第39話 お父様はやっぱり凄い人だった

 それから、気が付いたら立ち尽くしていた。

 ついさっきの記憶がなく、茫然としていたら


 「大丈夫かお前ら!」

 「は!はい。」

 「止まるな、行くぞ。」


 ルナ様とウリエル様の後についていく。

 ついさっきまでの事が思い出せないけど、拘泥している場合じゃない。

 ルナ様たちは玉座の間へと入っていった。

 そこにはお父様達と一人の男が対峙していた。

 お父様は無事だったみたいだ。

 ホッと安堵の息が漏れた。


 黒い装束に身を包み歪んだ笑みを浮かべ、体全体から身が震える程の悪意を放っている。

 これまで見たこともない、悪意に満ちた人間だ。

 これが本来の人間だとは思いたくはないけど、きっとこの男はその中でも特に酷い人なのかもしれない。


 サクラお母様が、その男に斬りかかる。

 でも、斬れない。確かに剣はその男に届いているのに。

 お父様も斬りかかり魔法を放つ。

 それでも、決定打にはならない。


 「くっ、ダルシア、あなただけは絶対に許せません……」

 「な、なんだ、コイツは……」


 見たことも無い、憎しみに満ちたサクラお母様の、怖い顔。

 それを他所に、ダルシアという人の周囲に赤い霧のようなものが立ちこめ始めた。

 あ、あれは……

 たぶん、逃げる為の何か?


 (ちッ、あのままじゃ逃げられる。仕方ねえ、ディーナ、シャルル、結界魔法だ。行けるな?)

 (え?ど、どういう)

 (使った事ないけど!)

 (フェスタ―とムーンの思考に同調しろ、すぐできる!)

 (( は、はい! ))


 大まかなイメージを思い浮かべ、精霊様に意識を投げる。

 すると、透明な膜が現れてダルシアとかいう人を覆った。


 「な!なんだこれは!て、転移ができぬだと!?」


 ダルシアという人が転移しようとしてたみたいだけど、その力は霧散したみたいだ。

 それを見逃すはずがないサクラお母様とお父様。

 サクラお母様の持つ剣に、お父様は火の魔法を纏わせた。

 魔法を行使できるようになってまだ数日なのに、そんな使い方を普通にしている。

 さすがはお父様、といった所よね。


 「いやぁー!!」


 気合一閃、サクラお母様の剣はダルシアを上下左右に切り刻む。

 同時に纏っていた火の魔法が分割されたダルシアの体を焼き尽くした。

 断末魔の叫びと共に、ダルシアという人は消滅した。


 静かに剣を収めたサクラお母様。

 お父様を見て、次いでローズお母様達へと顔を向け


 「最後の一人、ワキムカンはこの奥に居ます!行きましょう!」


 お父様たちは、玉座の間の奥、4種の神器のある部屋へと走る。

 私達はその後を追う、のだけど……

 部屋の前には、4人組の男の人が居た。


 「ここは通すことはできない。あなた達には退散してもらう。」


 黄金色の鎧と剣を持つ人を先頭に、後ろに3人。


 「あ、あれは!」

 「伝説の装具!?」

 「という事は、彼は、勇者!?」


 サクラお母様達もファルク様達も驚愕の表情を浮かべ明らかに動揺している。


 「んじゃぁ、こいつらが最後の敵ってことだな、うん。」


 そう言ってお父様は、その勇者らしき人達を一瞬で無力化してしまった。

 

 剣を使わずに顔とむき出しになっている腕や太腿へと強力な打撃を入れ、最後は剣の平で頭頂を叩いた。

 一瞬の出来事、勇者らしき人はその場に崩れ落ちた。

 仲間の3人はファルク様が片付けたみたいだ。


 かつて話に聞いていた、恐らくは偽勇者なんだろうけど、聞いていたよりは強そうだった。

 少なくとも、あの装具によって人間を超える力を得ていたみたいだ。


 そんな人間最強と思われる勇者もどきを、いとも簡単に見抜き無力化するって、お父様やっぱりすごい。

 でも、あの勇者もどきさん、本物の勇者に食って掛かるなんて、無謀よねぇ。

 幸いにも、勇者らしき人は死なずに済んだみたいだけど。


 というか、あの装具って……


 (ウリエル様、あれって……)

 (ああ、アタイだな、この世界の。ま、関係ないから無視しとくか。)

 (お前……)


 そんな私達を他所に、今度はローズお母様がワキムカンという人を追い詰めている。

 さっきのダルシアという人と同じ、醜悪な雰囲気を纏った人物だ。

 追い詰められ命乞いを始めたワキムカンという人。

 それを聞く耳持たないとばかりに、斬り刻んだ上に魔術を放ったローズお母様。


 「お父様、お母様!仇は取りました!」


 大粒の涙を流し、宣言するローズお母様。

 そんなローズお母様と抱き合うサクラお母様。

 その二人を、愛しむように見ているお父様。


 ローズお母様の宣言は城外にも届いたようで、城下町全体が歓喜に震えた。

 これで、王国奪還作戦は完全成功裡に完了したみたいだ。

 

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