第10話 エスト王国では皆が危機を感じていた


 お墓詣りを済ませてエスト城へと向かった。

 結局、ここで一泊してから明日デミアン領へと向かう事になった。

 というのも、ディノブ様が歓迎と壮行の宴を開いてくれるから、だって。


 ディノブ様のお子様達、王子のノブ様、王女のチャチャ様もいる。

 お二人は共に才色兼備の神童と呼ばれるほど聡明な人だ。

 それでいて気さくに私達に接してくるから、私達も大好きなんだ。


 「なーなー、シャルル、旅に出るって本当なのか?」

 「本当ですよノブ様、ディーナと二人でね。」

 「何で?」

 「ちょっと、やらなければならない事がありまして。」


 ノブ様は特にシャルルに懐いている。

 ノブ様が赤子の頃からシャルルに懐いていて、ノブ様からすれば優しいお姉ちゃんみたいな感じなんだろうか。

 私はなぜか怖がられていて、あまり話をしてこないが嫌われている訳じゃないみたい。

 逆にチャチャ様は私にとても懐いていて、シャルルの事は苦手みたいだ。

 不思議だと思う。


 「ねぇ、やらなければならない事って何なの、ディーナ。」

 「えーっとですねチャチャ様、話すと長くなりますので……」

 「長くたって良いよ、聞かせてよぅ。」

 「ふふ、そうですか、では……」


 確信部分はぼやかして、大まかに旅の目的を二人に話した。


 「モンスター退治、なの?」

 「それって、シャルルとディーナだけで、か?」

 「そうですね、たぶん二人で、ですよ。」

 「その為に、シャルルも私も力を付ける為の旅なんです。」


 ちょっと、二人の反応が気になった。

 確かにモンスターは人間のみならず魔族にも脅威だ。

 昔に比べれば弱くはなっているとか言われているけれど、それでも人間だけじゃ対応できない。


 聞けば、最近になってこの辺にもモンスターの出現が顕著になっているみたいだ。

 これまでは年に1体出るか出ないかという頻度だったけど、今年は既に月いちで発生しているんだって。


 そのモンスターへの対処は、1体に対して魔族を軸に50名程の集団で迎撃しているそうで、それでも死者こそでていないもののほぼ全員が怪我を負うんだとか。

 モンスターの強さは、それほどのモノなのだ。

 私のお母様やシャルルのお母様、サクラお母様やお父様なら一人でも駆除できるけど、それは例外中の例外だ。


 「でもでも、ディーナ達はそんなに強かったっけ?」

 「いいえ、私達は闘いなんてしたことはありません。」

 「それでモンスターをどうやってやっつけるんだ?」

 「だから、鍛えるんですよ、これから、ね。」

 「何やら不穏なお話をしてますね、みんな。」

 「ディノブ様、聞いてらしたのですね。」

 「まぁ、僕もお二人の目的は聞いていますが、それ故に心配もしているのですよ。」

 「ディノブ様、すみません。」

 「ああ、いえいえ、そんな頭を下げないでください。心配もしていますが応援もしているのですから。」

 「ふふ、ありがとうございます。」

 「とはいえ、ですが……」


 ディノブ様の話では、今の頻度で出現が続く、あるいは集団で出てくると対応が困難になると懸念しているそうだ。

 もはや国民全員がモンスターの脅威を肌で感じている状況で、他国との交流や人の出入りにも支障をきたしているんだって。

 これは、ちょっと急がないといけないのかも知れない、かな。


 「今はまだ魔王様の援軍も頼れるから良いのですが、デミアン領でも出現頻度が高まるとそれも難しくなるでしょうし。」

 「デミアン領ではまだそこまで出現頻度は高くなっていないのですか?」

 「大陸東部ほどではない、というレベルでしょう。以前よりは高くなっていますがまだ魔王様一人で対処できる程度らしいです。」

 「……」


 エイダム叔父様、半端ないのね、やっぱり。

 でも、叔父様一人で対処っていうのも限界があると思う。

 そんな中で私達を鍛えてくれるって、とても負担になるんじゃないのかな。


 「いずれにしても、あのモンスターを相手にしようとしているのですから、充分気を付けてくださいよ、二人とも。」

 「ありがとうございます、ディノブ様。」

 

 少しずつ、少しずつ。

 この世界に危機が迫ってきている、そんな気がした。

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