第12話 進化したモンスターは驚異的


 ルナ様がモンスターに攻撃を仕掛けたのと同時。

 車両の向こう側から別のモンスターが飛んで来た。


 「シャルル!危ない!」

 

 とっさにシャルルを突き飛ばし、モンスターの攻撃は躱せた。

 速い、とても動きが速い。

 それに、力も凄そうだし、魔力も纏っているみたいだ。


 「シャルル、大丈夫?」

 「ごめん、ディーナ、ありがとう。」

 「気を付けて、これ、強い……」


 対峙しているだけでわかる。

 私達の力など到底及ばない事に。


 「ちッ、まずい、ひとまずアタイの力を“ワールド”に戻す。いいか、逃げ切れ!」

 「「 はい! 」」


 とにかく回避に全力をかける。

 斬りかかるなんて全然無理だ。


 「フェスタ―!ムーン!頼んだぞ!」

 「まかせろよ!」

 「シャルルにはボクが!」


 お父様に宿っていた精霊のフェスター様とムーン様が、私達にそれぞれ入ってきた。

 精霊様はお父様亡きあと、ウリエル様とルナ様に帯同しているんだ。

 光の精霊であるフェスター様が私に入ってきた。

 力が漲る。

 でも。

 それでも。

 目の前にいるモンスターには到底かなわない。

 私の元の力が弱すぎるんだ。


 そうしている間も、モンスターは襲ってくる。

 躱し、逃げるので精一杯だ。

 時折、魔法を放ってみるけど全然効果がない。

 魔法に関してはかなり強力な方だと思っていたけど、ダメみたいだ。


 シャルルのブレスを浴びて、一瞬だけ隙ができた。

 すかさず私は剣、“ファントム”で斬りつけた、けど……

 弾かれた。

 確かにファントムは私に呼応してくれた。

 でも、圧倒的に力が足りない。


 「おい!無茶すんな、逃げに徹しろ!」


 ウリエル様が叫ぶ、と同時に、モンスターの腕が私の目前に迫った。

 世界中の時間がスローモーションになったように、モンスターの爪がゆっくりと、私を切り裂こうとしている。

 その瞬間が見えるのに、動きも見えるのに、体は動かない、動けない。

 もう、ダメだと思った。


 すると

 スローモーションの中、そのモンスターの腕は切り落とされた。

 その斬撃は速すぎて見えなかった。すべてがスローだったのに。


 「まったく、無茶をするのはアイツと同じだな。」

 

 と、時間の流れが、感覚が元に戻った。

 目の前にはルナ様が立っていた。


 「ル、ルナ様!」

 「もう大丈夫だ。そこで見ていろ。」


 ルナ様は剣を持っていない。

 いないのに、手には光の剣があった。

 いや、これは剣、ではなく、魔法?


 「ちょっと、これを借りるぞ。」


 そう言って、光の剣は消え、私が持つファントムを掴んだ。

 そして、目にもとまらぬ速さでモンスターを切り刻んだ。


 「終わりだ。」

 「ルナ様……」

 「全くバカどもめ!ま、とりあえず一安心だ、すまないな、ルナ。」

 「いいさ。とはいえ、コレは消滅させないといかんのだろう?」

 「そうだな。おい、ディーナ。」

 「は、はい……」

 「あー、まぁ、そんなに落ち込むな。まずはお前がこの残骸を処分しろ。」

 「わ、私が?」


 魔法が通じなかった私に、残骸とはいえ処理できるんだろうか……


 「サラマンダ、ディーナに力を貸してやってくれ。」

 「あいよ。さ、ディーナ、力を貸すよ。いいかい、この感覚をよく覚えておきなよ。」

 「は、はい。」


 火の精霊であるサラマンダ様の力を借りて、残骸に火の魔法を放つ。

 自分でもびっくりするぐらい、いつも私が放つものより強力な魔法だった。

 とても私自身で放った魔法だとは思えない。


 火の魔法で2体の残骸を消滅させ、ひとまず事態は収束した。

 収束はしたけれど……


 「ウリエル様、ルナ様、精霊様、ごめんなさい……」

 「私、どうしても……」


 私もシャルルも、涙が止まらない。

 ウリエル様達に迷惑をかけた、という事もある。

 それ以上に。

 全然モンスターに歯が立たなかった事が何よりも悔しくて悲しい。


 「まぁ、な。お前らがそんな行動にでるってのは何となくわかってたさ。」

 「が、自己の実力と相手の力の差を理解できないのでは、それは自殺行為でしかないぞ、二人とも。」

 「は、はい……」

 (あのさ、ディーナ、お前こんなに力があるのに、何でそれが発揮できないんだ?)

 「フェスター様?私に、そんな力が?」

 (キミもだよシャルル、キミの力は全然眠っているよ。)

 「私の力が、眠っている……」


 「ひとまず、だ。お前たちは一度イワセに戻るべきだろう。そこで今後の事も含めて家族全員で話し合い仕切り直すべきだ。」

 「そうだな、お前らの怪我も治さないとな。」

 「え?怪我?」


 全く気付かなかった。

 私は左腕を、シャルルは右足を大きく怪我してしていた。

 気づかない内に攻撃を受けていたんだ。

 ひとまず治癒の魔法で止血し包帯を巻く。

 私達の力では、まだ完全に治癒できる程の魔法じゃない。止血が精いっぱいだ。


 列車に戻ると、乗客たちが私達を讃えてくれた。

 感謝の言葉さえあった。

 でも。

 それが今はとても胸を締め付ける。


 私達の実力の無さは当然の事だけど。

 モンスターは、想像以上に驚異的だったんだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る