第25話 私たちの力はこんなものなの?

 試練の森に入って4日目。

 少し疲れが溜まってきている様にも感じるけど、やる気は反比例するように高まっている。

 ほんの少しだけど、特訓の成果も感じられるからだ。


 昨日獲った猪の肉を焼いて朝食にし、そのまま走り込みを始める。

 疲れはあるけど、力が漲っているのが分かる。

 モチベーションが体を動かしているんだろうなと思うけど、体力は確実に上がっている証拠かも知れない。


 と、いつものように襲撃者が襲い掛かってきた、んだけど……


 「ディーナ、右!」

 「オッケー!」


 打撃を受けることなく躱し、襲撃者へと接近する。

 襲撃者の動きが、見える様になってきたんだ。


 「!!」


 襲撃者は驚き、間を取ろうとするがこちらの動きの方が速かった。

 懐に入り込み、左手で突きを繰り出した。

 と

 新手が現れた。

 襲撃者は6人に増えたみたいだ。

 

 最初の襲撃者への打撃は入ったものの、そちらに気を削がれてあまり効いていないみたいだ。

 新手の襲撃者は二人ずつに分かれて私とシャルルに攻撃を仕掛けてきた。

 3人を相手に立ち回る事になり、少し動揺してしまった。

 ピコピコハンマーが、容赦なく体のあちこちを叩いて愉快な音を奏でる。

 その音が、悔しさを増加させる。


 「もー!敵が増えてんじゃん!」

 「でもさ、3人相手でもちょっとは抵抗できたじゃない?」

 「というか、ディーナ、それ……」

 「!!」


 ちょっと上着が破れてしまった。

 これはハズい。

 なので、走り込みを中断し、別のシャツに着替えた。


 襲撃者は少しずつ人数を増やしていくみたいだね。

 という事は、今まで以上に襲撃者の動きをよく見て、それに呼応して動かないといけないって事ね。

 つまりは、まだまだ戦闘での動きは足りない、という事なんだろうか。


 という事で、その日は走り込みを中断し、シャルルとの手合わせを徹底的に行う事とした。

 より接近し、より素早く反応し、より素早く攻撃を出せるよう、木刀を持たず無手での組手だ。

 私もシャルルも、もう手加減などしない。これは実戦だ。

 もう、傍からみればただの殴り合いにも見えるだろうな、これ。

 でも、身体全体を使って組手をする。

 殴られても蹴られても、その痛みを糧に次へと繋げる。

 この4日間で最初に掴んだ、闘いに対するノウハウ蓄積の感覚、手段だ。


 不思議な事に、今日はあれ以降襲撃者は襲ってこなかった。

 なので、二人とも動けなくなるまで組手に没頭していたんだ。


 「はぁ、はぁ、ね、ねぇ、もう、動けない……」

 「きょ、きょうはここまでにしておこうよ、私も動けない。」

 「ていうか、ディーナ、酷い顔……」

 「シャルルも、血だらけだよ。」

 「……」


 私もシャルルも、顔は腫れ鼻血を垂れ流し、口の中も切ったようで口からも血が出てる。

 体中も怪我だらけで、痛みも相当ある。


 「と、とりあえず、治癒魔法かけるね。」

 「お願い……」

 

 昨日までの瞑想の結果なのか、治癒魔法もかなりレベルが上がったような感じだ。

 今まで止血程度が関の山だったけど、今は完全に傷を癒せるまでになった。

 なので

 夕飯を食べ、水浴びをしてから瞑想をして魔力をもっと高める事にした。




 ―――――襲撃者は困惑した。

 

 実は、あの後再度襲撃を仕掛けようとしていたのだ。

 が、しかし。

 最初のいつもの二人が反撃により動けなくなったことに加え、ディーナとシャルルが組手を始めた所で、襲撃を躊躇してしまったのだ。

 魔王直轄の特殊部隊、ジパングで過酷な訓練を受けた猛者が、4人そろって、だ。

 

 「ね、ねぇ、あの間に割って入るの?」

 「俺、ちょっと、行くのヤダな。」

 「というかだな、さっきの反撃の痛みもまだ続いているんだが……」

 「反撃された覚えないんだけどなぁ。」


 二人の動きは、初日とは全く変わっていた。

 もはや特殊部隊の人員と同じか、あるいはそれ以上のレベルにも思える。

 動きそのものは未だ素人同然なのだが、反応と反撃は魔族の中でもトップレベルにあると思われる。

 あれで魔力も纏っていないのだ。

 手練れの特殊部隊隊員が躊躇するのも無理はないだろう。


 と、そこにまた別の襲撃者がやってきた。


 「なんともまぁ、情けないなお前ら。」

 「ヒエン様!」

 「ま、しょうがないか、あれでは、な。」


 組手を続ける二人は、続けていくうちに酷い有様になっていった。

 これが武道大会や競技なら、レフェリーストップになっている状況だ。

 それでも、動きは鈍らず、気も落ちていない。

 むしろ、動きに拍車がかかっている様にも思える。


 「ひとまず今夜、襲撃をかける。私が直接、お前らは援護だ。」

 「ヒエン様が、ですか?」

 「ああ、もはやそれができるレベルだろう。まぁ、手加減はするけどな。」


 唾をのむ音が、静かに響いた―――――




 瞑想を終え、歯磨きをしようと立ち上がった時だった。

 総毛だつのと同時に、無意識にその場から離れ振り向いた。

 鳥肌?なんで?


 「ほう、気配に気づくとは、流石です。」

 「え?いつの間に……」

 「シャルル、構えて!」

 「今回ばかりは手加減しません、武器もこれです、気を付けてください。」


 そう言って襲撃者は木刀を両手に持ち、私達へと襲い掛かった。

 すぐに理解した。

 これまでの襲撃者とは全然違う、エイダム叔父様に肉薄するとも思えるほどの強者だ。

 仕掛けてくる襲撃者に対し、私とシャルルは無言で合図しあい二手で攻撃をする事とした。

 こちらは無手だけど、それは今は関係ない。


 ほんの10分程度の出来事だった。

 ボコボコにやられた。

 ついさっき、治癒魔法で直した体は、直す前よりもひどい事になっていた。


 「痛い思いをさせてしまい、申し訳ありません。ですが、モンスターはこんなものじゃありません。」

 「……」

 「では、今日はゆっくりと休んでください。失礼します。」


 そう言って、襲撃者は消えた。


 ちょっとは上達したかと思った矢先だった。

 確かに、1日目よりは強くなったはずだけど、それでもまだまだ素人に毛が生えた程度だと痛感させられた。

 特訓のメニューに不足は無いと思う。

 という事は、実力が全然不足している、という事だ。


 悔し涙が頬を伝う。

 体が、悔しさで震える。

 自分たちの、力不足が、これ以上なく悔しい。

 うつむき、ただ涙を流す。


 私達の力は、こんなものなの?

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