第33話 もう一つの世界は何かが違った
私達を包んでいた黒い炎らしきものは霧散し、視界が広がった。
神殿ではなく、森の中、なんだろうか。
私達が立っている場所は草原なんだけど、周囲は円形に木々に囲まれている。
その中央には大きな木が一本立っていた。
その木の根元に、一人の女性が居た。
見た事がある、というより、よく知っている方だ。
「あら、これは珍しいお客様ですね。」
こちらに気づいて、その人はそんな事を言った。
「あなた達はこの世界の者ではありませんね?ようこそ、この世界へ。」
「あ、あの、あなたはもしかして……ミノリ、さま?」
「はい、私はミノリ、ドライアドのミノリと申します。あなた達は、もしやあの人と連なる者なのですか?」
「え?あ、あの人って……あ、いえ、私はディーナと申します。」
「私はシャルルです。あの、ミノリさん、あの人、とは?」
「うーん、何やら訳アリのようですね。そちらの方は人間でも魔族でも、龍族でも無いようですけれど。」
「私はこの者達の保護者だ、気にするな。」
「保護者?なのですか?ま、まぁ、わかりました。それで、なぜあなた達はここに?」
どうやらこの世界のミノリ様は、私達が何者なのかを朧気ながら察しているようだった。
なので、私達の素性はすっ飛ばして、ここに来た経緯と目的を話した。
「そうなのですか。つまりはあなた方はある人物とこの世界の未来を救う為に、という事ですか。」
「あ、あの、そんな大仰な事ではありません。」
「でも、その人達を助けたい、というのはその通り、です。」
「そうですか。あなた方からは、これまでにない不思議なものを感じます。シヴァ様からは、もしかするとあなた方のような者が現れるかも、という事は聞いていましたが……」
「シヴァ様が、ですか?」
「おや、シヴァ様をご存じなのですね?」
「あ、い、いえ……」
「うふふ、なるほど、ですね。何となくですがあなた方の素性は解ってきましたよ。」
さすがは鋭い人だなぁ。
シヴァ様程ではないにしろ、かなり長く存在している精霊様だもんね。
「ふむ、こんな所に人間とは、珍しいな。」
そんな声に振り向くと、2頭の金色の大きな狼が居た。
「ジャネット叔母様!」
「リサお母様!」
二人して思わず言ってしまった。
今この世界じゃ面識も無ければ、リサお母様はまだお母様ですらないのに。
「?叔母様?」
「お母様?」
「あ!い、いいえ、ごめんなさい、言い間違えてしまいました!」
「ちょ、ちょっとした手違いです!」
そんな様子を見て苦笑するミノリ様。
「ジャネット、リサ、この方たちは特別なお客様です。問題ありませんよ。」
「そうなのか。でもお前達、人間ではない、な?」
「え、えーと……」
とにかく、今のこの世界の状況も解らない上に、そもそも私達が別の世界の未来から来たっていう事すらまともな話じゃないし。
どうしよう?
「さあ、ひとまずあなた方をもてなす事としましょう。その上で、お話を聞かせてくださいな。」
「は、はい。」
―――――
「あの、ミノリ様。」
「なんでしょうか?」
「この世界には『過去から召喚された人』という方が居るのでしょうか?」
「“この世界”ですか?」
「あ!」
「うふふ、大丈夫ですよ。トモベタカヒロ、過去からこの星を救う為に召喚された人間、ですね?」
「……は、はい。」
「察するところ、あなた達二人は、あの人の血縁者、ではありませんか?」
「そ、そうです……」
「とはいえ、ディーナさん、でしたね、貴女は人間ではありませんよね?シャルルさんも、ディーナさんとは違う種族みたいですし。」
「あの、正直に話します。私のお母様は魔族、シャルルのお母様は龍族なのです。」
「え、えーと、という事は、あの人は複数の妻を?」
「……結果的に……」
「まぁ、それはまた……」
「あ、そ、それで、なのですが!」
「はい。」
「おと……タカヒロ様は今どこにいらっしゃるのでしょうか?」
「“お父様”は、現在は山賊団の方たちと行動を共にしています。というか、もう“お父様”で良いでしょう。」
「あ、はい。」
「でも、山賊団っていうとサクラお母様達と?」
「おや、あの人達もそうなるのですか。」
「あ、いえ、その……」
「うふふ、まぁその辺はもう気にせずに行きましょう。あなた達の素性も概ね理解できたことですし、現状を詳らかにしておかないといけませんね。」
ミノリ様が教えてくれたのは、
お父様はこの世界に来て、ミーア山賊団の人達と出会った。
でも、お父様はリサ様との邂逅を果たせていないので、まだこの世界での存在は確立していないんだって。
その身に2体の精霊様は宿ってはいるものの、お父様自身その存在自体感知していないみたいだ、と。
ただ、身体能力だけは元々この世界に顕現した事で人間を遥かに超えている為、山賊団の一員として迎えられているけど、魔法とかは今は全く使えないらしい。
「本来なら、この星は消滅の危機に瀕するはずだった、というのがこの星の意思の見解ではあります。が。」
「が?」
「それは無数にある“可能性”の一つにすぎず、タカヒロ様がこちらへ召喚された時点ではその可能性が非常に高かっただけ、という事のようですね。」
「では、今地球は?」
「この世界では、いわゆる“流星群衝突”という現象そのものが起きていません。それは、複雑に絡み合った世界が紡いだこの世界の現実なのでしょう。」
「じゃ、じゃあ、お父様がこの世界に来た意味って……」
「無責任な言い方をすれば“行き違い”です。この星を救う、という目的そのものが存在しないのですから。」
「そ、そんな……」
「ただ、ですよ?」
「は、はい……」
「無意味、という事は決してありません。」
「……」
「タカヒロ様がこの世界へ顕現したのは、必ず意味があるからです。その意味は、残念ながら現時点ではわかりかねますが。」
「……はい。」
エルデ様が言っていたのは、この事だったんだ。
悪い言い方をすれば、ただ単にこの世界へ飛ばされただけ、の状態。
何かをすべき、何かの為に、という、進むべき道がないんだ。
それは、お父様にとってどれだけ辛い事なんだろう。どれだけ悲しい事なんだろう。
それでも、前を向いて歩いていけるのかな……
自然と涙が零れた。
でも、そんな運命に放逐されたお父様を救う事が、今の私達の目的なんだ。
ここは、私が、シャルルが、行動しないといけないんだ。
シャルルも同じ事を考えたんだろう。
涙に濡れる目を合わせ、力強く頷いた。
「ミノリ様。」
「はい。」
「私達はすべきことがあります。ですので、力をお貸しください!お願いします!」
「ふふふ、もちろんです。もとよりそのつもりですよ。」
「ありがとうございます。そして、ジャネット様、リサ様。」
「うむ、なんだ?」
「あなた様方にもお願いがあります。」
「まぁ、私よりもリサに、だろう?」
「あ、は、はい!」
「うむ、良いだろう、な、リサ。」
「はい。でも、何を?」
「お父様に噛みついて欲しいのです!」
「はい?」
お父様から、リサお母様との出会いの話は聞いていた。
リサお母様に噛まれて魔力を分けてもらった事で、精霊様ともコミュニケーションが取れるようになったって。
「お父様に噛みつき、魔力を少しだけ分け与えて欲しいんです。」
「そ、そうなの?」
「それが、お父様がこの世界で存在を確立できる唯一の方法だと思うんです。」
「……わかったよ、その人に軽く噛みついて魔力を分け与えればいいのね?」
「ありがとうございます、リサおか、いえリサ様!」
「おか?」
「あ、いえ、また間違えました!ごめんなさい!」
「うふふ、間違えるのも仕方がありませんわね。」
こうして一先ず、状況整理も出来ていないけれど、お父様とリサお母様の邂逅を実現させる為に出発する事になった。
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