第5話 勇者聖骸の管理者、シヴァ様の涙

 雪と氷に閉ざされた小さな国、フリーズランド。

 人々の寄り付かないここに、シヴァ様が居る。


 シヴァ様は唯一の原始精霊であり、この世界の精霊達を束ねる精霊女王だ。

 雪子お母様の母体であり、ネージュの祖母にあたる。

 精霊女王でありながらお父様を愛し、お父様に様々な力を与え助けてくれていたんだって。


 そんなシヴァ様は、お父様が亡くなった時にはとても悲しんだそうだ。

 それ故に、お父様の亡骸はそのまま凍結され、シヴァ様の元で保存されている。

 シヴァ様が存在する限り、朽ちる事なくそのままの姿でいるんだって。

 でも、そのお父様の亡骸は誰も目にすることは無い。

 当のシヴァ様でさえ。

 見てしまうと逢いたさだけが募り、悲しみが蘇ってくるから。


 そんなフリーズランドへとやってきた。

 雪子お母様とネージュ、私とシャルルの4人で。


 「かか様、お久しぶりです。」

 「大お母さま、久しぶり!」

 「「ご無沙汰しています、シヴァ様。」」

 「よう来てくれたの、皆、久しいな。」


 シヴァ様の表情に笑みはない。

 まさに氷の女王にふさわしい、凛とした表情。

 と、シヴァ様は表情を崩し、大粒の涙を零した。


 「うぅ、すまぬな。お前たちを見ると、どうしてもあ奴との日々を思い出してしまってのぅ。」

 「かか様、それはあの人の泣き虫が感染ったからです。それが自然だと思う。」

 「そ、そうじゃな。そうかも知れぬな。すまぬ、雪子よ。」


 シヴァ様は今もお父様を愛していらっしゃるのでしょうね。

 悠久の時を生きるシヴァ様にとって、6年という月日なんて昨日の事みたいなんだろうな。

 悲しみを乗り越えるには、まだまだ時を要するって、シヴァ様自身が言っていた。


 「グス、で、じゃ。お前たちが来た理由は、あの事じゃな?」

 「はい、かか様。」

 「しかし、雪子とネージュ親子にディーナとシャルルの二人が一緒というのは珍しいの。」

 「シヴァ様、今日はどうしても知りたいことがございまして、シャルルと一緒に来ました。」

 「私達は、あの“コア”と、その封印の真実を知りたいのです。」

 「……やはり、あ奴の子じゃのぅ。お前たちの考えている事はよくわかる。しかし、じゃ。」

 「シヴァ様?」

 「うむ、ひとまずはそのコアの真実を話そう。」

 

 シヴァ様が話してくれたことは、先日お母様たちから聞いた事でもある。

 新たに知りえた事としては、コアに代わるものはなく、コア自体はこの星になくてはならない星の自浄作用システムだという事。

 

 「それで、じゃ。そなた達の父が施した封印なのだがな……」

 「は、はい。」

 「あの方法はあ奴だけができる事でな、その手法が分かったところで発動できる者はいない、というのが結論じゃ。」

 「誰も発動できない……」

 「ウリエルやルナ、姫神子と解析し、時にはエルデ様やあ奴に宿っていた精霊達の知恵と能力も総動員して何とかその現象がどういったものなのか、までは朧気ながらわかったのじゃが……」

 「……」

 「発動の方法は全くわからぬのじゃ。想像すらできなかった。」

 「それでは、このまま封印は消えていく事に……」

 「現状ではそうじゃな、で、それと同時にかつての勇者ムサシが発動した結界魔法も解析したのじゃ。」

 「それは、200年前までデミアン領を囲っていた結界、ですか?」

 「そうじゃ。しかし、これも同様でな、発動の方法はついぞ判明していない。ただ、じゃ。」

 「ただ?」

 「お前たちと同様に、ムサシの血を引くものもこの世界に存在する。お前たちか、あるいはそのムサシの子たちなら、あの技を使える者がいるやも知れない、というのがウリエルやルナとの話の結論じゃ。」

 「私達、またはムサシ様の子孫……」

 「何れにしても、じゃ。現状は再び起こるであろうモンスターの脅威に備えることが急務であろうな。」


 お父様の血を引く私達兄弟姉妹、あるいは、ムサシ様の血を引く初代勇者の子孫。

 つまりは、いずれにしても私達にしかできない、いいえ、私達がすべき事、という事なのね。

 というか


 「シヴァ様、ムサシ様の子孫、というのは?」

 「うむ、ムサシそのものをわらわは良く知らぬ。話をしたことは何度かあるんじゃが、それほど付き合いが有った訳でもないからな。」

 「そうなると、その子孫がどこに居てどんな人なのかは……」

 「うむ、全く不明じゃな。さらに言えば、ムサシの子はお前たち兄弟姉妹よりも多かったようじゃからの。」

 「え?」

 「前魔王から聞いたのじゃが、お前たちの父同様、ムサシも懇意にしていたオナゴが多くての、その数は数十人にも上ったそうじゃ。」

 「す、数十人……」

 「あれじゃな、歴代の勇者というのは、そういう者たちなのであろうな、うん。」


 お父様ってば12人のお母様達と、と思っていたけど、ムサシ様はそれ以上、なのね……

 かつてお父様はムサシ様には敵わないと言っていたけど、そっちでも、という事なのね。


 「まぁ、話はこんな所じゃな。ほかに何か聞きたいことはあるかの?」

 「いえ、充分です、シヴァ様。」

 「では、今日はここでゆっくりしていってくれ。タカヒロの子たちと居るとな、気持ちが落ち着くのじゃ。」

 「はい、お手数かけますけど、お世話になります。」

 「なに、我が家と思って寛いでいってくれ。」


 その後、シヴァ様と私達で飲んで騒いだんだけど。

 シヴァ様が泣き上戸というのはちょっとビックリしたなぁ。

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