第28話 力の解放って、実際どうするのかな?


 試練の森クリアの翌日。

 今日から数日間は体術の基本を学ぶ事になった。

 幼少の頃、お父様から教わった護身術も身には付いているんだけど、それはほんの少しだけ。

 基本をすっ飛ばしての教示だったので、実質基本は無いに等しい。

 お父様から教えてもらったのは、“気”というものの使い方がメインだったんだ。


 という事で、エイダム叔父様直々に体術の基本動作から始める事になった。

 突き、蹴り、受け、捌き、組み、投げ、払い、と、その基本は多い。

 そしてそれらの組み合わせも加えると、本当にいっぱいだ。


 「これはな、タカヒロから教わった“カラテ”という術と“ジュウジュツ”という術の基本なのだ。」

 「カラテ?」

 「ジュウジュツ?」

 「うむ、アイツの世界の武術、というものらしい。これを基礎として剣術への応用もできるそうだ。」


 小休止している間に、叔父様はそんな事を教えてくれた。


 「今やっている基本はな、全ての力に通ずるのだ。これに呼吸法、気の練り方、力の入れ方など、付随する術も多岐に渡るのだ。」

 「呼吸法というのは?」

 「うむ、何でも人間の身体には“丹田”と呼ぶ場所があるそうだ。そこに気を溜め、力を出す為のバネにするのだとか。」

 「「 ?? 」」

 「あはは、考えるよりも実際に行った方が理解は速いであろう。さ、続けようぞ。」


 初日はこうして、深夜まで基本動作を習った。

 で、翌日。

 昨日の基本動作をおさらいした後に


 「今度は“約束組手”という、一つの型を行おう。」

 「それはどういう?」

 「うむ、差し手と受け手で、決まった攻撃、その受け流しを学ぶというものだ。」


 要するに、攻撃と受けの基本動作を二人で同時に行うという事みたいね。

 単調な動きにはなるけれど、これも闘いでの動きの基礎になるから手は抜けないんだって。

 半日程それを続け、昼食を採って一休みした後は

 

 「さて、ではここからは実戦形式の手合いだ。これまでの基本全てを使って、手合わせをするのである。」

 「いわゆる組手、というものですね。」

 「そうである。ただし、手加減してもあまり意味がないし、怪我をされても困るのでな、これを身につけて、だ。」


 そういって叔父様が取り出したのは、顔全体を透明な膜?で覆った仮面みたいなもの、と手全体を包む不思議な形の手袋、柔らかいもので表面を覆った脛あてだ。


 「これを装備すれば、多少は全力で力を出しても若干衝撃が和らげられるであろう。なので遠慮はいらなくなる。」

 「こういう物もあるのですね。」

 「うむ、これもアイツが作ったものだ。確か、フルコンタクトプロテクター、だったか。面倒なので保護具と言っているがな。」

 「へぇー……」


 保護具を装着してみると、少し窮屈には感じるけど視界も確保されているし、これなら殴り合いでも痛く無さそうだ。


 「どうだ?きつく無いか?緩くないか?」

 「大丈夫です。どう?シャルル?」

 「うん、大丈夫。これなら力をセーブしなくても良さそうね。」

 「うむ、準備できたなら、始めるぞ。」

 「「 はい! 」」


 そうして、手合わせが始まった。

 のだけれど……


 「そ、そこまで!である!」

 「はい?……あ」


 ものの3合ほど打ち合ったところで、叔父様は止めた。

 見てみると、保護具はズタズタに、ボロボロになっていた。

 え?まだそんなに攻撃もしてないんだけど……


 「うーん、二人には保護具は用を成さない様であるなぁ……」

 「え、えーと……」

 「どうだろう、お前たちが森の中で手合いをした時は、防具なしでやっておったそうだな。」

 「はい。」

 「その時と同じようにやってみるか?」

 「それでよいと思います。」

 「私も。」

 「しかしだな、その時よりも格段に攻撃力は上がっている。怪我で済まないかもしれぬぞ?」

 「そ、そうなのですか?」

 「うーむ、まあ、やってみるか。危険と判断したら、我が止める、という事にしようか。」

 「「 はい。 」」

 「では、やってみようぞ。」


 そうして再び向き合って手合わせを始めた。

 始まってから10分程、打ち合いを続けている、けど。


 (す、凄い、シャルルの攻撃、重くて素早い、でも、見える。)

 (ディーナの攻撃、ちょっと避けるのも厳しい、かな。でも……)


 ちょっとだけ、楽しくなってきた。

 思うように体が反応する、思った通りに攻撃を出せる、攻撃を受けられる。

 体も軽い気がする。

 これが、成果なんだろうか。


 「うーむ、これ程とは、なぁ。どう思う、ウリエル殿?」

 「まぁ、確実に成果があった、ってとこだな。」

 「そうだな、これなら本来の力も少しだけだが解放できるのではないか?」

 「こ、これでもまだ本来の力はだせていない、という事であるか。」

 「ああ、こいつ等はこんなもんじゃないと思うぜ。」

 「この段階で、もうタカヒロに迫っていると思われるな。」

 「これでワールドを装備したらって考えるとな、アタイ達の想像を超えてんじゃないか?」


 お互いの腕が、足が、痛みを覚えてきたのか、動きも鈍くなってきた。

 でも、身体は止まらない。

 成長を実感できた嬉しさが、身体を動かし続けているみたいだ。

 シャルルも同じなのか、ちょっと笑みを浮かべている。

 さらに、さらに動く。

 いつしか、世界がスローモーションになっていた。


 「ちょ!ストップ!止めるのである!」

 「は?」

 「え?」


 叔父様が慌てて止めに入った。


 「す、すまん、魅入ってしまって止めるのが遅れてしまったのである。」

 「え?」

 「お前たち、自分の体を見てみるがいいぞ。」


 そう言われて、自分の腕を見てみると、腕全体が赤く内出血状態になっていた。

 足も同じ、そして体のあちこちも同じだ。

 それを認識した瞬間


 「い、痛ーい!」

 「うわーん、酷い、コレ!」


 まさしく、満身創痍だった。

 

 「お前たち、気付いてなかったのであるか?」

 「痛たたた、はい、何かこう、夢中になっちゃって……」

 「私も、なんかこう、楽しくなっちゃって、痛っ」

 「なんとも、まぁ……」


 ひとまず治癒の魔法を掛け合って、この日はここまでとなった。

 宿で休んでいると


 「お前らさ、最後の手合わせ、自分らの動きって把握してたか?」

 「ウリエル様、そ、そうですね、してたと思います。でも……」

 「はい、所々、勝手に体が動くというか、無意識な所もあったというか……」

 「んでさ、力の加減もしてたか?」

 「あ、いいえ、それは全然意識してませんでした。」

 「そうね、私も同じです。」

 「お前ら……」

 「もはや数段階も前に進んだ、という事だな。」

 「ルナ様、それって……」

 「はっきり言うとな、もはや単純な戦闘力はかなりのものだ。ただ、それだけでは真の力を開放することはできないだろう。」

 「真の力の解放、それって、“覚醒”という物ですか?」

 「まぁ、それに近いけどな。お前らが夢中になるってのはわかるんだ、でもな。」

 「それすら意識し制御する事も必要だ、という事だな。」

 「そ、それはまた、難しそうですね……」

 「ま、とりあえずここでの目的は一応達成できたって事だ。それは次のステップって事だな。」


 でも、実際力の解放って、どうやればできるんだろう。


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