第29話 目指せ龍族の里

 エイダム叔父様の体術指南も終わり、明日ロプロスへと旅立つ事になった。

 シャルルの故郷、ロプロスまでは馬車の旅になるんだけど、私達は馬車を持ってない。

 貸馬車もあるんだけど、いつまでかかるかわからないので借りるのもどうかと思う。

 はっきり言って返せない可能性もあるし。

 魔王軍の馬車もあるけど、そこまでお世話になるのもなんか申し訳ないし、ねぇ。


 「そういう事なら、だ。丁度あ奴がロプロスへ行くというので相乗りするというのはどうだ?」

 「あ奴?」

 「うむ、古くから取引のある商会の頭領でな、ロプロスに用があると昨日挨拶にきていてな。」

 「それって……」

 「うむ、マコーミック商会の3代目だ。」


 そして、そのマコーミックさんのいる商会の支店まで来た。

 丁度、そのマコーミックさんが店頭に居た。


 「おや、貴女方は、魔王様がおっしゃっていた」

 「初めまして、マコーミック様、ディーナと申します。」

 「初めまして、私はシャルルと申します。」

 「おお、お二人とも、あの方とお母様方の面影が濃く表れていますね。」

 「「 え? 」」

 「ああ、いえ、こちらの事です。お話は伺っております。ロプロスまで同行、という事ですね。」

 「あの、はい、ご迷惑でなければ、ですけれど。」

 「いいえ、迷惑などとんでもありません。私も一人でいく所でしたので、同行者がいれば賑やかになって楽しいですからね。」

 「あ、ありがとうございます、それで、謝礼なんですけれども……」

 「礼など、不要でござます。元より、貴女方のご家族とは懇意にさせていただいておりますので。」

 「そ、そうなのですか?」

 「はい。それこそ、タカヒロ様からは金銭以上のものを頂いたのですから。」

 「え?お父様?」

 「あ、失礼、失言でした、忘れてください。では、同行するという事で、よろしくお願いします、ディーナ様、シャルル様。」

 「様、だなんて、あ、いえ、こちらこそお願いします。」

 「よろしくお願いします。」

 「出発は明日の朝となります。私が宿までお迎えに上がりますので、宿にてお待ちください。」

 「は、はい。」


 という事で、宿に戻り明日を待つ事になった。

 夕食を済ませて寛いでいると、ウリエル様が変な事を言い出した。


 「なぁ、お前らあのマコーミックってのは見た事なかったのか?」

 「はい、そうですね、初めて拝見しました。」

 「ウリエル、お前も感じたのか?」

 「ああ、あいつ、確か人間、だったよな。」

 「え?」

 「ウリエル様?」

 「あ、いや、エイダムはあいつは3代目って言ってたろ?」

 「そう、ですね、確か。」

 「何の、3代目なんだ?それって。」

 「え、何のって……」

 「まぁ、少し注意する必要がある、かもな。もっとも、お前たち二人には害はないだろうが。」

 「それって、どういう事ですか?」

 「いや、あいつもただの人間じゃない、って気がするだけだよ。」


 そんな話をしながらも、私達は就寝した。

 で、翌朝。

 エイダム叔父様、エヴァ様、アベルが見送りに来てくれた。

 なんと、ヒエン様とキッカ様まで。

 皆と話をしていると、馬車を率いてマコーミックさんが来た。


 「おはようございます、皆様。」

 「「 おはようございます、マコーミックさん。 」」

 「すまないな、マック。無理を言って。」

 「いいえ魔王様、お安い御用です。」

 「二人の事は道中、護衛と思ってこき使ってくれてよい。」

 「ふふふ、その用向きがない事を祈りますが、わかりました。改めて、よろしくお願いします。」

 「「 お願いします。 」」

 「さ、それではお乗りください。商用の馬車で申し訳ありませんが。」

 「いいえ、充分です。」

 「じゃ!行ってきます!」

 「魔王様、ありがとうございました。エヴァ様も、皆様も!」

 「行ってらっしゃい。」

 「姉ちゃん、またね!」


 こうして馬車はロプロスへ向けて走り出した。

 ロプロスにある龍族の里までは馬車で3日かかる。

 昔は4日程かかっていたけど、街道の整備と馬車の進化で一日短縮できるようになったんだ。

 街道のほぼ真ん中にあった宿場町も、旅人の憩いの場として、温泉場として健在だ。


 街道は両脇に農耕地があるものの、基本火山の麓になるので荒野も多い。

 ひとまず今日は野宿となるので、野宿場を目指している。


 そんな街道を進んでいる最中の事だ。


 「ディーナ様とシャルル様は、ロプロスへはどのような御用なのですか?」

 「え?えーと、ですね、ちょっと鍛えに……」

 「そうなのですか。では、デミアンでも鍛えていたのですか?」

 「そうですね、ちょっと力を付けたくて……」

 「なるほど、何か、訳アリなのですね。」


 そんな話を聞いていたウリエル様が、たまらず、という感じで割って入ってきた。


 「おい、マコーミックとやら。」

 「おや、貴女はウリエル様、でしたね。」

 「何でアタイを知っている?アタイは初対面だぜ?」

 「おっと、これは失態ですね。そうです、初対面でした。」

 「お前……」

 「まぁ、ここにはあのお方の身内様しかいないのでぶっちゃけますが、ウリエル様が感じた通り、私は人間ではありませんよ。」

 「え?そうなんですか?」

 「どう見ても、感じも、普通の人間のようですけど。」

 「ふふふ、私は、言ってみればウリエル様と同じ階層の住人です。それに気づいたのは、あの方唯一人だけですが。」

 「あの方、というと、もしかして……」

 「そう、タカヒロ様その人です。ですが、気付いただけで正体は明かしてはおりませんでしたが。」

 「正体、ですか?」

 「ふふふふ、シャルル様は、私の正体がわかりますか?」

 「え?い、いいえ、魔族、ではないです、よね……」


 感じる雰囲気は完全に人間のそれだし、見た目だって至って普通だし。

 

 「あ、でも、マコーミックさんは今は3代目、なんですよね?」

 「便宜上、そのようにしているだけです。初代も2代目も、この私ですよ。」

 「つまりだ、お前はアタイと同じ悪魔、ってことか。」

 「いいえ、ウリエル様は悪魔ではないでしょう。ですが……」

 「ちッ」

 「私は正真正銘の悪魔、です。」

 「「 ええー!! 」」


 悪魔って、あの悪魔よね。

 人間にとっては悪の象徴、この世に災いをもたらす存在……

 でも。


 「マコーミックさん、その、なぜ悪魔である貴方が商人に?」

 「ふふふ、私はですね……」

 「はい。」

 「この世界を征服する為!この世界を手に入れる為に!商人としてまず経済から人類を支配することが目的なのです!」


 「……へ、へぇー……」

 「え?いや、あ、あの、世界を征服する、んですけど……」

 「そうなんですかー。」

 「いや、その……」


 「やっぱりか、お前は影の方の住人だったか。どうりで、な。」

 「あの、ウリエル様、世界征服、するのですよ?」

 「あん?まぁ、頑張れよ。応援するぞ?」

 「……」


 なぜか絶句するマコーミックさん。

 私達の反応がそんなにショックなんだろうか。

 でも、世界征服ったって、そんな事言われても、ねぇ。


 「あの、マコーミックさん?」

 「は、はい?何でしょうか?」

 「世界征服をして、その、どうするんですか?」

 「というか、何のために?」

 「え?」


 何か、言葉に詰まっているみたい。

 まさかとは思うけど……


 「そ、それはヒミツです、うん、ヒミツなのです!」

 「お前さ、もしかしてその後の事なーんにも考えてねぇだろ?」

 「そ、そんな事はありませんよ?ちゃ、ちゃんと考えてますよ?」

 「じゃあ、どうすんだよ?」

 「そ、それは……」

 「それは?」

 「えーと、商売をして、旅をして、いろんな街をめぐって、人々と交流して、経済を回して……」

 「ふーん、じゃあ、もう目的は達成されてんじゃんか。」

 「……」

 「あ、あの、マコーミックさん、その、応援、しますね?」

 「……は、はい。ありがとうございます……」


 何と言うか、どことなくだけど。

 マコーミックさんって、ウリエル様に似てないかな?


 「まぁ、アレだな。こいつとお前は似た者同士、みたいな感じだな。」

 「あー!ルナ、一緒にすんなよ!」


 意気消沈した感じのマコーミックさん。

 ちょっと、応援したくなったのは内緒だ。

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