第23話 試練の森はやっぱり試練なのね

 森に入ってから、小道を進んでいる。

 鬱蒼と茂る木々は、所々陽の届く場所もあるけれど、基本薄暗い。

 もちろん、街道のように整備されている訳ではないので道と行っても獣道に毛が生えた程度だ。

 ここにはいわゆる“害獣”と呼ばれる野獣が沢山生息しているらしい。

 かつて人々の脅威だった魔獣というものの、一つの区分だったらしい。

 結局は魔獣などではなく、もちろんモンスターでもなく、猛獣という括りの生物だ。

 でも、その程度の猛獣でも、今の私達には充分脅威ではある。


 「ディーナ、ひとまず拠点を確保した方がいいのかな?」

 「うーん、そうだよね。寝床は確保しておきたいかな。あと、火を起こせる場所も。」

 「ねぇ、食料ってやっぱり現地調達なんだよね。」

 「そうだね、ジビエだね。」

 「私、鹿か猪がいいなぁー。」

 「あはは、シャルルは食いしん坊だね。それも良いんだけど、でもさ。」

 「でも?」

 「それだと日持ちしないのがちょっと、ね。悠長に残りを干し肉にする時間も無いしさ。」

 「うーん、そうなると、小さい獣かぁー、ま、美味しけりゃいいや!」

 「そうだね!」


 そんな事を話しつつ、進んでいく事2時間程。

 少し開けた場所に出た。


 「ひとまず一旦ここで一休みしよう。で、ね?」

 「うん?」

 「私思ったんだけど、10日間特殊部隊の人が襲撃してくるでしょ?」

 「そう言ってたね。」

 「それはそれで経験値は得られると思うんだけど、やっぱり私達には基礎体力が足りないと思うんだよ。」

 「それは私も痛感した。持てる力を出せないのって、きっとそこも問題なんじゃないかって。」

 「それで、でございます!10日間の特訓メニューを考えてきました!」

 「おおー!で、それって?」

 「基本走り込みと筋力トレーニング、二人での手合わせ、あとは精神集中だね。これを一日中、睡眠時間を削ってでも。」

 「うわお、かなりえげつないプログラムに思えるけど、精神集中って?」

 「えーっとね、体力の増強とかはこういう鍛錬でできるけど、魔力の増強ってやっぱりそういう方法が一番なんだって。」

 「つまり、瞑想ってこと?」

 「そんな感じかな。お母様は“魔力を練る”って言ってた。」

 「なるほどねー。」


 と、話をしていたところで気配を察した。

 振り向くと、色んな緑色が斑になっている服を着た人?が襲い掛かってきた。

 察したけれど、反応ができない。

 体を避けようとするので精一杯だ。


 「シャルル!」

 「あ!」


 シャルルにも同時に襲ってきた。

 私に向かってくる人の手には、大きな槌が握られていて振りかぶっている。

 シャルルの方は、あれは鉄の扇?

 いずれにしてもあんな物で攻撃を当てられたら大怪我をしてしまう。

 けど、私達は避けきれない!


 相手の武器が、私とシャルルの頭を直撃した。


 ピコン!

 スパーン!


 と、なかなかにファニーな音が響いた。

 一撃を見舞った襲撃者は、何処かへと消えた。


 「シャルル、大丈夫!?」

 「痛……くはないけど、何?あれ?」」


 どうやら、本物に見せかけたおもちゃのハンマーと、ハリセンというやつだ。

 本物の武器じゃなくて良かった、などと思わない。

 単純に悔しい、そして情けないっていう感情しか湧いてこない。


 「本物の武器なら、今頃……」

 「ディーナ、ちょっと、私、悔しい。」

 「うん、初っ端からこれじゃ、やっぱりダメよね。悔しいけど、実力が伴ってないんだもの。」


 いつの間にか握っていた木刀を握る手に、さらに力が込められた。


 試練の森の洗礼、この程度でさえ避けきれない私達は、絶対に自分に負けられないって思ったんだ。



 ――その二人の様子を、遠くから見ている襲撃者。


 「簡単に一撃は入れられはしたが……」

 「お前、ヤバかったな。」

 「あの方たち、本当にド素人なのか?」

 「打撃を受けるまではまるで素人だが、あれ、無意識でやってただろな、たぶん。」


 ピコピコハンマーを持つ襲撃者は、その瞬間を思い出して恐怖した。

 驚愕の表情を見せた相手、ディーナはハンマーの直撃を受ける瞬間に、木刀を突いてきたのだ。

 恐らくは、彼女にその自覚と認識はなかっただろう。

 何しろ、見開いた目は驚愕一色だったし、事実体の他の部分は動けないようだったのだ。


 それは、ハリセンを持つ襲撃者も同じだった。

 シャルルも同様に、無意識にと思われるが木刀を薙いだのだ。


 襲撃時、何やら紙を広げ話込んでいた二人。

 もちろん、木刀など握っていなかったのに、だ。

 こちらを察知した瞬間に、無意識で取った行動なんだろう。

 魔王軍の中堅連中でも、そこまで体が反応する者は少ない。

 たとえ、完全に気配を消していなくても、だ。


 「一先ず、本隊に合流して報告しなきゃな。」

 「ああ、でもこれ、完全に気配消さないと次は一撃も入れられないんじゃ?」

 「さぁ、どうかな。」


 とりあえず撤収だ。――




 襲撃の後、周囲を警戒しながら特訓メニューの確認をし、再び歩き出した。

 とても悔しい。

 自分自身に。

 結局はあらゆる面で実力が備わっていない、という事よね。

 なら、今できる事、すべき事は、それに拘っている事じゃない。

 先に進む事、だと思う。

 という事で。


 そこらへんに転がっている大きな石を担いで歩く事にする。

 まずは、基礎体力だ!

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