第49話 港町スマラカタ


 港町の中を、私とシャルルで歩く。

 ルナ様とウリエル様は周囲を確認すると言ってどこかへ行った。


 「ねぇディーナ、コアの場所ってけっこう遠いんだよね?」

 「そうみたい、だよね。そこまで歩いて行くのかな?」

 「でも、山を越えるんでしょ?歩きだとどんだけ時間かかるんだろ?」

 「馬、が必要かもねー……」


 そんな話をしながら歩いていると、『馬あり〼』という看板が目に入った。


 「何々?馬1頭銀貨10枚から、だって。」

 「え、じゃあ、ここで買うのも手だよね?」


 言っている傍から、男性が馬を1頭買っていった。

 私達は最低でも3頭は必要だから、銀貨30枚、か。

 一応路銀は金貨2枚を持っているけど、ここで使っちゃうと後が厳しくなりそうだなぁ。


 「でも、馬は必要だし、ちょっと見ていくだけ見ていかない?」

 「そう、だね。行ってみようか。」


 その馬売り屋さんに行ってみた。

 数頭いる馬さんを見ていると、店主らしき男の人が声をかけてきた。


 「馬が要るのか?」

 「あ、はい。必要かと思いまして……」

 「あんた達は外国人だな?」

 「はい。」

 「馬は1頭銀貨100枚だ。」

 「え?さっきの人は10枚で買ったと思うんだけど?」

 「あの、看板には銀貨10枚って……」

 「ああ、あれは地元の知り合い向けの看板だ。よそ者はその10倍がここの相場なんだよ。」

 「ええー、何それ!」

 「ああ、どの店もそんなもんだぞ。だがウチなら良心的だ、それ以上は取らん。」

 「と、取らんって……」

 「イヤなら帰んな。ワシらも暇じゃないんでな。」


 要するに、よそ者はボッタくりの対象、なんだろうなぁ。

 こんなの初めてだし少し戸惑うけど、ここじゃこれが普通なんだろうか。

 私達が若い女性に見えるから、尚更なのかな。


 「ディーナ、これって……」

 「端的に、私達に馬は売らないってことかな。というか、お金をむしり取るとか。」

 「あー、なんというか、私達の身なりってちょっと裕福に見えたかもね。」

 「ちょっと、イヤな感じよねぇ。」


 どの馬売りも似たり寄ったりだった。

 他の店じゃ私達を見るや値段を釣り上げてくるし、代わりに身体をどうのこうのまで言い出す店主もいた。

 正直、魔法で焼き尽くしてやろうかとも思ったが、そんな事はできないししない。

 途方に暮れていると、ルナ様とウリエル様が戻ってきた。


 「なんだお前たち、うなだれて。」

 「コアの場所はな、ここから馬で2週間ほど行った所だ。馬を買って行くぞ。」

 「あ、でも……」


 さっきまでの話をルナ様に話した。

 すると


 「あー、お前たちだけではそうだろうな。まぁ、お金とかいうのは幾らでも出せるから問題はないが……」

 「ちょっと、胸糞悪いな。じゃあ、アレだな、ルナ。」

 「ああ、お前たちはここで待っていろ。最高の馬を買ってくる。無料でな。」

 「へ?」


 そう言ってルナ様とウリエル様は、馬売りを一軒ずつ回りはじめた。

 30分程して、見るからに丈夫で立派な馬を4頭引き連れてきた。


 「え?ルナ様?」

 「とってもいい馬さんですけど、タダで?」

 「ああ、タダだ。それにあの店はもう商売はできんだろう。」

 「ど、どういう事?」


 見ると、馬売りの店主は目がハートマークになってこちらにずっと手を振っている。


 「あの、もしかして……」

 「お前らにはあまり見せたくは無かったんだけどな。ちょっとアタイもムカついたからな。」

 「我らが持っている“魅了”の力って、何の為にあるかお前たちは考えたことはあるか?」


 それって、魅了の力を使ってあの店主から馬を取り上げたって事?

 でも、それは他人を貶めて自分の欲を満たすことって事じゃないのかな……


 「うむ、客観的に見ればその通りだ。だがな、店主視点でみたらどうか、を考えてみろ。」


 店主視点?

 ちょっと考えてみる。

 店主は私達を見定めて価格を不当に釣り上げた。

 それは店主が私達を貶めて不当な利益を得ようとしたからだ。

 あれ?それって……


 「解ったか?私とウリエルがやった事は、店主がお前たちにした仕打ちと全く同じことだ。こういうのを自業自得、因果応報って言うんだよ。」

 「それは……」

 「だがな、これが正しいとは思うな。間違っている事に変わりはないんだ。これは本来すべき事ではない。」

 「ルナ様……」

 「まぁな、お前たちが暮らす世界は、こういう強欲ってのが薄いからこんな事はあまり起こらないってのもあるけどな。」

 「人間の本質はな、自己の欲を満たすことを最優先とする者もいるんだよ。これが、アイツが言う“負の面”の一部なんだ。」

 「……」


 悪意や恨み、妬み、強欲……

 人間のみならず、魔族でも龍族でも怒りや憎しみや恨みという感情は持っている。

 でも、私達が暮らすあの世界は、それが限りなく薄まっている。

 その理由は、コアがそれを吸い取ってくれていたから……

 代償としてモンスターという物理現象が人々に襲い掛かってきているけれど。

 それが機能していない、あるいは存在しないかもしれないこの世界は、もしかすると人間は本当の姿で生きている世界なのかな……


 「まぁ、いずれにしても、だ。お前らが気にする事じゃないし、そんな世界もあるんだって事を知るだけでいいんだよ。」

 「魅了の力は、本来相手を服従させる力なんだ。それだけ覚えておくんだ。」

 「ルナ様……」

 「ウリエル様……」

 「ま、辛気臭い話はここまでだ。」

 「ああ、金銭云々よりも、なによりこの馬達が私達と一緒に行きたいと言っているんだからな。これはこの馬達の意思を汲んだ、と思うんだな。」

 「そ、そうなの?」

 「ブルル!」

 

 馬さんたちは私とシャルルに頭を寄せ、身体を押し付けてくる。

 ホントにこの馬さんたちは一緒に行きたいんだろうなと思った。


 「まぁよ、この先行くところって大体ここと同じだからな。それを学べただけでも良しとすべきだな。」

 「そうですね。これが、人間本来の世界、なんですね。」

 「ああ、これでもまだ生易しい方だがな。」


 これがアマゾン大陸、というか、これがリアルな人間社会、なんだろうな、きっと。


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