第18話 旅立ちは笑顔でお見送りしてほしい
昨夜、ウリエル様に取り憑かれ、新たな装備を装着した私とシャルル。
そんな私達を見て、お母様達は一言。
「見違えたましたわ。一晩で何が?」
「お前達、何だその変貌は?」
と言い出した。
私もシャルルも、ワールドを装備した以外特に変化はないんだけど……
「それ、ケミストリーってやつだね。」
「雪子お母様、けみ、何?」
「ケミストリー、だよ。簡単に言うと化学反応って意味だけどね。」
「化学反応?」
「えーっとね、これウリエルちゃんの力、だよね。」
さすがは雪子お母様。こういうのを素早く見抜くんですね。
「その装備は、もしかしてワールド、なのですか?」
「お母様、そうです。私とシャルルそれぞれに装備できるようになったの。」
「タカが身に着けていたものと形が違うのは、お前達に適合する形に変化した、ってところか。」
「はい。」
「うーん、何というか、似合ってるな、シャルル。ディーナも。」
「うふふ、“美カッコいい”ですよ?」
「「 ありがとう、お母様。 」」
「とはいえ、その姿以上に、お前達から感じる“気”みたいなものが変化している気がするな。」
「それが、ケミストリーの効果かもね。まだ二人とも覚醒どころか地の力も低いんだけど、それでこれだからね。」
「ユキ、よくわかったな。」
「ウリエルちゃんのその力は、とと様が一番よく理解してたしね。私もリンクしてたんだよ。」
「アタイだって取り憑いて同期してたってのにそれ以上かよ。やっぱりシヴァって侮れねえなぁ。」
何かこう、お母様達同士のお話って、どこか別次元のおとぎ話みたいに聞こえるのはなんでだろ?
「さあ、とにかく朝食にしましょう、みなさん。」
「はい。」
「ありゃ、そういやルナは?」
「そういえば今朝は誰も見ていない、のでしょうか?」
「私はさっき見かけたが、別邸の方へ向かっていたぞ。」
たぶん、ルナ様はお父様のお墓に行ったんだと思う。
―――――
「魔王様、アルチナ姉さまから連絡がきました。」
「お?アルチナからか、ありがとう、エヴァ。それで何と?」
「はい、本日ようやくあの子達がここへ来られるそうですよ。」
「そうか、何というか、待ちわびたな。」
「うふふ、先日はあんなことがありましたしね。首を長くし過ぎてしまいましたね。」
「そ、そうだな。しかし、あの子達に会うのも久しぶりだしなぁ。それに……」
「それに?」
「ついに、ついにタカヒロとの約束を果たす時が来たんだな。」
「あのお方、なぜここまで先の事をお見通しになられていたのでしょうか?」
「まぁ、それがアイツの勇者たる所以、なのだろう。我にはわからないな。」
「私も、あのお方に恩を返せていませんので、今回の事が上手くいけば、返せることになるのでしょうか?」
「いや、その気持ちだけで充分だ、ってアイツは言うだろうさ。でも、そうだよな。エヴァとこうして幸せに暮らせるのは、アイツのお陰だしなぁ。」
「それだけではありませんわ。アベルがこの世に生まれた事も、ですよ。」
「そうだな。全く、何から何まで…… やっぱりタカヒロには感謝してもしきれない。だからせめて、あの子達の真価を引き出す事に全力を尽くそうぞ。」
「私も、全力で補助いたしますわ。」
「うむ、エヴァ、カッコいいぞ?」
「うふふ、魔王様も。」
―――――
朝食を終えて、いよいよ出発に向けて準備を整える。
とはいえ、それほど多くない荷物と“ワールド”だけだから、特に問題はない。
そうして荷物を確認していると
「二人とも、ちょっと良いかな?」
「ローズお母様、どうしたんですか?」
「この前渡すのを忘れててね、これを持っていきなさい。」
「これは?」
かなり草臥れた、不思議な素材でできたバッグだった。
「これね、あの人がずっと持っていたバッグなの。中を空けて見てみなさい。」
「中を、ですか?」
受け取ったバッグのチャックを空けて中を見てみると……
淡く光る空間が広がっていた。
中、という感じではなく、別の空間、っていう感じ。
「これはね、中の容量っていうものが無い、何でも、いくらでも入るバッグなの。」
「これって……」
「あの人も何故なのかはわからないって言っていたわね。もしかするとワールド以上に謎の物体、とも言っていたわね。」
「でも、これを私達に?」
「有って困る物でもないし、むしろ有れば便利なアイテムでしょ?まぁ、見た目はちょっとアレだけどね。」
「いえ、お母様、逆に新鮮な感じもしないでもないです、よ?」
「まぁ、シャルルは私よりも流行に敏感な“オサレ”だけど、そんなシャルルが言うならそうなの、かな?」
「うふふ、ディーナはあの人に似てそういうの気にしないものねぇ。」
こうしてローズお母様から受け取ったバッグ。
言ってみれば、お父様の形見の一つ、だよね、これ。
でも、確かに何でも、どれだけでも収納できてこの大きさのままっていうのは便利よね。
「ありがとう、ローズお母様。」
「うん、頑張ってね、二人とも。」
そう言って、優しく抱き締めてくるローズお母様。
とても暖かくて、安らぐ気持ちになる。
準備も終わり、出発する時間になった。
今回は館の前でお見送り、となった。
皆が揃って見送りに来てくれた、けど。
やっぱりネージュの顔は曇っているなぁ。
理解はできても、納得はできないんだろうな。
特に、自分以外の人に過酷な旅をさせてしまう、っていう所に。
それは、つまり自分の力が足りない、という悔しさもあるんだろうなぁ。
でも、それは今の私とシャルルも同じよね。
「ネージュ。」
「ディーナ姉……」
「私達は、皆の想いを抱いて、頑張ってくるね。だから、見送りは笑顔で見送りしてほしいな。」
「う、うん……わかったよ!」
そう言って、涙目のネージュは笑顔を作って見せてくれた。
ちょっと、抱きしめたくなっちゃったな。
「じゃあ、みんな、行ってきます。」
「頑張ってくるからね。またね。」
そう言って、馬車に乗り込む。
みんな手を振って送ってくれた。
ネージュも、涙を流しながらも笑顔で手を振っている。
皆の気持ちの為にも、この星の人々の為にも、何よりお父様の願いの為にも。
私達は今を乗り越えて、自分を乗り越えて見せる。
きっと、辛くて悔しくて、泣いちゃう事もあるかもしれない、けど。
それでも、頑張ろうと決意を新たにしたんだ。
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