第52話 ウリエル様と私達の相性は抜群だった

 「それじゃあ、本当に気を付けてな。また会える事を祈ってるよ。」

 「ありがとうございました、女将さん。私達もまた会えるように頑張ります。」

 「ああ、じゃあ、行っておいで。」

 「それじゃ、行ってきます!」


 早朝、女将さんに礼を言って宿を後にした。

 馬さん達の手入れや世話もしっかりしてくれたお陰で、馬さん達もリフレッシュできたみたいだ。

 すこぶる機嫌がいい。


 この都市を離れれば、待っているのは盗賊集団とモンスターの巣窟だ。

 盗賊集団はともかく、モンスターってどうなんだろう。

 それに……


 「あの、ルナ様。」

 「なんだ?」

 「もし、盗賊集団が襲ってきたら、どうすればいいんでしょう?」

 「そうだな、ま、答えは一つだ。」

 「そう、ですよね……」

 「ディーナ、私も少し迷ってるけど、その時は仕方がないかもしれないね。」

 「そう、よね……」

 「まーな、お前らの気持ちはわかる。だけどよ、降りかかる火の粉はな、祓わないと他の者に、皆に延焼するんだぜ?」

 「……それは、そう……」

 「こうも考えられるぞ。その露払いを他人に押し付けるのか、私達でするのか、の2択だって、な。」

 「排除する事は確定、なんですよね。」

 「そうだな、この土地の人間を守るって意味でも、だ。お前達が懸念しているのは、たとえ悪人でも殺めていいのかって事だろう?」

 「というより、やはり人間を殺すっていう事に抵抗がある、感じです……」

 「まーそれに慣れろとも言えないし、慣れてもらっても困るがな。でもな、それ無視するってのは、どういう事かわかるだろ?」

 「はい。」

 「ホントならアタイ達は関係ない事なんだけどさ、係わっちまったらそうも言ってられないと思うぞ。」

 「……」

 「いずれにしても、だ。そんな手合いに会わない事が一番なんだがな。それと、だ。」

 「はい。」

 「そういう連中は、モンスターの別の形だとも言えるからな。そう思ったら、少しは気が紛れるだろう。言っている意味は解るな?」

 「はい。そうですね、モンスター未満って言う事。」

 「あ、でも、そう考えると、この世界のコアは……」

 「うむ、あまり考えたくはないが、そうかも知れないな。」


 都市を出て半日以上が過ぎた。

 時間的には午後のオヤツの頃合いだ。

 今はまだモンスターも盗賊集団らしき者とも遭遇はしていない。

 いないけど、旅人や地元民とも一切遭遇していない。

 このまま出てこない事を祈るばかり、なんだけど……


 山肌を縫うような峠道に入った。

 視界も良くなくて道は岩山に挟まれたような峠道だ。

 盗賊集団が隠れて行動するには格好の場所、っていう感じかな。

 警戒しつつ歩いていくと、突然悲鳴と助けを求める声がした。


 「シャルル!」

 「うん、行こう!」


 馬さんに全力で走ってもらった先には、逃げる男の子と、それを追うのは……


 「「 モンスター! 」」

 「ちッ、お前ら装着!アタイは中に入る!」

 「「 はいッ! 」」


 ワールドを一瞬で装着し私はヴァイパーを、シャルルはイーグルを手に取る。

 馬さんから飛び降りて、逃げている男の子をシャルルが抱え、私はモンスターに突進する。

 モンスターは3体か。

 一番前を走るモンスターに、まずは斬りかかる。


 「いやぁー!!」


 気合を入れつつ、モンスターの四肢を斬り落として胴を真っ二つにした。

 思った以上に体が軽い。

 意図するままに体は付いて来てくれる。

 そして何より、ヴァイパーは斬る時の抵抗が全くない。

 いえ、考えるのはあとだ、まだ2体残っている。


 「ディーナ、あっちは私が!」

 「おっけー!」


 男の子をルナ様に渡したシャルルが参戦した。

 あっと言う間に2体も斬り捨て、残骸を魔法で焼き尽くす。

 ひとまず終わって改めて考えてみると、このモンスターはそれほどの強さじゃないのかも知れない。

 とにかく、男の子が無事でよかった。


 「あ、ありがとう、お姉ちゃんたち!」

 「ねぇ、君さ、この辺に住んでる人なの?」

 「うん、俺んちはこの先にあってさ、爺ちゃんと二人で暮らしているんだ。」

 「この辺って、モンスターが出るのに?」

 「うん、でも、滅多に出ないんだよ。だから、ちょっと油断しちゃったんだ……」


 どうやらこの子はこの辺で暮らしている子みたいだ。

 聞くと、一軒一軒は離れてはいるけど集落みたいに繋がりはあるらしく、何とかっていう動物の飼育と高山植物の農作で生計を立てているんだとか。


 「でも、君は何でこんな所に?」

 「あ、えっとね、この先に森があるんだけど、そこに香草を摘みに行ったんだ。そしたら……」

 「あー、なるほど。」

 「それじゃあ、またモンスターが出るかも知れないから、君んちまで送っていくよ。」

 「え?いいの?」

 「うん。どのみち私達もこの先に進むんだしね。良いですよね、ルナ様?」

 「ああ、そうしようか。」

 「あ、ありがと。お姉ちゃんたち、強いんだね。」

 「それ程でもないよ。でも、強くならないといけないからね。頑張ってるんだよ。」

 「強いし奇麗だし、カッコいいよお姉ちゃん達!」


 か、カワイイなこの子!

 思わず、抱きしめたくなっちゃう!


 《あー、お前ら……》

 「あ!いえ!そんな事はないですよ?」

 《ま、いいけどよ。そこは自由なんだ。気にすんな。》

 「というかだな、警戒は解くな。まだいる。」

 「はい。」

 「この先、森の中です。」


 この子が言っていた森、そこにはまだ数体のモンスターが潜んでいる気配がある。

 そして、それに加えて……


 「ルナ様。」

 「ああ、お前らも気付いたか。が、あっちは人間だな。恐らくは盗賊って奴らだろう。」


 はるか後方に、近づく気配を感じたんだ。

 どうもモンスターを排除したことで、盗賊らしき人達が行動を始めたんだと思う。

 前後に警戒対象。

 まさに前門の虎後門の狼、といった状況、よね。


 「ディーナ、私が後方を。」

 「私がモンスターを。」

 「ルナ様、この子を頼みます。」

 「ああ、任せておけ。いいか、絶対に油断するな、手を抜くな。」

 「「 はい! 」」


 森が見えた所で、私達は行動を開始した。

 私は森の中に入り、確認できたモンスターを斬り捨てた。

 シャルルは後ろの集団の前に立ちふさがると、その人達の足元に向かってイーグルを横薙ぎに払う。

 足元が抉れるのを見た集団は、一目散に逃げていった。


 「はぇー、お姉ちゃん達、凄い……」

 「凄いだろう?でもな、あれでもまだ力不足なんだよ。」

 「ねぇ、おばちゃんは戦わないの?」

 「お、おば……」

 「あ、ご、ごめんなさい、おねぃさん……」

 「あー、いいんだ、そんな気は使わなくてもだな……」


 ひとまずの脅威は去ったみたいなのでルナ様の元に戻った。

 ちょっと残念な表情をしているのは何でだろう?

 と、シャルルも戻ってきて、ウリエル様も実体化した。

 

 「ただいま。」

 「ご苦労だな。まぁ、それにしても、お前達かなり強くなったな。」

 「いえ、でもこのモンスターは凄く弱い個体みたいでした。」

 「そりゃ違うぜ?アタイらの世界のモンスターと同じ位だ。つまりだ、お前らはそのレベルにまで到達してるってこった。」

 「そうなんですか?それはちょっと嬉しいかも!」

 「でも、イーグルが凄く馴染んでると言うか、私の意志そのままに動くというか……」

 「私のヴァイパーも、です。本当に自分の手のように感じました。」

 「ああ、そうだろうな。こういうのをなんちゃら係数っていうらしいけどよ、つまりはお前らとワールドの相性は抜群だって事だ。」

 「そうなのですか?」

 「ああ、アタイが言うんだから間違いないぜ?」

 「しかし、だな。」

 「え?」

 「お前達、それを装備しての二人での手合いは止めておけよ。体が幾つ有っても足らん。」

 「あ、そうですね。」

 「鍛錬の時は木刀でやります。」


 ひとまずの脅威が去った事で、先に進むんだけど。


 「ねぇ、お姉ちゃん達さ、助けてくれたんだし、今日はウチに寄って行ってよ。」

 「えーと、とりあえず君んちには寄るけど?送る訳だし?」

 「あ、いや、泊っていってってことさ。爺ちゃんも喜ぶと思うよ、なにしろ人が居ないから寂しいんだ。」

 「そ、それじゃまず君のおじいちゃんにご挨拶、だね。」

 「そういえば、君の名前はなんていうの?」

 「あ、俺の名前はカルロっていうんだ。」

 「私はディーナよ。」

 「私はシャルルだよ。」

 「おねぃさんはルナだ。」

 「アタイはウリエルってんだ。つか、なんだ、おねぃさんって?」

 「し、知らん。」


 カルロの案内で家までくると、おじいちゃん、だよね?家から飛び出してきた。


 「おお、カルロ!無事だったか!」

 「ごめん爺ちゃん、でも、大丈夫だったよ。お姉ちゃん達が助けてくれたんだ。」

 「あなた達が……これは、本当にありがとうございました……」


 少し涙目になりながらお礼を言うおじいちゃん。

 というか、おじいちゃんなんだけどかなり体格がいいおじいちゃんだなぁ。

 もしかして昔は凄く強い人だったりして。


 「お礼と言っては何ですが、この先宿などもありませんので、うちで休んでいかれませんか?」

 「え、でも、手を煩わせるのも……」

 「いえ、感謝してもしきれませんので、ぜひとも。ああ、夕飯も酒もたんまりありますので。」


 うーん、この熱意は断り切れないよね。

 というか、本当に感謝している気持ちがヒシヒシと伝わってくるし。

 まぁ、野宿しないで済むならこれは甘えた方が良いのかもね。


 「で、では、お世話になってもよろしいでしょうか?」

 「もちろんです、喜んで。」


 ひとまず今日は野宿せずに済むかな。


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