第21話 エイダム叔父様の力は反則です。
ここデミアンに滞在する間は、魔王城正面の道路に面した宿に滞在する事となった。
この宿はかつて後宮だったお屋敷で、お父様たちもよく宿泊していた宿みたいだ。
部屋に案内され、ひとまずは荷物を置いて一息つく。
エイダム叔父様も付いて来てくれていた。
「まぁ、修行時以外は寛いでいてくれ。常に気を張っていても疲れるであろうからな。」
「はい、有難うございます。
「で、である。ウリエル殿。」
《お?なんか用か、じゃ、ちょっと待っててくれ。》
ワールドに戻っていたウリエル様は、そこから出てきて顕現した。
「うーん、やっぱりこっちのほうが落ち着くな。」
「相変わらずの美しさであるな。ところで、此度の試練の森、なのだが。」
「うん?」
「申し訳ないが、ウリエル殿は一切の助力無し、でお願いしたいのである。」
「あー、まぁ元々そのつもりではいたんだけどな。でも、何でだ?」
「二人には厳しいかも知れぬが、そこでは自分達の力のみで挑む事に意味があるからであるな。」
「まぁ、そうだろうな。てことは、装備は」
「うむ、そのワールドは外したまま、であるな。」
「エイダム、その無防備な状態で危険はないのか?」
「ルナ殿の心配ももっともであるが、危険は無い、という事はないのである。」
「「 やっぱり…… 」」
「下手をするとな、命を落とす危険もある。とはいえ、それはあくまで最悪の状況で、であるがな。」
「最悪の状況?」
「全くの素人が、瀕死の状態でそこへ挑めば、である。従って、二人については心配ないであろう、たぶん。」
「しかし、私らの補助なしだと、全くの素人同然だぞ?」
「ま、それを確認する為に、このあと我と手合わせをするのであるがな。おおよその実力の程は解っておる故大丈夫であろう。」
そんな会話をしながらも、私とシャルルはワールドを解除し丸腰になった。
エイダム叔父様との手合わせは、素手で、という事になる。
もっとも、武器を取った所で、私もシャルルも全くの素人だ。どちらにしても変わらない、よね。
「さ、準備ができたら言ってくれ。鍛錬場まで案内するぞ。」
「もう、大丈夫です。」
「準備はできています、魔王様。」
「そ、そうであるか、では、まいろうか。」
エイダムはそんなやる気に満ちた二人を見て、少し心配になった。
(かつての親友、アイツは実力が伴っていたからこそ、先代魔王である父上との手合わせも難なくこなした。
まぁ、最初の手合わせはコテンパンにやられはしたが。
しかし、この二人はその基礎すら学んでいない。
これから二人がやろうとしている事は、そんなに時間をかけている余裕はないとも思える。
ごく短時間で、どこまで基本を叩き込めるか、それが課題であるが……)
魔王城から少し離れた場所、エイダム叔父様が居住する館の近くに、その鍛錬場がある。
そこに到着すると、エイダム叔父様はこちらに向き返り告げた。
「ひとまず、二人同時に我にかかってくるのだ。どんな攻撃でも良いし魔法も使ってもよい。我は一切手をださぬ。」
「「はい。」」
「では、来い。」
早速始まった。
私とシャルルは、視線を合わせた後に同時に叔父様へと向かっていく。
けど。
触れる事すらできない。魔法も、当てることなど到底かなわない。
まるでいやいやをする赤子をあやすように、叔父様は軽々と舞うように避けている。
「なあ、ルナ。」
「なんだ?」
「あの二人こうしてみるとエイダム相手だと完全にド素人の動き、にしか見えないよな。」
「……まぁ、な。だが。」
「ああ、アイツら、少しずつ、動きが変わってきてないか?」
「そもそも、基礎的な部分で言えばタカヒロに手ほどきを受けているからな。」
「エイダムがそれを引き出している、のか?あれ。」
「違うと思う。エイダムにそんな器用な真似ができるとは思えん。」
もう、30分近く叔父様へ攻撃を仕掛け続けている。
体力も無い私達は、もう息も上がっている。
でも、叔父様は全然疲れた様子もないし、何なら動きもさらに洗練されてきている気もする。
わかってはいたけど、やっぱり私達は全然力がたりないんだなぁ、と実感する。
けど……
エイダムは二人の攻撃をさばきながらも、何かを感じる。
二人の動きは全くの素人なのだが。
(ディーナとシャルル、息がぴったりであるな。この時点でもはや強さ的には高いレベルにある、が……
それよりも、少しずつではあるが動きが良くなってきている。無駄な動きが減ったうえに、我の動きを予測して攻撃を出してきている?)
結局、1時間弱、動き続けて最初の手合わせを終えた。
もう、動けないって思うくらい疲れた。
私もシャルルも汗だくで、その場にへたり込んでしまった。
「さあ、二人とも、小休止を挟んでもう一度だ。今度は我も攻撃を出すぞ。」
「「 ええー!? 」」
「あー、まぁ当てるつもりはないから心配するでない。が、それも大事なのでな。」
「「 ……わかりました。 」」
「とはいえ、かなり疲れたであろう、20分程休もうぞ、ほら、水分補給はしておくのだ。」
そう言って叔父様がくれたのは、見たことがない飲み物だ。
なぜかラベルにはエクスクラメーションマークが書いてある。
「あ、一気に飲むでないぞ、それはかなり不味いのでな。アイツ特製の栄養ドリンクだ。」
「お父様、の?」
「特製?」
サクラお母様に聞いたことのある、あの飲み物だと直感した。
もう二度と飲みたくない、と、サクラお母様にしては珍しく恐怖していた、アレだと思う。
恐る恐る口に含み、嚥下してみる。
激マズだった!
でも、効果は抜群らしいので、我慢して飲み干したんだけど……
やっぱ激マズだった……
シャルルは涙を流してた。
そんな休憩を終えて、再度手合わせとなった。
飲み物のおかげか、回復魔法よりもかなり効いているようで疲れは吹き飛んでいるみたい。
まだ口中はマズい味が残っているけど。
「さぁ、行くぞ!」
「「 !! 」」
叔父様の動きは、さっきとは全然違う。
攻撃を仕掛けてきた。
目で追う事もできず、叔父様の手が私の頭をポンポンと叩く。
「今の一撃でディーナは大怪我を負ったぞ、さて、次だ。」
今度はシャルルの背中をトンっと叩く。
「シャルルはこれで再起不能だ。」
早すぎる叔父様の動き。
でも、これでもモンスターの動きよりも遅いみたいだ。
この前のあれ、もっと早かったと思う。
「良いか、今は目で追えるのであればそれでも良い。が、最終的には目で追うのではなく気で察知するようにしなければならぬ。」
「気?ですか?」
「まぁ、気配、あるいは予測、であるな。さ、続けるぞ」
手合わせの2回目は、ものの10分で終わった。
私達二人は目を回してその場で気絶してしまったからだ。
「うむ、ここまでであるな。」
「で、どうだ。二人は見込みはあると思うか?」
「ルナ殿が感じた通りであると思う。正直に言おう。この二人、恐ろしいぞ。」
「そりゃ見込みはあるって事だな。」
「うむ、が、しかし、やはりその片鱗が垣間見えただけである。問題はその力を引き出せるかどうか、であるな。」
その日は気づく事なく、宿で爆睡していたみたいだ。
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