第47話 魅惑のマーメイド


 「昨日の嵐の時、客船を助けてくれた事、感謝します。ありがとうございました。」

 「なぜ、それが分かるの?」

 「あの、実は、私達のお母様に人魚がいるんです。」

 「えーと、ディーナとシャルルは、吸血鬼と龍、の子なのよね?人魚がママ?」

 「うーんと、ちょっと複雑なんですけど、お父様は12人の妻がいまして……」

 「そ、その中の一人が人魚なんです……」

 「人間が魔族や龍族、人魚まで娶ったの?」

 「は、はい。」

 「へぇー、凄いねー。でも、龍族って人間を嫌いなんでしょ?」

 「それが、ですね……」

 

 重要な所は暈かして、その辺を人魚に話した。


 「なるほどねー。でも、話の通りだとその人魚はこの辺じゃなくて西洋の人魚族なんだね。」

 「あなた達はこの近辺の集団なのですか?」

 「うん。海洋毎に国というか集落があってね、この辺は私達のテリトリーってことだよ。」

 「他の海域の人魚とは交流はあるんだけど、それぞれに生活しやすい環境があるんだ。」

 「だから、あんまり他の海域で長い事生活するって事はないかな。」

 「そうなんですか。あ、でも、」

 「あの唄の旋律って、お母様の唄と一緒でしたよ?」

 「ああ、あの唄ね。あの唄はその昔に人魚族を束ねる王の姫様が唄った唄でね。」

 「それが人魚族全体に広まって定着した、言わば人魚族である証、人魚族そのものの唄みたいなものなんだよ。」

 「へー、そうなんだ……」

 「何というか、そのメロディー、旋律だね、それってすごく癒される感じがする。」

 「他種族にしてみればそうかもね、でもね、この唄ってね、元は悲恋の唄だったんだって。」

 「そうなんですか?」

 「うーんとね、勇者って知ってる?」

 「どっちの?」

 「どっち?」

 「あ、いえ、勇者様ですよね、知ってます。」

 「姫様が勇者様恋しさに唄ったのがその始まりだったんだって。」

 「へぇー。」

 「じゃ、じゃあ、その姫様は、勇者様とは結ばれること無く?」

 「いいえ、しっかり勇者様との間に子を儲けたそうよ。」

 「へ、へぇー……」

 「あー、私もそんな恋がしてみたい!」

 「でも、人間はちょっとねー。」


 何と言うか、人魚族って特別でもなんでもなく、私達と同じなのね。


 「あ、でも、どうして船の人たちを?」

 「あのね、凄く簡単に、正直に言うとね。」

 「あんまりこの辺で人間に死なれても困るからよ。」

 「へ?」

 「たまに今回みたいに嵐に巻き込まれて船が沈んだりするんだけど、人が死ぬとその処理が面倒なのよ。」

 「処理?」

 「死んだ人間を陸まで運んで、地に埋めて弔うの。それも大変なんだけど」

 「死体からは稀に変な“イヤな気”が出てね、それがとても厄介なんだよ。」


 それってもしかして、お母様達が言っていた“瘴気”みたいなもの?

 そうなると、“コア”はあまり機能していないのか、あるいはやっぱりコアそのものが存在しない可能性が高い、のかな?


 「あの、その嫌な“気”っていうのは?」

 「あれはね、長が言うには人間の“闇の心”って言ってたよ。」

 「それには気を付けろ、触れるな、ってきつく言われてるんだよ。」 


 という事は、“瘴気”で間違いない、よね。

 つまり、コアは機能していないか、存在しない?

 これって、大前提としてこの世界の人間は負の面、正の面を等しく備えているって事、だよね。

 それはきっと、サダコお母様とカスミお母様が良く知っている世界、お父様が元々いた世界と同じ……


 「ね、辛気臭い話より、貴女のそのお母様の事もっと教えてよ。」

 「え?は、はい、そうですね。それじゃ……」

 「ねね、その人はちゃんと人間みたいに二本足になれるんでしょ?」

 「それってね、本当に人間に恋をしないとできないんだってよ!」

 「えー、じゃあ、どうやって人間と恋仲になったのかな?」

 「ねーシャルル、その辺詳しく!」


 何と言うか、人魚の人たちは恋バナが好きみたいね。

 でも、私もシャルルもそっち方面はてんで疎いんだけどなぁ。

 というか、ちょっとコアの事については、いろいろ難しくなってきたな……


 翌日、仲良くなった人魚の方たちに、泳ぎの手ほどきを受けたんだけど。

 根本的に体の造りが違うので泳法自体は参考にならない点も多いのは申し訳ない、かなぁ。

 でも、さすがは海の中で暮らす人魚さん達、人間の体に合った泳ぎ方とかを丁寧に教えてくれた。


 お陰で、ちょっとは泳げるようになった。

 ありがとう、人魚さんたち。

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