第51話 山頂の都市、カルメン

 北アンデス山脈の盆地にある都市、カルメン。

 大昔に黄金郷があるとの伝説もあったそうで結構な大都市だ。

 ただ、人が多い分賑やかさと同時に治安もそれほど良くないようで、裏に回ればそれなりの犯罪が横行しているらしい。

 とはいえ


 「なんというか、素敵な都市ですねー。」

 「ま、表向きはな、なんて無粋な事を言っても仕方ないが。」

 「でも、ここの人達って気さくで明るいですよね。とってもいい雰囲気。」

 「そうだな、下手に変な所に首を突っ込まなければ問題ないだろう。さ、何はともあれ宿を探そう。」

 「「 はい。 」」


 ちなみに、ウリエル様は例によって街中の探索に出かけている。

 いろいろと見てまわって、実際どんな所なのかを把握する為なんだって。

 と、大通りから一本外れた所に宿屋が集まっている区画があった。

 デビッドさん達に教わった宿屋街だ。

 そのデビッドさんが教えてくれた3階建ての宿屋に行くと、女性4名のみ、という事で最上階の部屋を提供してくれた。

 宿主はなんと女性で、かつては山賊団を率いていた女傑だったそうだ。

 とはいえ、大柄だけど美人で人当たりも良い素敵な人だ。


 「さあ、この部屋だ。アンタ達は4人とも女なんだろ、ここなら安全だ。」

 「ありがとうございます。」

 「なに、金さえ貰えばそのくらい当然だよ。あ、悪いが食事場所と浴場は1階にしかないからな、そこは勘弁だ。」

 「いえ、充分です。」

 「あはは、じゃあ、ゆっくり寛いでくれ。何かあったら受付にアタシもいるから遠慮なく言ってくれ。」

 「はい。」

 「あ、そうそう。これだけは守ってくれ。夜に街に出ない事。特にアンタ達はすぐに襲われそうだからな。」

 「あ、はい。」


 まぁ、昼と夜では様相が一変するのは、この世界では普通なんだろうなぁ。

 どっちにしても夜に出かける用事なんて全くないから関係ないんだけどね、私とシャルルは。

 でも……


 「ああ、私は出かけるぞ?情報収集は必須だからな。」


 ま、まぁ、ルナ様は心配ないけど、相手がどうなっちゃうかは心配、かな。

 てことで、ひとまず旅の疲れと汚れを落とす事にした。

 ウリエル様が帰ってくるのを待って、お風呂に行く事にしたんだ。



 「へぇー……」

 「すごい……」


 浴場はここは何処なんだと思うくらいの装飾だった。

 大きな岩から湯が流れ出て、それを受ける岩で囲われた浴槽。

 緑もあざやかな木や蔦がデコレーションされている。


 ……ジャングルだ。

 というかもう、これはシャングリラだ!


 「こういうお風呂も、素敵よねぇ。」

 「お湯もなんていうか、炭酸水素塩泉かなコレ、肌がすべすべになるぅー。」

 「はぁー、気持ちがいい……」

 「うん、イワセと似た感じの湯だな。」


 「「「「 気持ちいいー…… 」」」」


 ゆったり、じっくりとお風呂を満喫した。

 旅の汚れも、疲れも、きれいさっぱり落とせた気分だ。

 やっぱり温泉はいいよねー。


 そして寛いだ後は夕食だ。

 ここはどんな食事があるんだろう。

 とっても楽しみだ。

 食堂へ行くと、女将さんが自ら給仕してくれた。


 「おや、すっかり寛いだようだね。どうだい、あの風呂最高だろ?」

 「はい、すごく良かったです。」

 「あの風呂はウチの自慢の一つなんだよ。この辺じゃピカ一の入浴施設なんだ。」

 「なんか、それは凄くわかります。お風呂場もお湯も、とっても素敵でした。」

 「あはは、褒められるとやっぱりうれしいね!でも、だ!」

 「でも?」

 「ウチの自慢はそれだけじゃないのさ!」


 そういって運ばれてきたのは


 「“アヒアコ”っていう、この土地の料理さ。ウチのはこの都市でも有名なんだ!」

 「うわー、美味しそう……」

 「じゅる、お、美味しそう……」

 「あはは、じゃあ、たらふく食ってくれ。お代わりは自由だ!」

 「ありがとうございます!」

 「じゃ、じゃあ、さっそく!」

 「「「「 いただきます! 」」」」


 待ちきれないとばかりにアヒアコを一口食べると


 「はぁー……おいしー……」

 「……ぜっぴん……」

 

 トウモロコシの甘味なのかな、それと塩と香辛料とが絶妙な味と香りを醸し出している。

 ジャガイモ、だよね、これ。荷崩れしてないし、それでいてホクホクなままで汁を絡めると得も言われぬ美味しさが広がる。

 で、鶏肉。

 肉厚でプルプルで口に入れると蕩けるような感じだけど歯ごたえも残っている。

 何より肉その物の旨味がジュワっと滲み出てくる。


 「ウマー……」

 「あー、でもこれってどこかで……」

 「あ!」


 そう、このシチュー、食べた事がある。

 モイラさんの所で一度ご馳走になったあのシチュー、お父様も何度か作ったシチューだ。

 でも、モイラさんのより、お父様のより、こっちの方が断然美味しい!

 さすがはご当地、でいいのかな?


 「確かにうめぇなコレ。っていうか、あの女将、アイツに雰囲気にてるな。」

 「アイツって?」

 「ほら、モイラだったか、それの母親だよ。たしかマリーとかいったか。」

 「ああ、あいつか。そう言われればそうかもな。」


 結局アヒアコを3杯お代わりして、お腹がいっぱいになったので部屋でゆっくり寛いだ。

 と


 「じゃあ、少し出かけてくる。ウリエルはここで待機だな。」

 「ああ、昼間あらかた調べたからな。夜の部は任せたぞ。」

 「うん、じゃ、行ってくる」


 そういってルナ様は一人で出かけた。

 どこで何をするのかは分からないけど、大騒動にはしないだろうし、うん、きっと大丈夫、だよね。



 そのまま翌朝を迎えた。

 夕べは何事もなくルナ様は帰ってきたので一安心、なんだけど。

 何か裏路地のほうで窃盗集団が身ぐるみ剥がされ縛り上げられているっていう騒動が、宿でも囁かれている。


 「ま、まぁ、な。そんな事もあるんだろう……」

 

 ま、まぁ、ね。そんな事もあったんでしょうね、きっと。


 今日は一日、この先の旅の準備をする事とした。

 つまり宿には2泊だ。

 女将さんが言うには


 「今夜は別のメニューだからな。楽しみにしてな。」


 って言ってた。

 もう、楽しみで仕方ないんだけど! 


 街中を見て回り、食材や生活用品、替えの衣服などを調達した。

 買った物はお父様の形見のバッグに全部入るから便利よね。

 特に飲料用の水やジュースは一日分でもかなりかさばるから、とってもありがたい。

 

 色々と見て物資の調達も済んだ所で宿へと戻った。

 もうすぐ夕方になる頃合いなので先にお風呂に入り夕食まで寛ぎ、時間になったので食堂へと降りて行った。

 昨日に引き続き女将さんの給仕で、なんだけど、今夜は女将さんも一緒になって食卓を囲んだ。


 「今日のメニューはこの大陸では国民食でね、バンデハパイサって言うんだよ。」

 「うわぁー、色々乗っててどれも美味しそう……」

 「少し味付けは濃いめだけど、酒にあう味付けにしてあるからなんだよ。それにさ、スタミナもつくから旅人には人気なのさ。」

 「へぇー、じゃあ今の私達にぴったりだねー。」

 「さ、さっそく召し上がれ。たんまり料金は弾んでもらったんだ、お代わりは遠慮しないでくれよ。」

 「「 それじゃ、いただきまーす! 」」

 

 この料理もとっても美味しい!

 その上お酒との相性も凄く良くてどんどん口に入っていく。


 「ところでアンタ達、本当にクッタの方へ行くのかい?」

 「はい。どうしてもそこに行かなくちゃいけないんです。」

 「そうなのか。いや、そっちの二人はともかく、あんたら二人は大丈夫なのかい?、その、危ないぞ?」

 「ほう、私とコイツが大丈夫と、なぜわかる?」

 「アンタらはかなりの猛者だろう?しかも相当な。その位はアタシにもわかるのさ。」

 「危ない、というのは?」

 「ああ、この先はモンスターと盗賊集団の巣窟でね、盗賊集団は2か月程前から縄張りを張ったらしいんだが……」

 「でも、モンスターとその盗賊達で潰し合いとかにならないのですか?」

 「それがな、モンスターが居ない所を転々としているようなんだよ。狡猾な連中なんだろうな。

 だから、都市から離れた集落や一軒家なんかは恰好の餌食になっているらしいんだ。それに旅人も、もう何人も襲われて殺されているんだよ。」


 こと襲撃に関しては私達は問題ないんだけど……

 近隣の人々が襲われているっていうのは、ちょと看過できない、よね……


 「まぁ、いずれにしても行かない方が良いのは確かだけどさ、行かないわけにはいかない、んだろ?」

 「あ、はい。」

 「なんかさ、こうしてウチに宿泊してくれた客がさ、そんな連中にやられたなんて日にゃぁ寝付きも悪くなる、できれば行って欲しくはないんだけどな。」

 「その気持ちはありがたいのですけど……」

 「ああ、すまないな、言いたいこと言ってさ。でも、心配なのは本当なんだ。だから、栄養付けて頑張んな!」

 「「 はい。 」」

 「心配は有り難いが大丈夫だ。こいつらも相当な強さだからな。」

 「へぇー、そうなのかい?こんなに奇麗でかわいい子が?」

 「そ、そんな……」

 「くぁわいい、だなんて……」

 「おい、世の中には“社交辞令”ってのがあってだな。」

 「「 えー…… 」」

 「あははは、大丈夫だよ、アタシはそんな事は言わないよ、本音だからさ!」


 初めて会って、短い時間だけど一緒に過ごした私達を、こんなに心配してくれるなんて。

 よほど私達が頼りなく見えるのか、あるいは本当に凶悪で手強い盗賊集団なのか、あるいは……

 理由はともかく、女将さんって本当に優しい人なんだね。

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