第6話 ルナ様はお父様に会いたいと言った
イワセ温泉郷へと戻った。
私とシャルルは、戻る道中で一つの決断をした。
きっと、みんな反対するかもしれない。でも。
「私は、お父様の意志を継いで“コア”を封印する。」
「私も同じ。だから、その為に旅に出る。」
お母様達、兄妹姉妹の前で、そう宣言した。
けれど……
「ディーナ、それはとても辛い道を歩んで行くことになるんですよ?生中な覚悟では達成しえません。それでも、行くのですか?」
「シャルル、アルチナの言う通りなんだぞ?お前の父上が歩んだ苦難の道を、あえて行く覚悟はあるのか?」
反対するわけでもなく、私達のしようとしている事にどれほどの艱難辛苦が待ち受けているかを知っているお母様達は、それを懸念しているんだと思う。
でも、傍観している訳には行かない。
他の兄弟姉妹にも、そんな苦難を味わってほしくない。
何なら、シャルルにだって同行して欲しくはないくらいだ。
わざわざ幸せな生活を蹴ってまで、冒険の旅に付き合う必要はないでしょうし、ね。
「お母様、私は、それをしなくてはならないと気づきました。どこまで、いえ、何ができるかさえ今はわかりません。」
「ディーナ……」
「でも、前に進まなきゃ、何も始まらないって気づいたの。だから……」
「私も同じです。仮にディーナがやらなくても、私一人で行くつもりでした。」
「シャルル、お前……」
「結局だ、お前達はやっぱりタカヒロの子、だって事だろ。」
「ウリエル様、それは……」
「タカヒロの前向きな、それでいて他者の為に何かするっていう考え、それに加えてアルチナとシャヴィの心と体の強さが加わってるんだ、こうなるのは必然なのかもしれないぜ?」
「……」
「かつて、な。あいつは私に言ったよ。いつかお前たち二人がこうなるんじゃないかって、な。」
「ルナ様!」
「いつの間に?」
「おっと、またうっかり気配を消してた。」
「そ、それは良いのですが、タカヒロ様がそんな事を……」
結局、私とシャルルが問題解決の旅に出る事は同意された。
ただ、二人だけで旅立つのは少し不安が残る、という話も出た。
それはそうよね。
「という訳で、一度あなた達には問題解決の前に修行の旅に出てもらう必要がありますわね。」
「修行、ですか?」
「はっきり言いますが、今の貴方たちではモンスターの相手はできません。」
「……」
「ですが、あの人と私達の子です。実力は計り知れないものがあるはずです。」
「そうだな。戦闘能力にしても、魔法の力にしても、だ。私らよりも強いはずだよ。」
「では、その力を得る為に修行を、ですか?」
「あはは、そうは言ってもな、そんな苦行をするわけじゃないと思うよ。な、アルチナ。」
「そうですわね、多少厳しいとは思いますけれど、ね。」
「でもお母様、修行って具体的にどういう……」
「魔王様、それに龍族の王に稽古をつけてもらいなさい。」
「「 !! 」」
魔王エイダム様、それに龍族の王マリュー様……
共にその力はこの世界最強と謳われるほどだって聞いている。
そんな方々に稽古をつけてもらう、だなんて……
私達、旅に出る前に死んじゃう?
「あ、そうそう、それをしないと、問題解決の旅は許可しませんからね?」
こういう時のお母様の笑顔は、とても怖いの……
その夜。
シャルルとベランダで夜風にあたって今後の事をあれこれ考えていた。
実際、決断したは良いけど、取っ掛かりが何一つないっていうのも事実よね。
そんな事を考えていると
「お前達、本当に行くつもりか?」
「わっ! ルナ様!いつの間に?」
「びっくりしたぁ。」
「ああ、すまない、うっかり。」
もう、ここまで来るとワザとやっているようにしか思えないけど、ホントにうっかりなのよね、ルナ様の場合。
「はい、決めた事ですから。」
「私は、お父様の意志を継いで、お父様の願いを、想いを絶やさないようにしたいんです。」
そういう私達を、ルナ様は少し悲しそうな表情で見つめた。
その表情からは、どういう受け止め方をしたのかが伺えない。
でも
「そんなお前達を見ていると、何でだろうな、あいつと一緒に居るような気分になってしまう。」
「ルナ様……」
「私はな、女々しいかも知れないが今もタカヒロに会いたい、と常に思っているんだよ。会えないのは理解していても、な。」
「それは、ルナ様だけじゃないと思います。私だって……」
「だがな、かつてあいつはそういう感情を“未練”だと言っていた。決して悪い事ではない、ただ、それに拘り過ぎるのも良くない、と。あいつは私に、そういう人間の持つ心を色々と教えてくれたよ。」
「……」
「いいかお前達、これから修行にしろ旅先での出来事にしろ、とても辛く厳しい事が起こるだろう。」
「そう、ですね。覚悟はできています。」
「しかしな、その決意を忘れずに、そして私が、ウリエルが居る事も忘れずに前に進んで行け。私は常にお前達の傍に居る。」
「ルナ様!」
ルナ様は、私達の旅に付いてくる、という事なんだろうな。
でも、ルナ様の場合、一緒に居る、というよりもどこかで見守ってくれる、という表現に近いのかな?
「ちッ、何だよ、なんでそこにアタイの名前まで出てくんだよ、ルナ。」
「ウリエル、何でも何も、貴様がそう言ったのではないか。」
「あーっ!そ、そりゃ違う、ってか、そーいうのは黙っとけやアホ!」
「……また、私にアホと言ったな……」
「何度でも言ってやるぜ、アホ!」
「そんな貴様には、こうだ!」
「うわ、や、止めろバカ!そこは、あー!」
ルナ様とウリエル様って、ホントに仲が良いのね。
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