第40話 これからと、これまでと。


 王国奪還は為され、今は争いの後片付けの最中だ。

 あの後、ワキムカン国王達の骸は集められて城外で晒された。

 王国乗っ取りに携わった者は、一部を除いて全て抹殺されたみたいだ。

 その人達の骸は、全て晒されている。

 ちょっと、残酷というかグロというか、晒す事に意味はあるんだろうか、とも思っちゃうけど


 「こういうのはな、“見せしめ”として再発させない抑止力にする事も、人間に対しては有効なんだと思う。」

 「でも、ちょっと直視に堪えない……」

 「まぁな。でもよ、人間の歴史なんてな、事実としてこんな事の繰り返しなんだ。アイツもそれが判ったうえでこれに賛同したんだろうよ。」

 「そう、なのかな……」

 「だけど、こんな酷い事を、お父様は繰り返したくないって思っているはず、ですよね?」

 「ああ、だからこそ迷っているんだろうし、その道を私達が示してやらないと、な。」

 「アタイらは具体的な例を知ってるんだ。アイツには方向性を示すだけで充分だと思うぜ?」

 「そう、ですね……」


 後片付けの傍ら、サクラお母様達を中心に主要な者が集められてこれからの事を話し合う事になった。

 私たちも参加するように言われたので、その場にいる。


 「タカヒロ様、ファルク様達、ルナ様達。あなた方のお陰で王国は取り返す事が出来ました。とても感謝いたします。」


 少しサクラお母様とローズお母様の目が赤く腫れぼったいのは、きっといろんな感情が噴き出てきていたから、なんだろうなぁ。

 夕べは一睡もしていない、っていうのもあるんだろうけど。


 「ラディアンス王国は生まれ変わらなければなりません。それには、復興の為の力が必要になります。」

 「サクラ姫、僕達はこのままこの国に留まるつもりです。なので……」

 「その事も含めて、これからの体制を作り上げたいと思い、皆さまに集まっていただきました。」

 「わかりました。」

 「早速ですが、我が王国の国王にはタカヒロ様を擁立したいと考えています。」

 「ちょ!ちょっと待ってくれ!」

 「タカヒロ様?」

 「それはダメだ、いくら何でも俺にそんな資質はない。せっかく国を良くしていこうってのに、俺じゃ逆に悪くしてしまう。」

 「そうは思えませんが、でも……」

 「サクラ、君が女王じゃダメなのか?」

 「いえ、しかし……」


 サクラお母様の考えは手に取る様にわかるなぁ。

 確か、私達の世界でも似たようなやり取りをしたって、サクラお母様から聞いたし。


 静まり返る場内。

 と


 「サクラ、どう考えても俺には無理だ。でも、サクラもっていうなら、他に適任が居るのかを考えないと、な。」

 「お姉様、それなら」

 「ローズ、そう、ね。そうでしたわね。ニーハ。」

 「はい。」

 「直ぐにモンテニアルへと走ってもらいます。書簡は今から書き留めます。」

 「承知しました。すぐに早馬を準備します。」

 「皆さま、申し訳ありません。ここは一時中断とします。後ほど再開しますので、その時に再度集合をお願いします。」

 「サ、サクラ?」

 「タカヒロ様、お話があります。こちらへ。」


 サクラお母様はお父様を伴なって別室へと向かった。

 残った私達は特にすることもないので、その場にいる事にしたんだけど。


 「ちょっと、いいかしら。」

 「ローズ様?」

 「あなた達に聞きたいことがあるの。」

 「は、はい。」

 「あなた達は、あの機械の猛獣の事を知っていたみたいだけど、なぜ?」

 

 ローズお母様の表情には、少し警戒というか訝し気な感じが浮かんでいる。

 

 「あの機械の猛獣については、私とシャルルは知っていても見た事はありませんでした。」

 「正直に言いますと、あれは異世界の兵器、というのが私とディーナの見解です。」

 「あなた達は、知っているけど見たことがない、と?」

 「はい。」

 「それについては、私が説明する。できれば、誰もいない所か、人払いをして欲しいんだが。」

 「……わかったわ、じゃぁ、こちらへ。」


 と促され、私達とローズお母様、カスミお母様だけで別室へと入った。


 「わざわざ申し訳ないが、君たち以外に知られると困るのでな。」

 「困るようなモノ、なのかしら?」

 「あれ、ロボットでしょ?この世界のモノじゃないよね?」


 カスミお母様は何となくだが理解しているみたいだ。


 「まず、あれは“アーマー”と呼称される殺戮兵器だ。遥か昔に人間によって開発され、とある者によって量産された悪しき兵器だ。」

 「遥か昔……」

 「カスミ、君が居た世界でいう産業ロボットと軍事兵器を組み合わせたもの、と言えば、理解できるか?」

 「わかるけど、なんでそれを貴女が知ってるの?」

 「その量産したとある者、それが、私だからだ。」

 「ッ……!」

 

 ローズお母様とカスミお母様の表情が一気に変わった。


 「それじゃ、あの兵器は、貴女がここに……」

 「誤解の無いようにいっておく。ここに居たこの世界のアーマーは、恐らくは私の手によるモノとは別ものだ。」

 「ど、どういう事なの?」

 「あ、あの!」

 

 あ、思わず口を出してしまった。

 でも、言わないと。


 「あのアーマーは、私達の世界とは、また違う世界で造られたモノ、なんです。」

 「え?」

 「私達の世界では、確かにルナ様が、その、指揮をとって争いをしていた、と聞いていましたが……」

 「??」

 「いや、ディーナ、そこまでだ。これ以上は理解の範疇を超えるだろう。」

 「ルナ様……」

 「ただ一つ言える事は、今の私は、今回のアーマーの件に関しては無関係だ、世界が違うしな。それだけを解ってもらえれば良い。」

 「そ、そうなの……」

 「それで、わざわざ他者のいない場所にしてもらったのは、これから言う事は他言無用で、という事だ。できれば、時が来るまでタカヒロにも内緒にして欲しい。」

 「……内容にもよるわ。」

 「聞けば納得すると思う。なのでそれで良い。」


 ルナ様は、ほぼ事実をローズお母様とカスミお母様に伝えた。

 私達の世界の、あのジーマの事だ。

 お父様がこちらの世界へ召喚されてから、メテオインパクトの事、二つに分かれた星の事、そして、ルナ様がブルーだった時の事。

 そして……


 「今この世界は、それとはまったく別の世界線だと言える。だから、本来地球を救うはずの目的を失ったタカヒロは、この世界では余分な危険因子でしかなくなっている。」

 「……そ、それって、タカヒロは、この世界にいちゃいけないって事なの……」

 「それは、タカヒロにとっては、という側面だけだ。ミノリとか言ったか、あいつはこの世界にはタカヒロは必要、意味があると言っていた。」

 「……そう、それでこの前、あなた達はあんな事を言ったのね。」

 「すまない、こればかりはまだあいつに言う訳にはいかなかったものでな。」

 「そう、よね……」

 「でも、だよ?そっちの世界とこの世界は違うのに、何であのアーマーとかいうのが存在したのさ。」

 「それなんだが、これは推測になるが良いか。」

 「まぁ、良いも何も何一つわかんないからね、こっちは。」


 ルナ様の推測っていうのは、

 メテオインパクトっていう天災がないまま時が流れ、その過程のどこかであのアーマーは造られたのではないか、と。

 カスミお母様は、自分が居た世界の科学技術レベルがそのまま時が経って進化したなら、その可能性は非常に高いと考えたみたい。

 じゃあ、なぜそんなモノが今この世界、時代に存在したのか、だけど


 「たぶんだが、過去に隠ぺいされたあれらをあのダルシアとかいう者に発掘された、のかも知れない。古代兵器みたいな感じで。」

 「で、でも、発掘して直ぐに扱えるような代物なの?あれ。」

 「そこも推測の域を出ないが、ダルシアにはその能力があった可能性もある。あるいは」

 「あるいは?」

 「ご丁寧にも取扱説明書があった可能性もある。」

 「兵器の取説って……」


 聞けば、アーマーは電源さえ途絶えなければ機能不全に陥る事はない、という。

 ただし、それはルナ様がかつていたジーマでの話だ。

 この世界のアーマーが、全く同じという事は無い可能性もある。

 それに、アーマーの行動には必ず統制する者が必要なのだとか。

 ダルシアという人が、それを実行した、あるいは偶然できたのかも知れない。

 

 「いずれにしても、全て推測の域をでないのね。」

 「すまないが、調べる事もできないのでな。ただ、あのアーマーは他にも居るだろう。発掘されていない、あるいはどこかに格納されている、かも知れない。」

 「あんなのが、他にも……」

 「なので、先ほど確認したのでこれは確実だが、あれを機能停止にすることは可能だ。」

 「え?」

 「簡単、だけど簡単ではない。」

 「どゆこと?」

 「個体のケツの穴の部分にタッチプレートがある。そこを少しの間触れれば、完全に沈黙する。」

 「ケ、ケツのあなって……」

 「でも、そこに近づくっていうのは」

 「かなり難しいだろう。現状、もっとも簡単に処分する方法は、タカヒロが本来持つべきだった力を手に入れる事だ。」

 「でも、それって……」

 「なので、これもまだ秘密にしてほしい事なんだが、まずはタカヒロにシヴァと姫神子とを会わせて欲しい。」

 「え?何で?」

 「それによってタカヒロは力を得るはずだ。仮に違ったとしても、今よりは強くなる。それこそ、アーマーを丸腰で一撃粉砕できるくらいには。」

 

 お父様は現段階では力に目覚めたばかりの状態、だと思う。

 魔族、龍族、シヴァ様、姫神子様と触れ合うにつれ、その力は増大していくはず、というのがルナ様の話だ。

 根拠は他でもない、私達のお父様が全くその通りだったからだ。

 それともう一つ。


 「ジパング、という島国があったはずだ。」

 「え、ええ、東方の島国よ。」

 「そこに、こう、ちんまりした“妖怪”とかいう者が居るはずだ。そいつにも引き合わせて欲しい。」

 「はい?」

 「確か、座敷童、とかいったか。それは後々タカヒロに言えばわかるが、“佐白山”と“加波山”という山へ行けば解るはずだ。」

 「でも、ジパングって」

 「あー、英雄一行にいるフランに頼めば何とかなるかも知れない。」

 「ちょっとまって、どれを、どこまで内緒にしておけばいいのさ!」

 「まー、そうだな、メモはあるか?」


 こうして、ローズお母様とカスミお母様にだけは、これからの事をチャート付きで説明したのだった。


 結局のところ、あのアーマーはこの世界の過去に造られたものなんだろう。

 この世界には、ルナ様はブルーとしても存在していない。

 それだけは確実みたい。

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