第53話 高原の少年カルロ


 ログハウスのようなカルロの家。

 言っちゃなんだけど、こういうお家っていうのはお洒落というか、憧れちゃうな。

 木のぬくもりというか、そういうのが肌で感じられるし、何より安らぐんだ。

 そんな家のリビングに案内された私達。

 思った以上に中は広くてとっても素敵だ。

 部屋も4つあって、カルロとおじいちゃんだけじゃ持て余しそうなくらいだね。


 カルロのおじいちゃんは、暖かい食事と部屋を用意してくれる。

 何でも、少し前まではおじいちゃんの息子さん夫婦も一緒に住んでいたらしいけど、盗賊集団に襲われて亡くなったそうだ。

 でも、その息子さん夫婦はカルロの親、という訳じゃないんだって。


 「少し窮屈な所ですが、自由に寛いでください。もうすぐ食事も出来上がります。」

 「あ、いえ、かえって申し訳ありません……」

 「なに、良いのですよ。こうして賑やかな日も久しぶりなんです。さ、おかけになって待っていてください。」

 「それじゃ、失礼して……」


 荷物を壁際に置いてひとまずテーブルで寛ぐ。

 と、カルロがコーヒーを淹れて来てくれた。


 「お姉ちゃん、これ、結構おいしいんだよ、どうぞ召し上がれ。」

 「うわぁー、ありがとうカルロ。」

 「あ、この香り!」

 「初めてかも。いい香りがするー!」

 「えへへ、味も雑味がなくてスッキリした苦みがあるんだよ。この辺で採れる豆なんだ。」


 一口飲んでみると……


 「おいしい……」

 「これ、結構な高級品じゃないの?」

 「ん?これは砂糖いらずというか、ブラックでも微妙に甘みが感じられるな。」

 「アタイはちょっとわかんねぇ……」


 なんというか、それほどコーヒーの違いが分かる訳もない素人なのに、これはちょっと違うってはっきりわかる。

 

 「これね、焙煎もおじいちゃんがやってるんだよ。」

 「へぇー、凄い。」

 「これ、凄く高く売れるんじゃないの?」

 「あ、でもさ、この木は少ししかないから、売るほど採れないんだよ。」

 「ははは、だからこの辺りの人たちだけで消費してしまうのですよ。」

 

 そう言っておじいちゃんが出してくれたのは、これ、クッキーだ。


 「コーヒーとコレの相性が最高なんです。一緒にどうぞ。」

 「うわぁ、ありがとうございます!」


 本当に相性最高だった。

 コーヒーの苦みとクッキーの甘味がとっても合うんだ。


 カルロとお話しながら、ひと時のコーヒータイムを満喫した。

 本当に屈託なく、人懐こいカルロとお話しするのがとても楽しいし、なによりカルロがとても可愛く思えてくる。

 アベルやノブ様とはまた違う、とっても可愛い子なんだ。

 そして、夕食をいただいたんだけど

 

 「こ、これって!」

 「フェジョアーダ!」

 「おや、よくご存じですね。西洋の大陸にもあるのですか?」

 「いえ、あちらにはありません、だぶん。」

 「お父様が作って食べていたんです。懐かしい……」


 お父様はこれはブラジルって国の伝統的な家庭料理だって言っていた。

 お父様のお父様、つまりおじい様が食べていたのを真似して作ったらしいけど、あっちじゃなかなか材料が入手できないから本物じゃないって言ってたけど。

 塩味が程よく、ベーコンと豆が煮こまれたものでお米にも合う料理だ。


 「さあ、どうぞ。」

 「で、では、いただきます。」

 「いただきます……」


 一口、食べてみる。

 もう、そのままお父様が作ったあの味だ。

 ちょっと、懐かしくて泣けてきそう……


 「お、美味しい……」

 「ひ、久しぶりの味だ……」

 「はっはっは、いい食べっぷりですね。作った甲斐がありますよ。」

 「美味しいです!これ大好き!」

 「うう……美味しい……」


 いや、懐かしさもあってホントに泣くほど美味しい。

 なんだろう、おじいちゃんが作ったからなのかな、とっても温かみを感じるんだ。

 そうして夕飯をいただいた後、疲れたのかカルロはテーブルに突っ伏して寝てしまった。


 「ホントにカワイイなぁ、この子。」

 「あー、なんだ、お前らはアレか?ショタ……」

 「ち、違いますよー。」

 「でも、それでもいいかなって言う位、カワイイ……」

 

 ヨダレを垂らして寝ているカルロは起きる様子もなく熟睡している。


 「カルロはね、親もおらず友達も少ないここで暮らしていても、こうして元気に逞しく、そして心優しく育ってくれた。」

 「おじいちゃん、カルロの両親って?」

 「旅をしている最中に、盗賊に殺されたんだよ。まだ4歳だったカルロはそれで天涯孤独になってね。」

 「盗賊に……」

 「息子夫婦には子供がなくてね、息子たちはカルロを引き取り本当の子供のように育てたんだよ。」

 「そう、だったんですね……」

 「その事もきちんと理解していてね、その上でここでずっと暮らすんだって言ってくれるんだけど。」

 「カルロ……」

 「だが、このままこの地で閉じ込まっているのも、なんだか不憫な気もしてね……」


 そんな話を聞くと、この世界の姿は私の世界とは全然違う事を実感させられる。

 お父様やカスミお母様、サダコお母様は、こういう世界を知っている、というか、こういう事が当たり前の世界で暮らしていたんだね。

 でも、この世界のお父様はこの世界を、あの世界のように人々が悪意に飲み込まれない世界にすることができるのかな?

 私は、この世界を守りたいと思う。でも、それをするのは私達じゃない、この世界にいるお父様達なんだ。

 私達は、私達がすべき事に邁進するだけだ、その為の旅なんだもの。

 でも……


 その後、私とシャルルはカルロを挟んで就寝した。

 寝言で「父ちゃん、母ちゃん」と言うカルロを見て、複雑な思いだけが頭の中を駆け巡った。

 

 翌朝。


 「もう、行っちゃうんだね。」

 「カルロ、ゴメンね、そしてありがとう。でも、帰りにまたここに立ち寄るよ。」

 「だからちょっとの間だけのサヨナラだよ。必ず、また来るからね。」

 「うん。待ってるよ!ディーナ姉ちゃん、シャルル姉ちゃん、それにルナおねぃさん、ウリエルさん!」

 「えへへ、待っててねカルロ。」

 「おじいちゃんも、ありがとうございました、本当に。」

 「道中、気を付けてください。また会える事を楽しみにしていますよ。」

 「はい、それじゃ。」

 「またね!」

 「うん、カルロも元気でね。」


 名残惜しいけど、私達はカルロの家を出発した。

 いつまでも手を振るカルロとの別れ、だけど、帰りにまた絶対立ち寄ろう。


 街道を進むと、ぽつぽつと家が点在している。

 出会う人達はその住民だろう、挨拶をすると笑顔で返してくれる。

 とっても素敵な所だなぁ。

 

 そんな思いを抱きつつ、私達は北を目指した。

 

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