第41話 確認すべきもの、コア

 お父様達は、明日モンテニアル王国へと向かうそうだ。

 それってきっと、サクラお母様の弟君のラーク様を国王に据える為、そして、お父様とこの後もずっと一緒にいる為に。

 いつかサクラお母様が話してくれた、あの出来事だよね、きっと。


 「そうなのか、じゃあ、途中までは一緒に行けるんじゃないか?」

 「そうですね。ご迷惑でなければ、途中までご一緒したいです。」

 「あ、でも私達は馬車を持っていないので、一緒には行けないか……」

 「ああ、そんな心配はいらないさ。馬車なら俺が手配してあげるよ。」

 「え?良いのですか?」

 「もちろんだよ、な、サクラ。」

 「はい、もちろんです。あなた達には返しきれない程の恩があるんですもの、ね。」

 「サクラ様、あ、ありがとうございます。」

 「そんで、君たちは東の海岸にある町へ行くんだよな?」

 「はい。町の名前はわからないのですが、用があるのはその先なんです。」

 「その先っていうと、海?」

 「えーっと、そう、なります。」

 「??」

 「まぁ、私達は私達ですべき事もあるのでな。お前はさっさとサクラ達の想いに応えてやれ。」

 「え?いや、なんで貴女がそれを……」

 「ルナ様、なぜそれを……」

 「あー、いや、すまない、私が言う事じゃないな、うん。」


 私達は、海に潜ってこちらのコアの確認をしないといけない。

 何処に、どんな形で、どんな物があるのか、を。

 おおよその場所は知っているんだけど、問題はどうやってそこまで行くか、だね。


 ひとまずは海岸沿いの町までの足は確保できた。

 そこまでの道順も教えてもらった。

 あとは明日の出発を待つだけなので、今日はゆっくりと休むことにした。


 「ねー、ディーナとシャルルは別の世界から来たんだよね?」

 「はい、カスミさん。」

 「あんた達の世界って、どんな所なの?」

 「あ、それアタシも興味あるな。良かったら聞かせてよ。」


 私達は今、ローズお母様とカスミお母様、リサお母様との“極秘ミーティング”の真っ最中だ。


 「えーっと、ですね、私達の世界はこちらと大体同じ、ではあります。」

 「大体同じ?」

 「はい、でも、ちょっとだけ便利な世界、といえばいいのかな……」

 「へー、例えば、どんな?」

 「あの、この灯りとかは油じゃなくて“電気”というものが使われていたり。」

 「電気!あんた達の世界は電気が使えるの!?じゃあ、湯沸かし器とか、洗濯機とか、電話とか、テレビとかラジオとか、電車とか!」

 「ええと、大体そんな感じですが、テレビ?」

 「あ、それは無いのね。」

 「それって便利、なの?」

 「は、はい。料理するのも火を起こさなくて済みますし、お湯もいつでも使えるし、洗濯も楽ですし夜は暗闇でもすぐに明るくできるし……」

 「へぇー」

 「ねぇ、じゃあ、あのロボットって、やっぱりあんた達の世界で造られたの?」

 「それが、ですね……」

 「あの、私達の暮らしが変わったのはあのロボット、アーマーの残骸から取り出した“発電機”というものを見つけたから、と聞きました。」

 「あのアーマー自体は、元々存在しなかった、とも聞いています。」

 「え?それって?」

 「えーと、確か別の星から来たって言ってました。」

 「えー!それってUFOとか、宇宙人とか!?」

 「UFO?」

 「うちゅう、じん?」

 「あ、違うの?」


 カスミお母様だけはその辺、お父様と同じだから理解も早いのね。

 私達の世界に関しては、なかなか興味は尽きないみたいね。


 そんな私達を他所に、ルナ様とウリエル様は静かな東塔の屋上にいた。



 「しかしよ、この世界も相当酷いよな。」

 「いや、どちらかといえば、私としては懐かしさすら覚えるな。」

 「ジーマの世界はこんな感じだったのか?」

 「いや、ジーマというか、それ以前、だな。」

 「そりゃあのメテオなんとかの頃か?」

 「ああ、タカヒロが元々居た時代と、それ以前の時代、だな。そういう情報はライブラリで全て知った。」

 「ほう。」

 「その頃も、地球上のそこかしこで人間同士での殺し合いをしていたよ。その理由なんて全て、人間が自分勝手に作った理由だ。自ら争う理由を作り、自らを傷つけて、な。」

 「どうしようもねぇな……」


 「おや、ここに居たんですか、ルナさん、ウリエルさん。」

 「おお、タカヒロか。」

 「あのな、アタイの事はさん付けすんなよ、こいつにもさ。」

 「そうだな、呼び捨てだったか、その方が良い。」

 「そ、そうなの?じゃ、そうさせてもらおうかな、ルナ、ウリエル。」

 「あ、ああ、それでいいぜ。」

 「もっと言ってくれてもいいぞ?」

 「へ?」

 「い、いや、何でもない。」

 「そ、そうか。」


 「で、お前はどうしたんだよ、こんな所に。」

 「うん、ここは俺のお気に入りの場所でさ、考え事をするのにちょうどいいんだよ。」

 「そうなのか、じゃあ、私達は邪魔か?」

 「いや、居てくれよ、せっかくなんだしさ。」

 「そうか。」


 夜風が頬を撫でる。

 傍らにはタカヒロが居る、居てくれている。

 こんなひとときが、とても懐かしく、とても嬉しく、そして少し悲しく感じる。

 気が付くと、視界がほやけた。

 涙が、零れた。


 「ル、ルナ?どうしたんだ?」

 「あ、ああ、いや、何でもない。ちょっと、センチメートルになっていた。」

 「そうか、ミリじゃなくてセンチか…ってそれを言うならセンチメンタルだろうよ。」

 「そうとも言うな。でも、このジョークを教えてくれたのは……」

 「くれたのは?」

 「あ、いや、忘れてくれ。」

 「??」


 ウリエルはそんな私とタカヒロを、私と同じ思いで眺めているんだろう。

 押し黙ったままだ。

 

 「なあ、君達は海まで行って何をするんだ?」

 「まぁ、ヒミツ、ではあるがな。お前には少しだけ教えておこう。」

 「秘密なのにか。」

 「ああ。実はな、私達の世界には、その場所に“あるモノ”が存在する。こちらにもそれが有るのかを確かめに行く。」

 「あるモノ?」

 「なぁ、タカヒロ、アタイらはな、この星に生きるものが手を取り合って生きていける世界ってのを良く知っているんだ。」

 「それって、平和な楽園、天国みたいな所?」 

 「いや、楽園って訳じゃない。諍いや事件事故、貧富の差、天災による悲劇はあるんだよ。」

 「でもな、少なくとも人間の悪意を始めとした負の面による悲劇は極めて小さいんだ。そういう世界の礎を築いたのが、あの子達の父親なのだ。」

 「へー、凄いな。まるで勇者だな、その父親ってのは。」


 (( お前だよ! ))


 と、私とウリエルは心の中で同時に突っ込んだのだ。

 が、それは今言う事じゃない。


 「その“あるモノ”というのが、その世界を維持しているのだよ。」

 「何れわかると思うから今は黙っとくけどよ、お前がこの世界に来たそもそもの理由ってのも、それに関係してるんだぜ?」

 「俺が来たそもそもの理由って?」

 「今は言えない。でもな、それを知ってもな、お前が気に病むことは無い。お前のムスコも、ムスメも無事だって事だけ覚えとけ。」

 「な!なんでヤマトやミトの事まで!?」

 「それも、お前がその理由を知る時にわかるだろう。私達の存在そのものも、な。」

 「それって……」

 「たぶんお前はこれだけで何となくアタイらの事が想像つくだろ?でもな、それは今はまだ誰にも言うなよ。」

 「……」

 「一つだけ、言っておく。お前は必ず、お前が思うような世界を築けるだろう。だから、挫けるな、諦めるな。」

 「アタイ達は用が済んだら元の世界に帰る。だけどよ、違う形で必ず再会するからな。」

 「私達が元の世界に帰れば、もうここに再び来ることはない。でも、私達の事を忘れない事だな。」

 「なんか、それって少し寂しいな。」

 「お前にとってはそうかもな。だが、私達のそれは未練、なんだろうな。」

 「……それって……」

 「ああ、忘れてくれ、戯言だ。」

 「もしかして、君たちやあの子達って……」

 「言わなくていい。というか、言うな。今はお前の心に留めておけ。」

 「……ああ、わかったよ、ルナ、ウリエル。」


 もう、タカヒロは気付いているだろう。

 でも、私が元々はルナではなくブルーという事は理解できないし、知る必要もないだろう。

 それなら、その方が良いと思う。

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