第54話 悪意を吸収する丘のはずが


 カルロと別れてから4日程。

 人が寄り付きそうもない広い荒野に来た。

 この先にコアがあるはずだ、とウリエル様は言う。

 だけど。


 「ルナ様、それらしい物も見当たりませんね。」

 「うーん、場所は間違いないんだがな。」

 「アタイはちょっと遠くまで行ってみるぞ。」

 「はい、私達はもう少しこの辺を調べています。」


 こうして2日かけて周囲を探索したけど、それらしきものは見つからなかった。

 何より、悪意を吸い込むはずのコア周辺は悪意の濃度というか、そういう気配が集まっているはずだ、とルナ様も言う。

 でも……


 「これだけ探しても見つからないっていう事は、ルナ様。」

 「ああ、結論から言うと、コアは存在しない、という事だな。」

 「まーよ、何となくそんな気はしてたんだがな、まさか本当に存在しないなんてな。」

 「という事は、この世界って……」

 「シャルル、その通りだよ。この世界の人間は、負の面はそのままその身に持っている、という事だ。」

 「でも、それが本来の姿でもある、って事だ。どっちが正しいかなんてのは無いがな。」


 コアは存在しない。

 この荒野のどこにも、いいえ、この世界のどこにも。

 でも、そうなるとあのモンスターはいったいどこから出現したんだろう?


 「ひとまずは引き揚げるとするか。ここに居ても何も進展しないし、な。」

 「「 はい。 」」

 「でもよ、そうなるとこの世界のモンスターってのは、一体なんなんだろうな。」

 「それは考えても答えはでない、かも知れん。ただ」

 「ただ?」

 「モンスター自体は人間の負の面の象徴だ。コアを通さず自然発生している、という可能性があるな。」

 「それって……」

 「ああ、それだけこの世界の人間の負の面は飽和状態を抱えているってことかも知れねーな。まったく、人間ってのは。」

 「……」


 この世界のコアは、確認できなかった。

 それはつまり、この世界にそういったシステムそのものが存在しないという事だ。

 別の場所に存在する、という可能性もあるけど、現状はそれを確認する術も、時間もない。

 ただ。

 この事はこの世界のお父様には伝えるべきではないか、と思う。


 「そう、だな。タイミングが問題になるが、それは言っておくべきだろう。が……」

 「が?」

 「アイツの事だ。コア自体は知ることは無いにしても、モンスターと人間の負の面の関係性は理解すると思う。」

 「うーん、だと良いがな。ま、ひとまず帰ることにしようぜ。」

 「そうですね。」


 そう話していた時だった。

 モンスターらしきものが現れた。

 その数、およそ20体。


 「ちょ、ちょっと、数が!」

 「ね、ねぇ、あれってモンスターなの!?」

 「あれは、まさかアーマーか?」

 「ウソだろ、何でこの大陸に居るんだアレ!」


 モンスター、いえ、あれはたぶんアーマーだ。

 しかも、この前ラディアンスに居た個体とは大きく形が違っている。

 

 「ともかく、放置はできん。殲滅するぞ!」

 「「 は、はい! 」」


 こちらに気づいたアーマーは、全てがこちらへと襲い掛かってきた。

 機械なだけにその強さを気で推し量ることはできないけど、これまでのモンスターなど比べ物にならないくらいの圧を感じる。

 しかも20体以上だ。


 「インディビデュアルだ!防御を怠るな!」

 「「 はい! 」」


 数が多すぎるので、ここはそれぞれが個別に対処する、という事だ。

 だけど、そんな戦術でも相互のフォローは忘れないようにしないといけない。

 集団戦の一つの戦法だ。

 

 幸いにも、アーマーの連携は全く機能していなかった。

 言ってみれば暴徒みたいなものだった。

 なのでこちらは一体ずつ処理していけばいい、んだけど……


 「くッ!これって結構ヤバいかも!」

 「ディーナ、後ろ!」

 「うわ!アブな!」

 「気を付けろよ!奴らは連動していない、確実に目の前の個体を撃破しろ!」

 「「 はい! 」」


 何とかアーマーの集団を撃破できた。

 終わってみれば、アーマー自体はそれほどの強敵という訳ではなかったように思う。

 これらに比べれば、この世界に出現するモンスターの方がより強敵だと思える程度だ。


 「ふぅ、何とかなったな。」

 「で、でも、このアーマーってそれ程手ごわいとは思えませんでした。」

 「ああ、これらはかなり初期の個体みたいだな。しかも、私が知らない個体だ。」

 「あん?初期の個体でお前が知らないって、それって……」

 「こいつらはもしかすると、ブルーとは全く関係ない物体、という可能性もある。」

 「要するに、どういう事だよ?」

 「これらは人間が自ら作り上げた兵器だ、という事だ。事実、この世界にブルーは存在しなかったようだしな。」

 「あ、あの、それはつまり、この世界にはアーマーとモンスターという複数の脅威があるっていう事、ですか?」

 「そうだな、ただ、アーマー自体は過去の遺物だと言えるだろう。これ以上増える事はないと思う、のだが……」

 「ああ、それがなぜ今こうして出てきているのかって事だな。」


 何れにしても、この世界は想像以上に厳しい世界だという事、よね。

 こんな世界を、お父様はどうにかできるんだろうか……


 「まぁ、ここでそれに拘っている場合ではない、事実は事実として、アイツには伝える必要もあるだろうな。」

 「そ、そうですね。」

 「じゃあ、早めに帰らないといけない、ですね。」

 「そうだな、引き返すとするか。」


 私達は何の成果も得られないまま、この荒野を後にしたんだ。

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