第4話 愛しいお父様『勇者』の命日
昨夜、あれだけどんちゃん騒ぎして飲んでいたのに、誰一人二日酔いになっていないのは凄いと思う。
もっとも、私もそうだけれど、お酒はみんな強い。
家族で一番お酒に弱かったのは、意外にもお父様だったな、そういえば。
「さあ、みんな、行きますよ。」
サクラお母様が先導して、お父様のお墓へと向かう。
お父様のお墓は敷地内にあって、お墓の周囲は庭園のようにきれいに整えられている。
一見すると、何かのモニュメントのような感じ、かな。
ここには毎日、お母様達がやってきては掃除したり墓標を磨いたりしている。
当番制でもないのに、自然にかち合う事もなく、うまい具合に順番になっているんだとか。
なんというか、お母様達のお父様に対する想いが凄いと思う。
「では、皆並んでお祈りしようかの。」
「じゃぁ、私がお祈り主をするわね。」
サダコお母様が皆を整列させて、ローズお母様がその前に建つ。
墓標に向かい、お祈りをする。
本当に簡単な、手を合わせ目を閉じて『安心してください、私達は幸せなままです』と祈るだけのお墓詣りだ。
この世界に宗教という概念は無い。
その昔、人類が9割以上も死滅する天災があってそれ以降、そういうものは廃れたみたい。
ただ、亡き人を弔う、生きる事に感謝する、自然に感謝する、という習慣と風習は残っていたらしい。
今でいう仏事というか祭事は、そうした先人や自然への感謝の現れなんだ、とお父様やお母様達は教えてくれた。
「さ、それじゃ恒例の記念撮影だな。みんな並んで。」
トキワお兄様が仕切って、墓前で全員集合の写真を撮る。
これも毎年の恒例行事となっている。
写真というのも、発明し広めたのはお父様だ。
ただ、お父様は、これは発明じゃなくて復元しただけだよ、と言っていた。
その辺りの話はその後カスミお母様から詳しく聞いたんだ。
元々遠い昔、あの天災前にはこういう便利な利器が沢山あったんだとか。
今では普通に使われている“電話”も、“天然ガス”も、そして電気も。
この世界が急速に発達し便利になったのは、そういう側面があったんだって。
写真を撮り終え、私達はみんな館へと戻る。
でも、お母様達はまだ墓前にそのまま居て、お母様達で何か話をしている。
ちなみに、お父様のお墓にはお父様の亡骸は無い。
お父様の亡骸は、実はそのままの姿で別の場所で保管されている。
亡くなった時そのままの姿で凍結され、腐敗もせずまるで眠っているかのような姿のままで。
その亡骸は、いまはシヴァ様の城に安置されているんだ。
私は引き返して、お母様達の話の輪に入ろうとした。
すると、シャルルも同じ事を思ったのか、一緒に付いてきた。
気が付くと、ルナ様とウリエル様も居る。
お母様達は過去のお父様の話で盛り上がっていたようだ。
ただ、それに加えて少し、不穏な話もしているようだった。
「うむ、やはりの。そんな気はしていたのじゃが。」
「その封印、あ、ブラックホール、だったわね、それが弱くなったってことでしょう?」
「そうですね。ただ、それも当然の事のような気もしますが。」
「だが、問題はその結果がもたらす事象、という事だな。」
「そう、ですね。主人亡きあと、海中で行動できるのは私だけですけれど……」
「さすがにネモフィラに封印はできませんし、かといって放置はできませんわね。」
何の話なんだろうか。
ただ、話の内容はあまりいい事ではない気がするけれど。
「お母様、その話って」
「あら、ディーナ、シャルル、居たのですね。」
「はい、何か凄く不安な話に聞こえましたけど……」
「そうですわね、この話はあなた達にきちんと話した事はありませんでしたね。」
「まぁ、この際じゃから話しておくのも良いかもしれんのぅ。」
「でも、子供達に不安を与えるのもちょっと……」
まぁ、もう聞いてしまったので不安を与えるも何もないんだけど。
ただ、その話は詳しく聞きたいと思うのも事実です。
「この話は、トキワとヒバリ、それからスペリアだけしか知らない話です。」
「いい機会だから、みんなにも話しといた方がいいかも知れないわね。」
「しかし、一抹の不安はある、な。」
「とはいえ、事実は事実だし、なぁ。」
結局、全員にその話を詳しく話す事になったみたいだ。
お母様達やルナ様、ウリエル様、それにトキワお兄様とヒバリお姉様、スペリアお姉様は既に知っている事みたい。
全員が大広間に集まり、サクラお母様がその話をみんなに聞かせてくれた。
その話とは
お父様が亡くなった理由、それは老衰と言われている。
しかし、真実は生命力の使い過ぎによる衰弱死だった。
本当なら、お父様には寿命がなかったという。
純粋な人間、でも、精霊が2体も宿り、さらに5体の精霊もお父様と同調して、その上ウリエル様に取り憑かれている事により寿命というものが無かったんだそう。
生命力の使い過ぎ、それはとあるスキルを延々と発動し続けたことで消費していたそうだ。
その理由は、モンスターを生み出す“コア”を封印する為、だったって。
“コア”とはお父様が命名した呼び名で、人間を始めとした地上の生命体が持つ『悪意』を吸い取り、固形物である『モンスター』へと形を変え地上へ還元する、この星の自浄作用システムなんだとか。
この“コア”のお陰で人間同士による争いや、悪意や強欲による悲劇が最小限に喰止められているらしい。
そのコアは2か所あり、その二つともお父様の力によって制御されていて、お父様はその制御に力を使い続けたために亡くなった。
「そ、そんな……」
「じ、じゃぁ、お父様はそれさえなければまだ元気に生きていた、のかも……」
「なんで、そんな事……」
その事実を知らない私を含めた兄弟姉妹は、言葉に詰まる。
結局、お父様は死ぬまで地上の生きとし生けるものの為に力を使い続けた、という事だ。
豊かに、そして便利に、多少の貧富の差や事件事故はあるものの、皆が悲劇に見舞われることなく穏やかに生活できている、それが当たり前の今の世界。
それが、たった一人の、私達が愛するお父様の力によるものだった、という事実。
お父様は、自分では絶対に違うと言っていたけど。
紛れもない、生命を慈しみ愛した真の『勇者』そのものだよね。
「そして、あの人亡き今、その封印が弱まってきている可能性がある、という事です。」
「その封印が無くなれば、じゃ。世界は再び悲劇を当たり前とする混沌に陥るじゃろうな。
ワシやカスミはそんな世をよーっく知ってはいるが、この世界と比べると決して良い世界とは言い難い。」
みんな声もでない。
実感も無ければ、想像すらできない。
今のこの世界が、ごく当たり前の世界なのだから。
「で、でも、サクラお母さま、その封印はどうしたら再び施せるのですか?」
「マスミ、それが……」
「今現在、それができる人物が存在しないのよ。」
「ママ、それって……」
「そうよギニー、これはこの星に生きる者にとって大きな問題なの。」
「ただ、その鍵を握る方が居ない訳じゃないのよ。」
「雪子母様?」
「私の母様、シヴァ様にそれを聞いてみるのが解決の一歩になるかも、なの。」
結局の所、お父様自身も知らないその封印の技は、当然誰も知らない。
お父様に宿っていた精霊の方たちですら、その原理も理屈もわからないらしい。
でも、お父様が唯一無二の使い手なんだろうか、という疑問もある。
聞けば、大昔の初代勇者『ムサシ』様は、同じような技で結界を張り魔界を守ったという。
という事は、不可能ではない、かも知れない。
「お母様達、私がシヴァ様の所へ行って話を聞いてきます。」
「ディーナ、あなた……」
「私も一緒に行く。」
「シャルル……」
私はこの時、勇者の、お父様の意思を継ぐべきだと思った。
シャルルも同じことを思ったみたい。
だから、シヴァ様の元へと向かう事にしたんだ。
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