第30話 初めての、二人だけの実戦

 野営して次の朝。

 何とか元気を取り戻したマコーミックさん。

 どうも、本心では世界征服というよりも、世界の旅の制覇が目的、みたいだね。

 かつて自分を悪魔だと言い張っていたウリエル様は、ちょっと憐れんだ目でマコーミックさんを見てたな。


 「さて、では出発しましょうか!」

 「はーい。」

 「行きましょう!」


 何事も無かったように手綱を引くマコーミックさん。


 「そう言えば、ですけど。」

 「何でしょう?ディーナ様。」

 「お父様は、なぜマコーミックさんがそういう存在だって気付いたのでしょう?」

 「それはですね……」


 お父様は、マコーミックさんの商売の手腕に感心していたのと同時に、違和感を覚えたんだって。

 この世界にはない色々な事を知っていたのを、お父様は不信に思ったらしい。

 特に、経済の仕組みや文明の利器など、この世界では知りえない事を、お父様の前でついポロっと言っちゃったみたいだ。


 「タカヒロ様は追及こそしませんでしたが、いつだったか私に『ま、バレないように、な』とだけおっしゃいました。」

 「へ、へえー。」

 「にしても、だ。お前もアタイと同じだってんなら、商売以外に何か特別な力があるんだろ?」

 「それなのですが……」

 「うん?」

 「私は頭脳労働に特化した種族の出身なのです。ですので、それ以外は特にないのです。」

 「あーん?んなこたねぇだろうよ。力だって人間どころか、魔族よりも強いんだろ?」

 「単純な力でしたら、そうです。が、そういった経験は殆どありません。魔法も使えませんし。」

 「そーなのか?」

 「もっとも、その必要がないような立ち回りこそ、私の美学でもありまして。」

 「……」


 いずれにしても、マコーミックさんは人知を超えた力を持っているってことよね、経済面で。

 大商人っていうのもうなずける、かな。

 ある意味、、マコーミックさんのお陰で、この世界の経済は回っているってことなんでしょう。


 「ところで、だが。」

 「ルナ様?」

 「ウリエル、準備しろ。お前ら、ワールドを装備するんだ。」

 「え?」

 「早くしろ、くるぞ。」


 そう言ったルナ様の視線の先、1キロ程だろうか。

 モンスターが居た。

 3体だ。


 「モ、モンスター!」

 「くっ、こんな所にまで来たか……」

 「ディーナ、装備できた?」

 「うん、行くよ!」

 「あ、おい!あまり自分を過信すんなよ!」

 「「 はい!! 気を付けます! 」」

 「では、私も行くか、マコーミックとやら、自分の身は自分で守れるな?」

 「大丈夫です、なんとかします。」

 「では、な。いくぞ、ウリエル!」

 「ああ!」


 ウリエル様はワールドに戻っていった。

 力が漲ってくるのがこれまで以上に感じられる。

 

 でも、私達はモンスターに抗えるだけの力はついたんだろうか。

 はっきり言って自信はない、けど、挑まなきゃいけない、と思った。


 「左の一体は私が何とかする、残りはお前たちで処理するんだ、行けるな?」

 「「 はい! 」」 


 ひとまず、真ん中の1体を二人で相手する事にした。

 この世の物とは思えない姿のモンスター。

 双頭の頭に犀のような体、太い足はライオンみたいな足。

 とてもアンバランスな姿だ。


 言葉もなく、私とシャルルはその1体に攻撃をしかける。

 既にモンスターはこちらを捕捉して襲ってきている。

 速い、とても速い。

 しかも、攻撃をする頭と前足には魔力を纏わせている。


 モンスターの攻撃を躱し、私がヴァイパーを首に振るい、シャルルはイーグルを足に振るう。

 攻撃を躱しながらの斬撃だけど、手ごたえはあった。

 だけど、ここで止まることはない。

 すかさず反転し、今度は私が下腹部、シャルルが首元に斬撃を入れる。

 モンスターはこれで動きを止めた。


 その刹那、残りの一体が背後から襲ってきた。

 それを確認したシャルルが斬りかかり、振り向きざまに私が突きを放つ。


 こちらの1体は、また別の姿でさっきのよりも体が堅そうだ。

 なので、一度魔法で動きを止めようとした。

 したんだけど……

 

 「え?え?」


 魔法は発現せず、ヴァイパーへと集まった。

 驚きはしたけど、止めることはできない。

 そのままでモンスターに斬りかかった。

 すると、モンスターはお腹からすっぱりと2分割された。

 そこに、同じようにイーグルに魔法を纏わせたシャルルが、今度は縦に斬りかかる。

 モンスターの体は4分割され、息絶えた。


 「まだだ!終わりじゃないぞ!」


 そうだった。

 完全に消滅させないといけないんだ。

 私とシャルルはそれぞれ1体ずつに火の魔法を打ち込み、モンスターは消滅した。


 「なんとか、終わったな。」

 「できた……私にも、モンスターを撃退できた……」

 「ホントに、ホントに自分の力で……」

 「ああ、お前たちの力だ。よくやったな。」

 「「 はい…… 」」

 《まー、粗はあるけど、まずは及第点ってとこだろ。でも、やったな、お前ら。》

 「「 ありがとうございます。 」」


 それを遠目に眺めていたマコーミックは思う。


 (さすがはあの方のお子さん達ですね。まだ力を開放していないのにあれだけの事ができるとは。

 もしかすると、あの方よりも強大な力を秘めているんでしょうか。

 しかし、まだこれではこの先の苦難に対しては力不足な感は否めませんか。やはり、覚醒はしておかないと厳しいでしょうが、さて、どうすればその域に到達できるのでしょうか。

 私をもってしても、それはわからない領域ですね。

 ともあれ、お二人を応援せずにはいられませんね、あの方に報いるためにも。)


 そして、そんなマコーミックを見てルナも思う。


 マコーミックには、タカヒロに恩がある、と思い込んでいる事柄があるらしい。

 昨夜、マコーミックからそれを直接聞いたのだが、聞いた限りではそれは全くの偶然でタカヒロにそのつもりは無かったようだ。

 とはいえ、私もかつては似たような感じで救ってもらったんだな、あの時。

 だからか、少しこの男の考えが分かる様な気がした。

 まぁ、ウリエルには言わないが。


 初の実戦を終えて馬車に戻った。

 マコーミックさんに被害は及ばなかった事が、勝った事よりも嬉しかった。

 守れたんだ。

 自分たちが、自分たちの力で。


 「お疲れ様です、お二人とも。見事でしたよ。」

 「ありがとうございます、マコーミックさん。無事でよかった。」

 「それはあなた方のお陰ですよ。さすがです。」


 勝てた。でも、反省すべき所は沢山あった。

 シャルルと二人で、それを共有してこれからの修行に活かそうと思う。

 せめて、3体くらい一人で対処できるようにならないと。


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