

　「「　はい。　」」

　「ここでの事は全て、私とウリエルに一存させてほしい。というか、お前達にはあまり直接関わってほしくない。」

　「そ、それって、どういう事ですか？」

　「ここはよ、人間の汚ねぇ部分だけで成り立ってるような所だ。その存在すべてがな。」

　「だから、お前達にはそんなモノに触れて欲しくない。そんなモノは私とコイツで充分あしらえる。」

　「要するに、だ。汚ねぇ相手には汚ねぇ対応が必要ってことなんだよ。」

　「そ、そうなのですか……」

　「ああ、お前達がここの人間に感化でもされたら、カルロも悲しむ……」

　「ルナ様……」

　私もシャルルも、この世界に来て人間の負の面を目の当たりにしてきた。

　それは、元の世界では殆ど知る事のない人間の本当の姿、なんだと思う。

　だけど

　「ルナ様、ウリエル様、ここでの方針は解りました。」

　「でも、私達も一緒にやらせてください。」

　「お前達……」

　「私達は、そんな負の面もきちんと知らないと、というか」

　「関わった以上、傍観できません。」

　「うーん、だけどよ、きっとお前らが思う以上に汚ねぇぞ、こういう類の輩は。」

　「それでも、です。きちんと向き合わないといけない、そう思います。」

　「私達の最終目的は、そうした負の面を浄化してくれているコアなんですもの。」

　「そう、だな。わかった。ただし、全ての指示は私が出す。それは理解して従ってくれ。」

　「「　はい！　」」

　「それで、だ。」

　ウリエル様は立ち上がり、私達を見る。

　「お前らさ、覚醒したって事は本来の姿にも変化できるようになったんだろ？」

　「え？」

　「本来の、姿？」

　「ああ、この村の入り口でモンスターを相手にした時、少し体がおかしくなかったか？」

　「そういえば……」

　「何か、変化があった感じがしました。」

　「アルチナとシャヴィもな、普段の姿は仮初なんだ。本当の姿って、お前ら見た事はないだろ？」

　「はい。」

　「お母様の、本当の姿……」

　「とりあえず、だ。私とウリエルは情報収集に出かける。お前達は、その姿にいつでも変化できるようにイメージトレーニングをしておくんだな。」

　「ああ、フェスターとムーンが導いてくれると思うぞ。な？」

　（そうだね、深層心理まで触れれば行けると思うよ。）

　（制御の仕方も、大体だけど知っているからね、心配いらないよシャルル。）

　「ムーン様、ありがとうございます。」

　ルナ様とウリエル様は、そのまま小屋を出て行った。

　小屋に残ったのは私達とロザさん、クラウディアさんだ。

　「あの、ロザさん？」

　「は、はい。」

　「ロザさんはこの村の出身なんですか？」

　「い、いいえ、私は……」

　「クラウディアさんも、ロザさんと同じ？」

　「あ、あの、私達は……」

　「失礼かもしれませんが、二人ともあの村長さんの、その、従者なんですか？」

　「……ごめんなさい、その、しゃべるなと念を押されていて……」

　という事はビンゴって事よね。

　確かにこの世界、奴隷制度や人身売買も普通に行われているって言ってたっけ。

　もしかして、というよりも絶対だと思うけど、二人は私達の監視役、その上それを含めて別の監視役も居るって事よね。

　まぁ、それは良いんだけど。

　「ちょっと、良いですか？」

　「は、はい。」

　「あなた達二人には隠す必要はないと思うので言っちゃいますが」

　「ディーナ、それ……」

　「シャルル、ここで行動する以上、隠している意味はないと思うんだよ。」

　「だ、だけど……」

　「どのみち、モンスターと戦いになれば分かっちゃうと思う。」

　「そ、そうかも」

　「あ、ごめんね、あのね、私達は人間じゃないんだ。」

　「え？」

　「に、人間じゃない、のですか？」

　「うん、何か、というのはまぁ今は言わないけど、びっくりしないで欲しいの。それと」

　「この事は秘密に。村長への報告では伏せておいて欲しいの。」

　「な、なぜそれを……」

　「うーんとね、ぶっちゃけバレバレだしね。」

　「あなた達二人にはお世話になるんだし、せめて私達と居る間だけは普通にしていて欲しいの。」

　「……は、はい、わかりました……」

　とはいえ、そうは言っても秘密なんて無理な話かもしれない。

　あの村長の命令が最優先なんだと思うしね。

　と、ルナ様とウリエル様は帰ってきた。

　「行くぞ、出た。」

　「「　はい！　」」

　ルナ様の言葉を聞いて、すぐさまワールドを装備し私達は出撃した。

　村の北西方向1キロくらいに、数体のモンスターを確認した。

　そのモンスターは、さっきの個体ともまた違う姿をしていた。

　「な、何？あれ！」

　「あれもモンスターなの！？」

　「ああ、ここのモンスターは少し特殊なのかも知れないな。レベルも段違いだ。」

　「あれ、下手すりゃアーマーより強力だぜ？」

　「強さがインフレしてる……」

　「でも、やるだけ、だよね。」

　モンスターは迷わず、真っ直ぐにこの村を目指している。

　接近するにつれ、その数と容姿、強さがだんだんと明らかになってくる。

　「頃合いだ。ここも各個撃破だ、いけるな？」

　「「　はい！　」」

　「行くぞ！」

　モンスターは５体、その姿は岩でできた獣のような姿だ。

　体表面が堅いんだろうか、とはいえヴァイパーに敵の堅さは関係ない。

　モンスターへ接敵する直前に、私とシャルルは覚醒状態になった。

　すべてがゆっくりとスローモーションになる。

　感覚が研ぎ澄まされる。

　そして、接敵した。

　「とりあえずはこんな所だな。」

　「このモンスター、少し今までのとは違う感じがしました……」

　「そうよね、なんというか、あのイヤな感じがしないというか……」

　「強さはこれまでで最強のような感じでしたけど、何か凄く違和感があります。」

　「そうだな、それは私も少し感じた。」

　《よー、これ、本当にモンスターなのか？》

　「……何とも言えんが、モンスターであることは間違いない、と思うな。」

　ひとまず焼却処分をして、村長へ報告した後に小屋へと戻った。

　騒ぎを聞いて集まっていた村人の冷たい、それに敵意にも似た視線をヒシヒシと感じながら。

　「これは、少し調べる必要があるな。」

　「モンスターを、ですか？」

　「ああ、あんな気を放つモンスターというのが引っかかる。」

　「あの、何というか、強く感じたのは憎しみの感情…みたいな感じでした。」

　「そもそも、だ。コア云々は置いといてモンスターってのは人間の負の面の塊、で間違いないんだ。

　でもよ、ここのモンスターはその生成プロセスや条件ってのが、少し違うんじゃねぇか？」

　「そう、かも知れませんね。コアがないのなら、どうやって、という所も謎ですし……」

　「探ってみる。ウリエル、二人を頼む。」

　「ああ。」

　なんとなく、だけど。

　ここのモンスター退治は、何か凄く嫌な感じがする。