第17話 ウリエル様は何かを決断したらしい。
ネージュがディーナ達の部屋を出ると、部屋の前に誰かが居た。
「結花姉、ハーグ兄……」
「ほら、ハンカチ。もう、こんなに顔くしゃくしゃにして。」
「ネージュの泣き顔なんて久しぶりに見たぜ?」
「う、うん……」
「まぁ、アレよね。私らみんな100歳を超えてんのに、まだまだ中身は子供よねぇ。」
「あはは、しゃーない。寿命が長くて成長もゆっくりなんだ。まだ子供なんだよ。というか、父さんはずっと子供っぽかったしな。」
「ふふ、そうね。さ、ネージュ、みんな食堂で待ってるよ。今夜は飲もう、とことん飲もう。」
「うん!……ありがとう。」
そんなやり取りがかすかに聞こえた。
みんなとっても優しい、そう実感する。
「とは言っても、ね。」
「そうよね、修行、か……」
「ねぇ、あんた達、魔王様と手合わせって、ホントにするの?」
「うーん、その修行の内容にもよるのかなぁ。」
「でもさ、エイダム叔父様と手合わせってのが、一番近道のような気はしないでもないけどねぇ。」
「魔王様はお父様よりも強いんじゃなかったっけ?」
「今はね。先代魔王様の能力が戻った、とか何とかで。」
「うーん、ピンチ、よね、これ。」
そう、魔王様、つまり私の叔父のエイダム様は、現状では地上最強の存在。
何でも、相手の力に対して、常にそれを上回る力を出せるとか得られるとか何とか。
歴代魔王が持つ、魔王が魔王であるための能力、なんだとか。
「あー、まぁ、そんなに気負うこたぁないぜ、たぶんな。」
「ウリエル様、それはどういう?」
「ま、今のお前らじゃてんで相手になんないだろうがな、とりあえず死にはしないから。」
「叔父様が手加減してくれるから、ですか?」
「ちょっと違う、かな。というか、あいつ手加減とかできねぇだろ、たぶん。」
「じゃあ……」
「で、だ。お前らに一つ聞きたい。」
「はい、何ですか?」
「お前ら、アタイに生命力を吸収される覚悟はあるか?」
「え?」
ウリエル様が生命力を吸収する、という事は。
勇者のみが装備可能な“ワールド”に受け入れられる、いいえ、ワールドに取り憑かれる、という事。
取り憑かれると、生涯少しずつ生命力を吸い取られるという事、だよね。
「い、いや、でも、ワールドは勇者しか身に着けられないのでは?」
「ま、一般にはそういう事にしているんだけど、な。」
「違うのですか?」
「実は、アタイの意思でどうとでもなるんだよ。タカヒロと逢うために、あいつの前はどうでもいい普通の人間に取り憑いていたんだしな。」
「あ!、お父様が言っていた『伝説の偽勇者』ですか?」
「あはは、そう、そいつに、だよ。つまりだ、ぶっちゃけるとアタイがそう思えば誰でも装備できるってわけだ。」
「そうなんですか……」
「だけどな、『装備する』のと『扱う』ってのは、全く別の話だ。」
「それはどういう……」
「アタイやコレ自身が認めなけりゃ、この装具はただの鉄くず同然だ。本来の力は一切出すことはできない。」
「ウリエル様に認められるって、それって相当の実力者なんじゃ?」
「あのな、アタイが認めたところで、この装具は実力の無い者には呼応しないんだ。んでも、お前らは……」
「そう言えばあの時、ファントムは私の想いに応えてくれた……」
「私も、小手は勝手に攻撃を防いでくれたよ?」
「そう、この装具はお前らに呼応しただろ?そういう事だよ。」
ワールドはそれ相応の者でないと装備する意味がない、とはこれまでさんざん聞かされてきた事。
伝説の初代勇者が造り、勇者と言われたお父様が使いこなした、本物の聖武具。
とはいえ、このワールドを本当の意味で装備し扱えた人っていうのは、実質お父様ただ一人のはず。
そんな人知を超えた勇者のみが扱える装具を、私達が扱えるわけが……
でも、あの時確かにファントムは私に応えてくれた。
結局は何もできなかったけれど。
「アタイはな、お前らの実力をきちんと理解しているんだ。お前らでさえ自覚していない潜在能力をな。」
「自覚していない、力……」
「アタイは根拠のない確信はしない。そんなアタイが、お前らは覚醒するって確信してんだ。その為にはこの装具は必要だと言える。どうだ。」
「で、でも、それだとウリエル様が……」
「あー、気にすんな、というかアタイはその装具を通してお前らと一体になるけどな、こうして実体化するのは普通にできる。アタイに関しちゃ実質的には特に変化はないんだよ。」
「そ、そうなのですか?」
「嘘をつくなアホめ。まぁ、とは言え今はそれが一番良いとは思うがな。」
「ルナ様。」
「アホ言うなや!それにしれっとバラすなドアホ!」
「ま、ほぼ変わりないというのは本当だが、実力が追い付いていない現状ではその力の肩代わりはこいつがする、という事らしいぞ。」
「あーもうペラペラと!」
「そ、それじゃウリエル様に大きな負担がかかるって事ですか?」
「もー、しゃーない。まぁそういう事なんだが、お前らが思う程負担じゃねぇんだよ。ちょっと面倒臭いって程度だ。だけどな。」
「……」
「アイツの想い、お前らの想い、それを、ただ傍観してるだけのアタイが、どうにもイヤでな。」
「ウリエル様……」
「まぁ、あれだ。アイツに取り憑いていたからなんだろうな、そういう変な考えが感染っちまったんだろうなぁ。」
「なぁ、二人とも、私とて同じ想いなんだが、私は傍に居る事しかできない。が、コイツならお前達の手足となって実際に補助できるんだ。その代償なんて無いに等しいんだからな。コイツの決断した意志も汲んでくれると嬉しいぞ。」
ウリエル様の決意……
正直、私もシャルルも、それに応えられるかどうかは今の所解らない。
ウリエル様のサポートで力の底上げをする、というのも、本当に私達の力と言えるんだろうか。
でも、確かに今は拘泥している場合じゃないし、実力をつける事こそが喫緊の課題なんだし。
シャルルを見る。
シャルルも同じ事を思ったみたいで、私の目を見て、力強く頷く。
「ウリエル様。」
「お、どうだ?」
「私達に取り憑いて下さい。お願いします。」
「私達は、きっとウリエル様の決意を昇華してみせます!」
「あー、そんな大げさに捉えなくても。ま、それじゃ、良いんだな。」
「「 はい! 」」
「あ、そうそう、言い忘れた。」
「「 はい? 」」
「そうなるとだな、ワールドはお前ら二人分の形になる。どちらかが剣でどちらかが防具、なんて事じゃなくて、矛と盾きっちり二人分だ。」
「そうなのですか?」
「まぁ、その分力が分散しちまうけどな。その減った分は今後お前らが実力をつけて埋め合わせてくれ。」
「「 はい。 」」
すると、早速“ワールド”は姿を変え、私達の前で剣と胸当てと小手に変化した。
私は青みがかった装具、シャルルは赤みがかった装具だ。
「ま、アイツは剣にファントム、なんて名を付けたけどな。今のコレには、お前らが好きに名称を付けるなりすりゃいいぜ。」
「そう言われましても、ネーミングは私ちょっと……」
「私も、センスないかも。」
「なら、私が付けようか?」
「ルナ様が!」
「おいおい、お前そんなセンス持ってんのかよ?」
「知らん。が、しかし、なぜかは知らないが、何となく頭に浮かんだ名称がある。」
「どんなだよ?」
「うむ、“ヴァイパーゼロ”と“イーグル”だ。」
「……お前にしちゃ良いセンス、なのか?それ。」
こうして、ウリエル様の決意を受け、私達は一歩前進したように思う。
まだ、特に何もしていないのだけれど、ね。
ウリエル様の決意、ルナ様の想いに、しっかりと応えなきゃ。
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