第32話 いざ!異世界へ!

 いよいよ神殿から異世界へ旅立つ時が来た。

 とはいえ、実際どんな世界へ行くのかはまだ分からない。

 すべては神殿に行ってから、よね。

 で


 「結局は、だ。アタイとルナも同行するんだが、さて、どうしようか?」

 「どう、とは?」

 「いや、お前はそのままでいいとしてだ、アタイは異世界で実体化できるかどうかは判んねぇだろ?」

 「こっちと変わらないんじゃないか?たぶん。」

 「なぁ、ディーナ、シャルル。

 ワールドはそのまま使えるとして、アタイが実体化できないとなると護衛役はこいつだけになっちまうが、大丈夫なのか?」

 「えーっと、正直な所、何とも言えない、です。」

 「どんな世界なのか解らない以上、不安しかありません……」

 「まー、そうだよなぁ。」

 「しかし、だ。それを今考えていてもどうにもならんだろう。どのみち、行くしかない。」

 「そうだなぁ……」


 珍しくウリエル様が困った顔をしている。

 というか、私達に至っては不安しかない、そんな表情をしているんだろうな。

 そんな気持ちで、マリュー様に従って神殿へとやってきたんだけど……


 破壊されて放置していた、と言っていたけど、そんな形跡は全然なかった。

 とても美しい、静かで心が安らぐような場所だった。


 「ほほう、なんと、自然に修復したのかの?」

 「大叔母様達が修復したんじゃ?」

 「いや、わらわ達は一切手をつけておらなんだ。不思議なものじゃの。」


 そんなことを話していると


 『よく来ましたね、ディーナ、シャルル』

 「こ、この声は?」

 「エルデ様?」

 『こうしてあなた達とお話するのは初めてですね、私がエルデ、かつてタカヒロに救われたこの星の意思です。』


 初めて聞くエルデ様の声。

 とても優しく、威厳もあり、安らぐような不思議な声。


 『あなた達には、一番近い並行世界の、200年前の世界へ行ってもらいます。』

 「200年前、ですか?」

 『はい、そこはメテオインパクトが回避された世界、にもかかわらずタカヒロが召喚されてしまった世界です。』

 「え?それは」

 『この世界の彼とは状況が違い、その世界での彼は、より過酷な運命を辿るだけの、救われない状況なのです。』

 「そ、そんな……」

 『その世界の彼を、あなた達に救って欲しいのです。それができるのは、あなた達だけ。彼を通じ、その世界の未来を明るいものにできるのも、あなた達だけなのです。』

 「……」

 『行ってくれますか?』

 「はい!行かせてください!」

 「その世界、そのお父様、そしてその未来を、切り開きたいです!」

 『あ、ありがとうございます。あなた達はやはり、あの人の子なのですね……』


 そんな話を聞いて、行かないわけがないじゃない。

 本来の目的は私達の修行のはずだけど、今の優先度はその世界を、お父様を救う事が上になった。

 それ自体が修行になるから、だとは思う。

 でも、気持ちはお父様やお母様達の未来を切り開く事を優先している。


 「ま、それで良いとは思うがな。」

 「エルデ、それで私達は一緒に行っても問題はなかろう?」

 『はい。貴女もウリエルも、こちらと同じように行動できるはずです。もちろん、力もそのままで』

 「そうか、それを聞いて安心した。」

 『ルナ、貴女にも辛い想いをさせてしまいましたね、すみません。』

 「そうなのか?そんな事は全然ないんだが、な。」

 『ふふ、それを聞いて少しは安心しました。では、準備はできましたか?』

 「「 はい! 」」

 『それでは送ります。』

 「二人とも、しっかりな、頑張るのじゃぞ!」

 「行ってきます、大叔母様!」

 「行ってきます、マリュー様!」


 そうして私達は不思議な黒い炎に包まれて、異世界へと飛んだんだ。




 「……行ったか。なにか、寂しい気もするのぅ。」

 「何、心配ない。私も行くからな。」

 「!!、誰じゃ!」


 いつの間に背後に?

 気を抜いていたとはいえ、わらわが気付かなかった、だと?

 というか、なぜ此処に居られる?

 何者、なのじゃ?


 「この者は怪しいものではありませんよ、マリュー様。」

 「おぬし!マコーミックではないか!貴様までなぜここに入れるのじゃ!?」

 「それはまた後で説明します。それより、この者があのお二人の傍にいるのであれば、最低限命の保証はされるでしょう。」

 「何じゃと?……というか、おぬし……その“気”は一体?」

 「帰ってきたら説明しよう。今はあの者たちの後を追う。では、な。」


 そう言って、その者は消えた。


 後を追うじゃと?

 そんな事が可能なのか?

 いや、それ以前に、何物なのじゃ?

 確かに、あの者からタカヒロ殿の気を感じた。

 どういう事なのじゃ?


 「マリュー様、心配は要りません。が、少しだけ私とあの者の事を説明いたします。」

 「……貴様、本当は何者なのじゃ?」

 「あのお二人とウリエル様、ルナ様には既に先日打ち明けましたが、私は……」

 『あなたは、マモン、ですね。』

 「おお、エルデ様はやはりお見通しでしたか。その通りです。」

 「マモン、じゃと?」

 「はい、私は古より存在する、いわゆる“悪魔”と呼ばれる存在です。」

 「悪魔じゃと!あの悪魔か。」

 「はい、その通りです。」


 「うーむ、して、貴様は何を企んでおるのじゃ。」

 「ふふふ、私は、全ての者を服従させ、世界を征服する事が目的なのです!」

 「……へ、へぇー……」」

 「あ、あれ?世界征服、ですよ?」

 「そうか、まぁ、がんばれ。」

 「……は、はい。」

 「で、あ奴は?」

 「あ、そ、そうでした、あの者はアズライール、私とは対極に存在する者です。」

 「なるほどのぅ、ウリエル殿と同じ存在、か。」

 「若干違いますが、その認識で良いかと。」

 「それでここに入れたのか。おぬしも、だが。しかし……」

 「はい。」

 「なぜ、あの者からタカヒロ殿の気を感じられたのじゃ?」

 「それについてはまた後日、あの者から直接お聞きになられるかと。正直申しまして、私にもその辺は解りかねますので。」

 「そうか。まぁ、いずれにしてもわらわは待つ事しかできぬ、か。」

 「そうなりますね。」


 『あの子達が戻るのは数日後になるでしょう。その時はまた知らせましょう。』

 「そうか、では帰るとするか。さて、ではお主からは世界征服の話でも聞こうかの。少々付き合え。」

 「はい、喜んで、マリュー様。」


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