第2章 修行の旅へ ~デミアン王国編~

第11話 あれが、モンスター


 エスト公国からデミアン領へと出発する朝。

 それはまさに寝耳に水、だった。


 「ねえディーナ、何か城内が騒がしくない?」

 「そうだね、ちょっと普通じゃない感じ、かな……」


 部屋を出て回廊へ行くと、騎士団や兵士が慌てて中央広場へと走っていく。

 どうやら何かあったみたいだけど、何だろう?


 「あ、二人ともお早う。」

 「おはようございますネモフィラ母様、何かあったんでしょうか?」

 「どうやらモンスターが複数体現れたみたいですね。」

 「モンスターが、複数?」


 モンスターが複数で現れる、というのは滅多にない事だと聞いていた。

 ただでさえ厄介で危険なモンスターが複数、となると一大事よね。


 「ネモフィラお母様、これはひょっとして大変な事になっているんじゃ?」

 「そうですね、国内の兵士総出で事にあたる、とディノブは言っていましたが……」

 「兵士の中には魔族の方もおられるのですよね?」

 「半数は魔族とハーフの方です。なので何とかなるとは思います、けれど……」

 

 とはいえ、危険度がとても高い事に変わりはない。

 それに、不謹慎だとは思うけどモンスターはまだ見た事がないから見ておきたい、という気持ちもある。

 なにせこれから私とシャルルが相手する敵、だもの。


 「ねぇディーナ、私達も」

 「同じこと考えてたのね、シャルルも。」

 「いけませんよ、二人とも。危険すぎます。」

 「お母様……」

 「モンスターは専門家に任せておくべきです。あなた達では到底相手にできる敵ではありませんよ?」

 「で、ですがお母様、私達はまだモンスターを良く知りません。見た事もないのです。」

 「ですので、ここで見ておきたい、とも思います。」

 「ダメです。あなた達に何かあったら、あなた達のお母様に申し訳が立ちません。何より私もあなた達には怪我すらして欲しくないのです。」

 「……」

 「いいですか、絶対にダメですよ。」

 「わかりました。」

 「とはいえ、今後イヤでも相手することになるのです。まずはその為の修行が先、ですからね。その後なら、思う存分対処すればよいのですよ。」

 「そ、そうですね。」


 ここで無茶な事をすればネモフィラお母様にも迷惑がかかっちゃう。

 言われた通り、私達は何もできないし兵士さん達の邪魔にもなるだろうな。


 「心配しなくても、エスト王国の兵士はモンスター退治の実績はかなりのものがあります。大丈夫ですよ。」

 「ごめんなさい、お母様。」

 「うふふ、そんな所は二人ともあの人とお母様達の血をしっかりと受け継いでいるのですね。」


 そう言って、私達を優しく抱きしめるネモフィラお母様。


 そんな騒動を他所に、私達は出発する事となった。

 ディノブ様にお礼を言って駅まで馬車で移動した。

 ネモフィラお母様とコキアとアドニスはそのままイワセ温泉郷へと帰る。

 私達はデミアン王都へ向かう列車に乗るので、ここでお別れだ。


 「では二人とも、気を付けて、そして頑張ってね。」

 「ディーナ姉、シャルル姉、頑張って、な。」

 「怪我しないように、ね……」

 「ありがとう、お母様、アドニス、コキア。」

 「じゃあ、行ってきます。」


 ネモフィラお母様達と別れ、デミアン王都行の列車に乗り込んだ。

 列車はスルスルと走り出し、エスト王都の城壁を潜って平原を走る。


 流れる車窓を眺める事40分程したところで突然、列車は急停止した。

 何だろう?と思っていたら、車内アナウンスが響く。


 『ただいま前方にモンスターが出現したとの情報が入りました。安全の為ここで急停止いたします。』


 どうも朝の騒動とは別口のモンスターが現れたみたいだ。


 「ディーナ、これって……」

 「うん、ちょっと、マズいかも。」

 「ここってエストからじゃかなり遠いよね?」

 「というか、朝のアレでエストの兵士さんはみんなそっちに行ってるはず、よね……」


 そう話していると


 『モンスターがこちらに迫ってきています。危険ですから車外へは出ないでください。車内は安全です。』


 と再度アナウンスがあった。

 こっちに来ている、ですって?


 過去、列車がモンスターに襲われることは何度かあった。

 なぜか貨物列車は襲わず、旅客列車だけが襲われるんだそうだ。

 そして、襲われた列車はほとんどが乗客を保護したが、数回は大きく破壊され人的被害もでた。


 「シャルル、ネモフィラお母様にはああ言われたけど、ごめん。じっとしていられない。」

 「私もだよディーナ。列車の人たちに被害がでてからじゃ遅いし。」

 「ちょ、ちょっと待てお前ら!」

 「ウリエル様?」

 「バカな事考えんなよ、今お前らが出て行っても怪我するだけだ。じっとしてろ!」

 「で、でも……」

 「アタイとルナで対処する。お前らはここに居ろ。」

 「……」


 歯がゆい。

 とっても歯がゆい。

 そして悔しい。

 なんで、こんな時に私達は何もできないんだろう。

 なんで、迫ってくる危機に立ち向かえないんだろう。

 なんで、ここに居る人達の安全を守れないんだろう。


 悔し涙が頬を伝う。

 でも、ウリエル様がいう事ももっともだ。

 今の私達にできることなんて何一つ無いんだもの。


 すると、列車内に衝撃が走る。

 モンスターが襲ってきたんだろう。

 乗客の悲鳴が全ての車両から響く。


 「……がまん……できない!」

 「ディーナ!」


 気づくと私は駆け出していた。


 「あ!おい!バカ、行くなってのに!」

 「ごめんなさいウリエル様、私も!」

 「あー!もう!このバカどもめ!わかったから“ワールド”を忘れずに持ってけ!」


 シャルルは私を追って車外へと飛び出した。

 70メートルくらい先にモンスターが居る。

 先頭車両を襲っている最中みたいだ。


 「おいバカども、よく聞け。」

 「ウリエル様……」

 「こうなったらしょうがない、お前ら、アタイを装備しろ。ディーナが剣、シャルルが防具だ。」

 「ごめんなさい、でも……」

 「あー、わかってるさ、お前らはタカヒロの子だ。こうなるんじゃないかって思ってたしな。おい!ルナ!」

 「ここに居る。」

 「こいつらを守りつつアレを破壊する。手伝ってくれ。」

 「イヤだ。」

 「おい!」

 「お前たちはここに居ろ、私が一人でやる。」

 「いや、しかし……」

 「気をつけろ、1体じゃない、警戒しておけ。」


 そう言うとルナ様は先頭車両を襲っているモンスターに向かって行った。

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