第22話 いざ、試練の森へ!

 翌朝、目を覚ますと体中が痛い。

 筋肉痛だった。

 起き上がるのも苦痛だ。

 シャルルも同じらしく、うんうんと唸りながら体を起こしている。

 と、ドアをノックして人が入ってきた。


 「目が覚めた?お姉ちゃん達。」

 「ア、アベル。」

 「へへ、久しぶりだね。元気して……ないね、こりゃ。」

 「久しぶりね、アベル、あいたた……」

 「シャル姉ちゃんかなりきつそうだねー。」

 「うん、体中痛い、筋肉痛かなぁ。」

 「いやぁ、それだけじゃないと思うよ。姉ちゃん達、体のあちこちにアザができてるし。」

 「あ、ホントだ。」

 「えー、軽く叩かれただけなのに……」

 「あー、父さんと手合わせしたんだろ?よくそれだけで済んだよね。」

 「「 え? 」」

 「僕なんて、撫でられただけで腫れたもんね。父さん、手加減してるつもりでもできないんだよ。」

 「でも、叩かれた時は痛くも何にもなかったけど……」

 「それね、そういう攻撃なんだよ。」

 「「 へ、へぇー 」」

 「さ、朝ごはん準備できてるよ、というか、動ける?」

 「うん、動く。」

 「痛いけど、動けるよ。」


 アベル。

 叔父様とエヴァ様の長男だ。

 成りはまだ少年だけど、実力は私達の遥か上を行くほどの強者だ。

 私もシャルルも、大好きでついつい甘やかしてしまうくらい、というか。

 ルナ様もウリエル様もこの子を可愛がっている。

 でも、アベルはルナ様とウリエル様は苦手みたいだけど、ね。


 宿の食堂で朝食をいただく。

 アベルも一緒だ。


 「姉ちゃん達、試練の森へ行くんだろ?」

 「そうね。」

 「でも、こんだけ体中痛いと、大丈夫かな?」

 「うんとね、今日は一日休息しておけ、だってさ。」

 「え?それは魔王様が?」

 「うん、母さんも言ってた。」

 「そうなの?」

 「たぶん、体中痛いはずだから、動くのも大変だろうって、さ。」

 「それでアベルが来てくれたのね?」

 「それもあるけど、昨日会えなかったからさ。起きてからすっとんできたんだ。」

 「アベル……もー!カワイイ!」

 「えへへ、よせよ、恥ずかしいな。」


 とはいえ、だ。

 そんな甘えてばかりはいられないわね。

 筋肉痛ってことは、体が全然ついてこれてないって事よね。

 確か筋肉痛って、筋が切れたりしているからだって事だと思ったけど。


 「ねぇ、シャルル。」

 「うん、わかってるよ。ディーナ、頼めるかな。」

 「わかった。」


 朝食を終えて自室に戻り、自分とシャルルに治癒の魔法をかける。

 幾分、痛みは和らいだ感じがする。

 ならば。


 「ひとまず、体力よね。」

 「そうだよねぇ、無さすぎを痛感したわ。」

 「姉ちゃん、一つ言っていい?」

 「「 何? 」」

 「汗臭い。」

 「「 !! 」」

 「でも、僕はその匂い嫌いじゃないけどね。」


 私とシャルルは慌ててシャワールームへと飛び込んだ。

 でも、この後また汗だくになるんだけどね。

 そういう問題じゃないもんね、うん。


 という事で今日一日は、持久走と小さい頃にお父様に教えてもらった“演武”を思い出しながら修練した。

 昨日の叔父様との手合わせの終盤、自覚は無かったけど、その演武で得ていた技を出していたんだ。

 シャルルも同じだったみたいで、もう一度その基本、かどうかは解んないけど、立ち返ってみよう、と思ったの。


 そうしてシャワーを浴びて就寝した。

 今日一日付き合ってくれたアベルと一緒に。


 翌朝。

 

 「準備は良いか?」

 「はい、叔父様。」

 「魔王様、これは?」

 「うむ、試練の森ではこれが二人の唯一の武器となる。害獣相手ならこれで充分であるしな。」


 そう言って手渡されたのは、いわゆる木刀だった。

 試練の森ではワールドの使用は禁止だ。

 ワールドの力で課題を克服しても意味がないからね。

 所持が許可されたのは小刀とこの木刀、着替え、あとは調理器具だ。

 それらはお父様の形見のバッグに入れて所持する。


 試練の森での課題は、10日間、森で生活する事、だって。

 広大な森の中で、魔王軍の中でも精鋭かつ特殊な任務にあたる部隊が、私達を襲撃するんだって。

 私達はその部隊を相手に、戦闘のノウハウを習得することが目的みたいだ。


 もちろん、森に居る間は自給自足で野宿が基本だ。

 でも、私もシャルルもそれは問題ないので、やはり体力をつける事、身体能力を高める事、に尽きるわね。


 「先にも言ったが、他者の補助はナシである。お前達二人で協力し、試練を乗り越えてくるのだぞ。」

 「「 はい! 」」

 「ちなみにだが、命の危険に瀕したらその時点で中止となる。その危険性は低いが、油断すれば危ないぞ。気を付けてな。」

 「「 わかりました。 」」

 「では、行くがよい。」

 「頑張ってね、ディーナ、シャルル。」

 「ありがとう叔母様、頑張ってくる!」

 「頑張れよ、姉ちゃん達!」

 「ありがとうね、アベル、行ってくるね。」


 こうして、私とシャルルは森へと入っていった。

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