第38話 そして私達は自分の力に気づく


 王国奪還作戦の決行に向けた準備が進められることになった。

 ネリス公国、山賊団連合、ラディアンス王国の抵抗勢力との連携も確認され、あとは決行の日取りを決めるだけになったみたい。

 でも、その前にしないといけない事もあるんだけどね。


 「じゃぁ、今日から数日は時間も取れるからさ、その、大精霊様、だったね。そこへ行こうと思う。」

 「タカヒロと私とカスミ、あとはあなた達、で良いよね。」

 「はい、それで大丈夫だと思います。」

 「んじゃあさ、アタイが先にあそこに行って話はしておこう。」


 お父様を大精霊様へと引き合わせる事になった。

 これで、お父様は本来の力を獲得できるはず、よね。

 すぐさま出発することになったんだけど。


 「サクラ様!大変です、ジャネット様が、ジャネット様がお越しになられました!」

 「何ですって!ジャネット様が!?」


 どうやらジャネット叔母様が迎えに来てくれたみたいね。

 こうして私達は人狼族の助けもあってミノリ様の森に数時間で到着した。


 「貴方がタカヒロ様、ですね。初めまして、ドライアドのミノリと申します。」

 「初めまして、その、トモベタカヒロです。」

 「そして、そちらの方は、ローズ姫、ですね、初めまして。」

 「お目にかかれて光栄です、ミノリ様。」

 「お話は伺っております。ですが、その前に。」

 「はい?」

 「コロル。」

 「はい、ミノリ様。」

 

 あ、カスミお母様だ。

 というか、コロルお母様の方、だね。

 カスミお母様は時々コロルお母様の姿になっている時があったから、その違いは良く解る。

 でも、なんでだったんだろ?


 「事情もありまして、カスミ様との約束も果たせていない状況でしたが申し訳ありませんでした。」

 「というと、俺を召喚したのは、ミノリ様?」

 「いえ、あなたをここへ呼んだのは、また別の存在です。が、今はまだそれも明かす段階ではない、と仰せでした。」

 「別の存在?」

 「その辺りの事も、この後お話します。まずは、カスミ様をこのコロルへと同化させます。」

 「生き返る、というよりも実体化するって事なんですね。」

 「はい、私達にはそれだけの力がありませんので、これが精いっぱいなのです、ごめんなさい、カスミ様。結果的に嘘をつく事になってしまって……」

 『いいよいいよそんなの。でも、そのコロルちゃんと同化してコロルちゃんは大丈夫なの?』

 「問題ありません。コロルも喜ぶと思いますよ、ねぇ、コロル?」

 「はい、嬉しいけどちょっと不安もある、かな。でもまぁ、よろしくね、カスミ。」

 『うん、ありがとう、コロル。こちらこそよろしく。』


 その後、お父様への魔法のレクチャー、ローズお母様への魔術から魔法への転換方法とかを話し込んで、この日はここで野宿する事にした。


 「ところでさ、君たちは力も魔法も、ケタ違いだよね。」

 「あ、あの、実は……」

 (ちょ、ちっとディーナ、ホントの事はまだ言っちゃダメよ!)

 (大丈夫、ちゃんと誤魔化すから)

 「実は?」

 「実は!」

 「あー、こいつらはな、勇者と魔族、龍族のハーフでもあるんだよ。」

 (ルナ様、ぶっちゃけた!?)

 「勇者って、あの500年前の?」

 「あー、それとは違うな。私の世界にも勇者が居たんだよ。」

 「へ、へぇー……」

 「それであなた達はそんな力をもってるのね。なら、あの強さは納得だわ。」


 その日はお父様とローズお母様、カスミお母様、リサお母様、そして私達と。

 お話で夜を明かしたんだ。

 とても、貴重で、大切な時間を過ごせた。

 


 数日後。

 いよいよ王国奪還作戦の決行となった。


 城下町で集結し出撃した私達は、城へと突入する段階となった。

 なったんだけど……


 「あれは、魔獣!」

 「しかも、あんなに沢山の……」


 城門の前には、モンスターが6体も居た。

 いえ、あれって、モンスターじゃ、なくない?


 「おいルナ、なんでアレがここに居るんだよ?」

 「わからん、が、あれは間違いなくアーマーだ。なぜ、この世界に?」

 「ってか、お前とは直接関係ないと思うけどよ、ちょっと厄介じゃねえかこれ?」

 「今のあいつで、無力化できるのか?」


 立ちはだかるのは、かつて別世界で猛威を振るっていたアーマーと呼ばれる機械獣だ。

 それを知るのはルナ様とウリエル様だけ。

 私とシャルルは、その残骸と話だけしか知らない。


 「タカヒロ様、あのアーマ、いえ、魔獣は!」

 「ああ、何となくだが、わかる。あれは、生物じゃないな……」

 

 さすがはお父様だ。よく見ている。

 とはいえ、お父様たちではアレは倒せないかもしれない。

 私達でも、ちょっと無理っぽい。

 だって、モンスターより手強そうだし。

 すると、ルナ様は


 「全員に告ぐ!あの獣は光の束を放つ武器を持つ。その攻撃は受けるな!避けろ!」


 と、みんなに告げた。


 「光の束って、もしかして、レーザーとかビームとか、か!?」

 「タカヒロ、アレは機械だ。普通の攻撃じゃ届かないぞ。」

 「そうか、わかった。」


 そう言うと、お父様はそのアーマーへと突進する。

 少しの間隔をあけて、ファルク様達と私達が続く。

 その後にサクラお母様たち山賊団だ。


 お父様がアーマーに攻撃をかける、んだけど。

 お父様の剣がアーマーに突き刺さり魔法で機能停止にはしている。

 でも、数が多すぎる。お父様の剣はもうボロボロだ。

 そして


 「サ、サクラー!」

 

 サクラお母様に向けて放たれた光線を、お父様はその身で受けてお母様を庇った。

 直撃を受け崩れ往くお父様。

 驚愕するサクラお母様。

 そこにさらに襲い掛かろうとするアーマー。


 それらが、すべてゆっくりと、スローモーションで見えていた。

 周囲の音も消え、なぜか景色はモノクロの世界になっていた。

 私の体は、それを認識していたのに思うように動かない。

 いえ、動いていたけど、意識に、意志に付いてこれていない。

 まるで夢の中のように、体が思うように動いてくれないんだ。


 胸を光線で打ち抜かれて、お父様の命の灯が消えていく……

 目の前で、最愛のお父様が、また……

 そう、思ったその刹那。


 「「 ぅわあああああー!!!!! 」」


 頭の中は真っ白になった。

 色んな感情が一気に湧き出てきた。

 体中を痺れるような感覚、熱い感じが駆け巡る。

 私とシャルルに、この時の記憶はない。

 でも、感覚としては残っている。


 後からウリエル様とルナ様が教えてくれたんだ。

 私とシャルルは、少し姿を変えた。

 そして、誰も視認できない速さでアーマーを全て切り刻んだらしい。

 それらの後にもまだアーマーは居たらしく、それらも全て、私とシャルルで屠った、と。

 ついでに、立ちふさがる敵も全て。


 記憶が残っていないのは、幸いなのか、不幸なのか。

 敵の殆どは、私達が殺したんだ。


 

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