第48話 再出港

 島で過ごす事3日目のお昼。

 軽くブランチを済ませた私達の元に、あの航海士の人がやってきた。


 「あ、あの、出航の準備が、その、で、できまひた……」


 あー、これはちょっと申し訳ないなぁ。

 モロにルナ様とウリエル様の水着姿を見ちゃったかー。

 これはちょっと、航海士さんが可哀そう……


 「あの!失礼な事言いますけどごめんなさい!」

 「え?」

 「ディーナ様とシャルル様、その、き、奇麗です……では、船までお戻りください!失礼します!」


 そう言って航海士さんは脱兎のごとく戻っていった。

 え?ルナ様とウリエル様に見惚れてたんじゃ?


 「あー、一応私らはフィルターをかけていたからな。」

 「お前ら、罪作りな奴だな、うひひ。」

 「「 ええー…… 」」


 ま、まあ、しょうがないよね、うん。

 あとでそのフィルターってやつのかけ方、教えてもらおう。

 という事で船に戻る為に後片付けをして、人魚さん達ともお別れの挨拶をした。


 「本当にありがとうございました。」

 「とても感謝します。」

 「いいんだって、そのくらい。ね、また会えるかな?」

 「そ、それが……」

 「あー、そういやあなた達はアレだったね、でも、それも寂しいな。」

 「そう、ですね、せっかくお友達になれたのに……」

 「ま、でもきちんと見送るよ。それに、あなた達の事は忘れないからさ!」

 「「 はい。 」」


 お別れするのはとても寂しいし辛い。

 だけど、私達はこの世界の住人じゃないし修行が終われば元の世界に帰ってしまう。

 でも、こうして出会えた事はとても嬉しいし、忘れる事はないと思う。

 お父様が言ってたっけ、なんてったかな、そう、『一期一会』だ。

 人と人の繋がりを大切にしなさいって言ってたな。

 今はそれが凄くわかった気がした。


 船に戻ると、点呼の後錨を上げ再出航となった。

 進みゆく船の傍には、人魚族の方々が見送りをしていたので、私達はデッキに出て手を振ってお別れをした。

 他の乗客乗員もほぼ総出で、人魚に感謝と別れを告げていた。

 と


 「あなた達にも感謝しています。怪我を治してくれてありがとう。」

 「おねーちゃんたち、カッコいい。」

 「本当にありがとう!」


 ちょ、ちょっと照れくさいけど、みんなが無事な事が何より嬉しいよね。

 こんな他人に感謝されるなんて事無いから、戸惑っちゃうよね。

 シャルルも笑顔が引きつってるし。


 直ぐに客室へと戻り、泳ぎも含めたイメージトレーニングを再開した。

 船長さんの話では、あと7日くらいで港へ着く予定なんだとか。

 結局、予定より4日遅れでの到着だ。


 あの嵐さえなければ楽しい船旅だったんだろうけど、逆にあの嵐が無ければ人魚さん達とは出会えなかった。

 なんか、こういう巡り合わせって、不思議だとおもう。


 順調に航海する事3日。

 何やら船長さんが難しい顔をして、珍しく船首デッキに立っていた。

 何かあったのかな?

 そう思って、私達は声をかけてみたんだけど……


 「あの、ですね、実は航海士のドナルドって奴が居るんですが、そいつがどうも仕事が手につかないみたいでね。」

 「そ、それって、私達を呼びにきた航海士さん、ですか?」

 「は、はい。えー、ぶっちゃけ言いますが、あなた達に、その、惚れたみたいで……」

 「……」


 やっぱり、だ。

 魅了の力に中てられちゃうと、それってもう恋煩いとかいうレベルじゃないって言ってたなぁ。

 ど、どうしよう……


 「それで、どうやってアイツの目を覚まそうかと思案してましてね。」

 「あの、その……」

 「ご、ごめんなさい……」

 「あ、いやいや、あなた達が謝る事じゃないんです。どっちかと言うと、アイツは寄港する度に地元の女性を口説きまくってた女誑しなんです。まぁ、天罰が下ったんでしょうよ。」


 て、天罰って……

 確かにあの航海士さん、キリっとしてたし容姿も良い方なんだろうし、動きもテキパキとして良かったし。

 物腰も柔らかかったしね、たぶん女性にはモテたんだろうけど、女誑しって。

 一瞬、誰かを思い出してしまった。

 いやいや、お父様は違う、はず……


 「ま、海の男です、こういう話はよくある事なのであなた方は気にしないでください。オレがよく話して目を覚まさせます。」

 「は、はい。」

 「いずれにしても後数日でこの航海も終わりです。オレ達はそのまま別の大陸へ向かいますので、港でお別れになりますからね。」

 「そ、それもちょっと寂しい、ですね。」

 「あはは、旅ってのはそういうものです。そういう所も含めて、色々と経験できる素晴らしいものなんですよ。」

 「そう、ですね。本当にそうだと思います。」


 船長さんは「さて、ドついたほうが早いのかなぁ」とか言いながら艦橋へと戻っていた。

 海の男って、逞しいんだなぁ。

 と、そこにルナ様が来た。


 「そうか、それならその束縛は解除できるぞ?」

 「そうなんですか?」

 「ただし、あまり推奨はできない。記憶を操作するのでな。」

 「あー、そういう……」

 「いつだったか私もうっかり見られてやらかした事があってな、その時に試したんだが効果は抜群だったぞ?」

 「え?それって相手はどうなったんですか?」

 「何事も無かったように日常に戻ったみたいだ。ただ、その後タカヒロにはこっぴどく叱られたがな。」

 「……」


 ルナ様の考えも、お父様の考えも、どっちもわかるような気がする。

 ほんと、こういう色恋沙汰っていうか、この場合は魅了の力の事なんだけど、男女の情って難しいしメンドクサイよね。

 そういえば、何で魅了の力って女性にしかないんだろう?


 「いや、男性にもあるって言ってたぞ、ウリエルが。」

 「そうなんですか!?」

 「ああ、あいつはそれにやられてタカヒロに惚れたって言ってたな。」

 「「 えぇ…… 」」


 それはきっと勘違いというよりか、言い訳だと思う。

 やっぱり、フィルターってのは必要よね。


 「ルナ様、その、魅了を抑える“フィルター”ってどうすればできるのですか?」

 「ああ、お前達はまだ知らないんだったな。簡単だ、教えよう。」

 「ありがとうございます!」


 そんな事もありつつ、船は無事、かどうかは定かではないけれど港へ着いた。

 ここは南米大陸の西側、確かスマラカタっていう港町だ。

 接岸したところでタラップが渡され、乗客はみな下船していった。

 私達は最後だ。


 「船長さん、お世話になりました、有難うございました。」

 「ちょっと迷惑をかけてしまいましたが、無事お連れできて安心しましたよ。姫にもきちんと伝えておきます。」

 「えへへ、姫って言っちゃいましたね?」

 「あー、フラン様、ですよ、あはは。」

 「ともかく、有難うございました。皆さまにもよろしくお伝えください。」

 「はい。では、道中お気をつけて、さようなら。」

 「さようなら!」


 こうして長かったような短かったような船旅は終わった。

 船を後にする時、デッキにドナルドさんがいてこちらを見ていた。

 せっかくなので大きく手を振ると、ドナルドさんはサムアップサインを出してから手を振ってくれた。

 どうやら大丈夫なようで安心した。


 さあ、ここが南米大陸だ。

 目指すは大陸北側の山間部にある、コアの封印場所。

 そこにはコアが存在しているんだろうか、あるいは……


 ともかく、出発だね。


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