第59話 「人間」の村は居心地が悪い

 モンスターは6体も居た。

 でも。

 今まで見たモンスターとは様子が違っていた。

 岩のようにごつい形もそうだけど、何より変な黒い霧のようなものが纏わりついている。

 そして、肌で感じる。

 これまでのモンスターよりも、アーマーよりも、ケタ違いに手強いって。


 「シャルル、これバラバラにやっつけるのはちょっと」

 「うん、一体ずつ、二人で挑もう!」


 体が戦いに備えて変化していくのが判る。

 姿が変わる訳じゃないけど、表現のしようがない変化だ。

 モンスターに向けてダッシュすると、周囲はやはりゆっくりとスローモーションになっていく。


 最初の一体へと攻撃を仕掛ける。

 モンスターはこちらに気付いて反撃をしようとするけど、その前に斬り刻む。

 ヴァイパーとイーグルに魔法を纏わせているので、斬った傍からモンスターは焼却された。

 それに感づいた他のモンスターは、一斉にこちらへと向かってくる。

 私とシャルルは、それに対してやはり一体ずつ同じように攻撃しては焼却していく。


 だけど明らかにこのモンスターは今までのモノと違う。

 あの黒い霧のようなものも、何かは気になる。

 

 「なあウリエル、あの二人、見違えたな。」

 「ああ、もう完全に覚醒状態を自由に引き出せてるみたいだな。」

 「とはいえ、あのモンスターは何だ?」

 「お前も感じたのか。正直、わからねぇな。ただ、あの“瘴気”の塊みたいな感じはする。」

 「……」


 最後の一体を消したところで、周囲は静かになった。

 村の方を見ると、大怪我を負った人がいる。いるんだけど……

 村人の、私達を見る目がなぜか冷たく、嫌な者を見るような感じだ。

 気のせいだと自分に言い聞かせ、怪我人の治癒をしようと近づくと


 「来るな!」

 「あっちへ行け!」

 

 村人は一斉に私達に拒絶の言葉を投げかけてきたんだ。


 「で、でも、怪我人が!治療をしないと!」

 「寄るな!余所者に治療なんかさせられるか!」

 「とっとと消えろ!」


 なんというか、物凄く排他的な感じがした。

 すると、一人の初老の人が歩み出てきて


 「お前達、静かに。助けてくれた人にそう言うものではないぞ。」

 「村長、でも!」

 「お嬢さんたち、気を悪くせんでくれ。この者達も悪気があるわけじゃないのでな。」

 「そ、それは良いのですが、怪我人が……」

 「それは大丈夫だ。せっかくなんだ、礼をするのでワシの所に来るがいい。」

 「は、はい……」


 (ね、ねえ、ディーナ、何か変な感じじゃない?)

 (そうよね、でも、来てくれっていってるし、ひとまず行ってみようよ。)

 (そ、そだね……)


 ルナ様とウリエル様も一緒に、村長さんの家に招かれた。

 というか、あんなに沢山の大怪我人を放置してて良いのかな?

 テーブルへと促されたので私達は座る、と、女性がお茶を淹れて出してくれた。

 女性の首には、何? あれ……首輪?

 

 「ひとまずアレの襲撃から守ってくれて礼を言う、ありがとう。」

 「は、はい。」 

 「あの、この村はよく襲われるのですか?」

 「ああ、時折こうして襲撃を受ける。その度に村人全員で戦うのだが今回のように多数のアレが襲ってきたのは初めてだ。」

 「そう、なのですか……」

 

 何となくだけど、違和感が半端ない。

 それ程大きな村じゃないみたいだけど、何というか中途半端に豊かな感じがする。

 家財道具やこのティーカップなんかも、けっこう高価なものに思える。

 それに、この女性、もしかして、奴隷?

 何だろう、とても雰囲気も居心地も悪い気がする……


 「助けてもらった上にこんな事をお願いするのもなんなんだが……」

 「はい?」

 「君たちは相当強いようだね、どうだろう、アレの退治をお願いできまいか?」

 「退治、ですか?」

 「礼金なら弾む。しばらくの間でいい。ワシらにはアレに抗う術がないのでな。」

 「村長とやら、つまりは私達に用心棒をしろ、と?」

 「その通りだ。寝床も食事も提供してやろう。どうだ?」


 どこか上から目線に思えるのは本当に気のせいなのかな?

 礼金を弾むって、この村そんなにお金持ちなんだろうか?

 見たところ、農業をしているようにも見えないし、村人が何を生業にしているのかもよく分からない。


 「あ、あの、私達はこれから帰らなくてはならない事情もあるので、少し相談させてください。」

 「そうか、では、今夜には返事を頂きたい。今日はここに泊まるといい、おい、ロザ!」

 「は、はい、旦那様……」

 「この方たちを部屋へ案内しろ、その後は夕食の準備だ。」

 「わかりました。」


 ロザさんって言うのね、この人。

 というか、気が付くと大勢の村人が遠巻きに村長さんの家を見ている。

 なんだろう、すごく気持ち悪い……


 ロザさんに案内され、2階の客間みたいな所に通された。


 「こちらに、なります……」

 「ありがとうございます、ええと、ロザさん。」

 「そ、そんな、私にありがとうなんて……旦那様に聞かれたら、また……」

 「また?」

 「あ、いいえ、それでは失礼します……」

 

 何か凄くおびえていたような感じ。

 あの人、間違いなく奴隷として扱われている。

 旦那様にって、もしかして折檻されているのかな。


 「ま、それはそれとして、だ。ここは人間が人間らしく生きてる村だけど、少し、な。」

 「ああ、ちょっと特殊な人間の集まり、みたいだな。」

 「特殊、ですか?」

 「そうだぜ。アタイはああいう連中をよく知っている。昔の話だがな。」

 「ここの人間は、己が欲に忠実な、いわゆる強欲に支配されている人間の集まりだ。」

 「なぜ、それを?」

 「こんな人も通わぬ寂れたような場所の村に、なんであんなに人が居る?なんでこんな立派な屋敷がある?」

 「そ、それ、私も凄く違和感を感じました。」

 「で、だ。よそ者を近づけさせない、放っときゃ死んじまうような怪我人を放っておく、奴隷までいる。どう考えても普通じゃねぇだろうよ。」

 「恐らく、だ。この村は鉱物で儲けているかもしれない。」

 「鉱物、ですか?」

 「ああ、それも、宝石か貴金属の類だ。」


 つまりは、こういう事だ。

 村人同士の結束も薄く、村長が唯一の絶対権力者という事だ。

 というのは、流れ者やお尋ね者、一攫千金を狙う者が集まって形成されている村の可能性は高い。

 その宝石だか貴金属は取れるのだろうけど、人が多ければ分け前はその分減る。

 だから、よそ者がこれ以上増えるのは村人にとっては許せないんだろう。

 怪我人を放置しているのも、人が減れば分け前が増えるから、なんじゃないか、と。

 で、私達にはそれを知られるわけにはいかず、かといってモンスターに対抗できる者は囲っておきたい。


 「おおよそそんな感じだろうとは思うな。」

 「とはいえ、モンスターの襲撃があるのは事実ですし……」

 「そういえば、さっきのモンスター、何か変じゃなかった?」

 「お前達も気付いたか?」

 「はい、何かこう、とても嫌な感じと、これまで以上の強さと……」

 「あのアーマーよりも強いんじゃないかって感じました。」

 「それによ、集団が連携してるって、どうもな。」

 「まぁ、その辺りは調べる必要があるだろう、アイツにも知らせておかないといけない事だしな。」

 「そうだな、正直アタイはこの村なんざどうでもいい。欲の皮が突っ張ったやつらの用心棒なんざゴメンだしな。」

 「で、でも……」

 「ああ、とりあえずは引き受けようか。

 だが、私達の狙いはあのモンスターの情報だ。守るのはついでだ。」

 「そ、それでいいんでしょうか?」

 「あー、あのな、この村の連中の為にお前らが頑張ってもな、アイツらは何にも思わないぞきっと。」

 「お前達が、感謝が目的で人々を守るわけじゃないのは良く解る。

 だが、ここの奴らはそういう次元の思考じゃない。お前達を使い捨ての盾くらいにしか思っていない。」

 「……」

 「奴らは奴らで、私達は私達の思惑で、表面上だけ請け負えばいい。する事は同じだ。」

 「は、はい。」


 私達は釈然としないまま、村長さんの依頼を受けることにしたんだ。


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