第55話 こっちのモンスターはこれまでにない強さだった


 あのコアがあると思われた荒野からカルメンへと戻る途中の事だった。

 行くときには殆ど出現していなかったモンスターが、驚くほど多く出現したんだ。


 「はぁはぁ、何だっての一体?」

 「ちょ、ちょっとコレ異常なんじゃないの?」


 まるで私達を標的に全世界からやってくるような頻度でモンスターが襲ってきた。

 それに加え、何だかモンスターの強さがかなり上がっている様にも思えた。

 ついこの前、カルロを助けた時のモンスターとは全然レベルが違っていた。

 これって、どういう事なんだろう?


 「お前ら、大丈夫か?かなり疲弊してるみたいだけど。」

 「しょ、正直疲れました。というか、このモンスターって異常じゃないですか?」

 「そうだな。アーマーをはるかに超える強さっていう時点で、我らが知るモンスターではないと思える。」

 「そうみたいですね。でも、そうなるとその原因も、掴みたい所です。」

 「あー、お前らならそう思うと思ったよ。でもな、朧気ながらその理由はわかる様な気がする。」

 「ウリエル様、それって……」

 「ああ、この世界にコアはない、でもモンスターは形として顕現している。という事は、だ。」


 ウリエル様の予想はこうだった。

 人間の負の面をその母体とするモンスターは、私達の世界ではコアを媒体として物質化している。

 でも、この世界はコアがない。という事は、媒体を経由せずに実体化する術を持っている、のではないか、という事だ。

 ルナ様も、その意見については一理あるかもしれない、と言った。


 「この世界は天災による文明の崩壊を経験していない、にもかかわらず現文明は私達の世界に近い、という事は、だ。」


 つまりは、天災ではない他の理由で、文明の崩壊は起こされた可能性がある。

 それが何なのかはわからないけど、星の意思が関わっていないと思われる以上、コアは発生のしようがない。

 しかし、その文明崩壊を機に星の自浄システムは形を変えて発現したと思える。

 それがどういう物なのかは不明だけど、やはり人間の負の面が集積して物質化したものが、この世界のモンスターなのではないか、という推測だ。


 「まぁ、あくまで推測の域を出ないが、当たらずとも遠からず、なのではないかと思う。」

 「そう言われれば、この世界って流星群の衝突がなかった世界線でしたよね?」

 「なら、元々のお父様がいた世界のまま発展していてもおかしくない世界、という事ですよね?」

 「ああ、そうだな。でも、現実としてこの世界に当時の文明というか、そういった形跡がない。石油製品どころか電気すら使えない世界だしな。」

 「それって、やはり一度文明は滅んだ、という事なのでしょうか?」

 「それについては間違いあるまい。ただ、その原因はわからん、可能性としては……」

 「それは?」

 「人間同士の争い、つまりは戦争で滅んだ、という可能性もある。」

 「そんな!」

 「でも、文明が滅ぶほどの戦って、どんな?」

 「ああ、これはあまり話したくはない事だがな……」


 一つの可能性、としてルナ様は話してくれた。


 「私が以前は人工知能の機械で、機械の兵器集団を率いていた、というのは知っているな。」

 「はい、聞き及んでます。」

 「それと同じで、人工生命体というか、人工知能だな、それが暴走したっていう可能性もある。」

 「それって……」

 「人工知能にはな、命というものの知識はあるが概念がない。かつての私もそうだった。故に、争いを終結する為なら、迷うことなく最終手段を取るんだ。」

 「最終手段、ですか?」

 「ああ、人間が生きようと死のうと関係ない、なんなら人間全てをチリにしてしまえばよい、とな。」

 「そ、そんな事が可能なんですか?」

 「完全に、とはいかないが、その為の兵器は人間自ら作ったからな。核兵器などその最たるものだ。」

 「そ、そんなモノが……」

 「まぁ、使うモノが何であれ、目的が何であれ、そうしたまさに悪魔の兵器を使った自業自得な事態が起こったんじゃないか、と思う。」

 「だ、だけど、それがなんでアーマーやモンスターに繋がるのですか?」

 「そこまでは判らん、が、モンスターに関してはそれら兵器の開発プロセスに類似しているとも思えるな。」

 「ぷ、ぷろせす?」

 「ああ、要するに発生というか開発の経緯だな。人間の負の面は、人間の良心によって抑制されている部分がある。」

 「と、言いますと?」

 「例えば、だ。誰かを騙して金を毟ろうとする、でも、そんな事をすれば騙された相手は不幸になる、だから止めておこうという思考、行動に至る。」

 「あ、お父様が言っていた、性善説っていう事ですか?」

 「それに近いがな。悪魔が恐れられているのは、悪魔にはその良心がないから、とも囁かれているんだよ。故に悪魔は恐れられているとな。」

 「で、でも、マコーミックさんはそんな感じはしませんでしたよね?」

 「ああ、アイツは悪魔で間違いないんだ、アタイと違ってな。だけど、悪魔にしろアタイらにしろ、人間がいう良心ってのは人間以上に明確に意識してんだよ。」

 「本当の悪魔は、良心を持たない人間そのものだな、まぁ、話は逸れたが、そうした良心の欠片もない者がモンスター化する、あるいはそうした強い悪意がモンスター化する、という事かも知れない。」

 

 いずれにしても、人間が持つ負の面がモンスター化するっていうのは、この世界も私達の世界も同じ、という事よね。

 その強さは、こちらの世界は薄まることなくモンスター化するから、という事、なのかな……

 でも、そう考えると、こちらの世界は人間の負の面も薄まらず、尚且つモンスターも発生する二重の苦難に直面しているって事?


 「そう、だな。それだけじゃない、盗賊など悪意を持つ人間すら、普通に暮らす人にとっては脅威なんだ。

 この世界を根本的に変えない限り、この混沌とした状況は変わらないだろうな。」

 「こんな世界を、お父様が……」

 「アイツにできる事は限られるだろうけどな、しかし、アイツなら今よりは暮らしやすい世界にはできるかもしれないぜ?」

 「もっとも、その為にはあの世界と同じメンツが一同に揃う必要はあるだろう、私を除いてな。」

 「ルナ様を除いて、ですか?」

 「ああ、この世界に私は存在しない。なにせブルーが存在しない世界なのだからな。」


 あらゆる意味で、この世界は私達の世界とは違うんだ。

 分かってはいたけど、こうした一つ一つの事象を突き付けられると、その事実に胸が締め付けられる。

 この世界で、私達ができる事は何もないという事実も含めて。

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