第50話 アマゾン大陸


 港町で食料や野営の道具を揃え、山越えに出発する。

 ここはまだ標高が低いからいいけど、山を登っていくとかなり寒くなるらしいのでその準備も忘れずにした。


 「一先ずはだな、あの山脈の道を登って高地の町まで行く。二日もありゃ行けるだろ。」

 「そこはな、現地人の人口は少ないが要衝地という所で旅人が多い。」

 「では、一旦そこで宿泊ですか?」

 「そうだな、が、それまでに一旦野営が必要だがな。」

 「そうですね、私達はいいとしても、馬さん達が疲れちゃいますもんね。」

 「あはは、馬を気遣う所も、お前ららしいな。こいつらも喜んでるぜ?」


 そう話ながら遠くに見える高い山脈を目指して歩いていく。

 この大陸北側を東西に貫く主要街道みたいで、道は広くてそれほど荒れていない。

 所々に集落があって、行きかう旅人や商隊、行商人もけっこう出会う。

 でも


 「ねぇ、シャルル、人が多そうな割には行きかう人って思ったほど多くなくない?」

 「あ、私もそれ思ったんだけど、もしかして時期があるとか、まさかモンスターとか……」

 「いい読みだな。もうすぐ寒くなる時期というのもあるが、モンスターの出現が多いというのがその理由だそうだ。」

 「出現が多いんですか?」

 「ああ、さっきの駅で行商人だったか、それに聞いたんだが、標高が高くなるにつれ出現頻度は上がるらしい。」

 「だから、商隊は別に兵士も連れているだろ。まぁ、モンスターだけが敵じゃないらしいがな。」

 「あー、まぁ、そうでしょうけど……」

 「いずれにしても、だ。私達以外の全てには注意を払う必要があるだろうな。」

 「そ、そうですね。」


 山肌を這うように続いている道を進んでいるけど、もうすぐ夜だ。

 そろそろ野営地を見つけないといけない、かな。


 「ルナ様、野営する所を探しましょう。」

 「もうすぐ陽も落ちるし、水場のある所って近いのかな?」

 「そうだな、少し道から外れた場所が良いだろう、とはいえ山道だと場所は限られるな。」


 少し開けた場所で一旦止まり、目立たなく尚且つ野営できる場所を探すと意外にもすぐに見つかった。


 「ここにしよう。水も確保できるし、火を起こしても道からは見難いだろう。」

 「じゃあ、馬さんたちはこっちに。」

 「私、水汲んできます。」

 「じゃあ、アタイはちょっとアレしてくるぜ。」

 「ああ、頼む。」

 「アレって?」

 「周囲に警戒の為の仕掛けを作るんだ。気配は直ぐに察知できるがな、小煩いハエは相手するのも面倒だしな。」

 「な、なるほど……」


 やはり夜だとかなり気温が下がる。

 標高が高いから、なんだろうけど時期的にも、なのかな。

 でもここって、夏でも夜はかなり冷えるんじゃないかな。

 野営する旅人が少ないって言ってたけど、それも理由の一つなんだろうか。

 もっとも……


 「早速来たみたいだぜ、まったく。」

 「恐らくさっきの町の駅から尾けてきてたんだろう。パッと見は女性4人組の旅人だ。恰好の獲物だろうよ。」

 「それって、盗賊か何かですか?」

 「ああ、人間のそんな感じの奴らだな。15人程か。」

 「あわよくばお前らを嬲りつくして売ろうって魂胆かもな。」

 「売るって……」

 「こっちの世界には人身売買や奴隷なんていうのが存在するんだろう。私達の世界ではそれは禁止されているがな。」

 「あーでも、奴隷制度そのものはあったな、たしか。犯罪者の刑罰として。」

 「ま、ともかくほっときゃいい。トラップで殆ど逃げてくだろうさ。」

 

 と、遠くから男の悲鳴が響いてきた。

 もう、山脈中に聞こえるんじゃないかって言うくらい叫んだり大騒ぎしてるみたい。

 10分程して一気に静かになった。


 「あの、トラップって、どんな罠を仕掛けたんですか?」

 「んふふーそれは内緒だ。ま、安心しろ、死にゃしないさ。」

 「まぁ、今後悪行はできなくなるだろうがな。」

 「へ、へぇー……」


 何というか、とても怖い罠なんだろうなぁ。

 

 そうした旅をつづける事7日が過ぎた。

 途中、野盗やインチキ商人なんかの相手をしつつ、その方たちには丁重に引っ込んでもらった。

 でも、意外な事にモンスターには遭遇していない。

 そうして、今は山越えも過ぎて高地の平野部を進んでいる。

 明日にはこの辺りで一番大きな都市に入れるだろう、との事だ。


 すこし見晴らしがよい所で、今日の野営の準備となった。

 思ったより害獣や野生動物が少ないので、食料は少し心許ない感じだ。

 お父様の形見のバッグに沢山入れておいたけど、予定以上に食べちゃった。

 まぁ、鍛錬しながら歩いたからね、うん。

 決して私が食いしん坊だからじゃないよね。


 そんな感じで夕食を済ませ焚火を囲んでいると、反対方向へ向かう商人の人達がやってきた。

 この人達もここで野営するんだろうか。

 見ると、どこか悲壮な感じもしないでもない。

 なんだろう、商売が上手くいかなかったのかな?


 「こんばんわ、ワシらも旅の途中でしてな、ここで野営をご一緒しても構わんかな?」


 柔らかい物腰の、商人の主人みたいな老人の方がそういって声をかけてきた。


 「あ、はい。私達が邪魔でなければ良いですよ。」

 「これはありがたい。では、ワシらはあちらで設営しますので。」


 その老人は去っていき、商人達は野営を始めた。

 10人くらいだろうか、青年から老人まで幅広い年齢層だなぁ。

 というか、青年は小間使いって感じじゃなく、とっても偉そうにしてるんだけど……

 もしかして、あの青年が主?

 そう思ってると、さっきの老人が何かを持ってやってきた。


 「せっかくご一緒になるのです、お近づきのしるしに、これをどうぞ。」


 と差し出してくれたのは干し肉と、豆?

 いえ、これ、コーヒーだ。


 「あ、いえ、そんなお気遣いなんて……」

 「いえいえ、一夜を共に過ごす同胞となるのですから、遠慮はいりませんぞ?」

 「でも、私達はそれに返せる物なんてありませんし……」

 「すまない、これは気持ちだ、受け取っていただきたいな。」

 「あ、あなたは」

 「自己紹介がまだだったな、俺はこの商会の主、デビッドという、よろしくな。」

 「あ、はい、私はシャルルと言います。」

 「私はディーナ、見た通りの旅人です。」

 「女性だけで旅を?危険なのではないですか?」

 「あ、いえ、それは全然大丈夫なんですけど。」

 「そ、それは凄い、というか、何というか……」


 そうして、デビッドさん達は設営とその後夕食を終えたところで、私達と焚火を囲んで話をした。

 ちなみに、ルナ様とウリエル様は今気配を消している。

 目の前に居るのにだれも気付いていないっていうのはちょっと不思議な絵面よね。


 「ところで、君たちは何処までいくんだ?」

 「私達はこの先、確か“クッタ”という所です。」

 「何と!ではこの先の都市からさらに北へ?」

 「はい。」

 「うーん……」

 「え?あの、どうかしましたか?」


 デビッドさんの話によると


 デビッドさんはここから北東の地に、このコーヒー豆を売りに行く予定だったらしい。

 でも、この先の都市から先は通行止めになってしまったんだとか。

 なんでも、盗賊集団が暴れているのに加えモンスターが多く出現したから、なんだって。


 「俺達は護衛を持っていないからやむなく引き返したんだよ。」

 「じゃあ、売り物が……」

 「そうなんだ。あっちなら高値で取引されるんだが、仕方ないんで西へ行って売る事にしたのさ。」

 「このコーヒー、とてもいい香りと程よい苦みで良い豆なのに……」

 「へぇー、君たちコーヒーには詳しいのか?」

 「い、いえ、それほどじゃないですけど、お父様がコーヒー好きでしたので。」


 お父様は良くコーヒーを嗜んでいたなぁ。

 なんだっけ、サイフォンとかドリップとかいうのを、その時の気分で淹れ方を変えていたみたいだけど。

 私達も一緒に飲んでいたから、産地毎の味があるっていうのは知っている。


 「この豆はな、コロンビアっていう品種でな、風味には定評がある高級品なんだよ。」

 「そうみたいですね、とっても美味しいです。」

 「でも、そんな高級な品を私達になんて」

 「ああ、良いんだよ。どうせ俺達も商品を飲むんだ。こうして一緒できたんだし、こういう物はその為のおもてなしに使う物なんだよ。」

 「はー……」

 「それってな、ジパングの人から教わったもてなしの心、なんだ。だから、気にしないでくれ。」

 「あ、ありがとうございます。」


 一夜をデビッドさん達と話ながら明かし、都市へ向けて出発する。

 

 「それじゃ、コーヒー有難うございました。みなさんお気をつけて。」

 「旅の安全を祈っています。」

 「こちらこそありがとう、嬢ちゃん達も気を付けてな。アディオス!」


 なんというか、とっても気持ちがいい人達だった。

 どことなくマコーミックさんに雰囲気が似ていたけど、商人ってあんな感じなのかな。

 本当に無事に商売が上手くいけばいいな。


 出発して岩場の多い高地の道を進む。

 途中、都市から引き返してきたと思われる行商人や旅人とすれ違ったけど、やっぱりそこから先には進めないみたいだ。


 「聞いた話だと、通行規制みたいなものは出されていないようですね。」

 「ああ、みんな噂を聞いて自主的に引き返してるんだろう。」

 「ってことは、先に進む人たちもいるって事ですよね?」

 「そうだな。まぁ、そいつらは腕に自信があるか、必要に駆られて仕方なく、なんだろう。」

 「なにせクッタってとこまではほぼ一本道だ。ここを通るしかないからな。」


 5時間程して、私達は都市に着いたのだった。


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