第13話「カラオケの密会のついでに世界が変わる日」
「受付するから待ってて」
と、アオが言って応対だ。
なんでこんなことに……。
少し、ちょっと緊張だよ。
アオと二人だけだ。
ツナは日射病で倒れてから調子が戻っていないらしい。交流センターでツナくんは倒れた。
オフショルダーで黒のキャミソール、デニムのホットパンツ。肩だけじゃなく、僕の足の全てを見て欲しかったと、僕のことばかり考えてしまう。
ツナが倒れたら見てもらえない、と。
振り払っても我儘ばかり浮かんできた。
だがアオは違う。
当たり前のようにツナくんを気遣う。
そこにはアオ自身よりもツナくんを優先する愛がある。僕は焼かれそうだよ、ツナくん。彼女といると自分の情けなさをえぐられている気がする。
カラオケなんて何を話せばいいの?
歌ったこともないんだけれど僕!?
◇
「え……狭い……?」
「……ワーフォックス種族とスキュラ種族なら2サイズ以上は上が良いかもしれんの」
「だね。じゃ、僕から歌っていい?」
「え?」
絶対、この娘は変なのじゃ。
変態みたいな服装じゃしの!
なんじゃそれは!?
オフショルダーで黒のキャミソール、デニムのホットパンツ。肩だけじゃなく、僕の足の全てを見てと言わんばかりの服装は!
破廉恥じゃ!
「だめ?」と、タテナシ。
「いや……問題無いぞ?」
「ありがと。じゃあ……」
タテナシが曲を選び始めた。
……これ何をしておるのじゃ?
「えっと、じゃ、これかなー」
曲が流れ始めた!
全然知らない曲じゃ。
「今勢いに乗っているガールズバンドの曲で、街でよく耳にするよね」
「そ……そうじゃな!」
そうなのかや?
全然わからぬのじゃが。
タテナシはおしとやかに腰を振る。
テレビで見たぞ!
リズムをとっておるのじゃろう!?
わしとスキュラ種族では狭さを感じる部屋ゆえ、タテナシの動きはこじんまりとしておる。
しかし……。
怪しげな黄色に青輪のスキュラ触手。
薄暗いなかのそれはどこか妖艶じゃ。
「少しマイク音量欲しいな……これか」
と、タテナシは慣れた手つきで操作じゃ。
タテナシは半身を屈めて音量を調節する。
上半身を折り曲げたことで、巨体な下半身と比較すれば小ぶりにも見える尻が突き出される! 際どいスカートのせいで中身が見えそうじゃ何履いとるんじゃおぬしは!!
「アオも歌う?」
「いやもう少し探すそうと思うのじゃ」
「そか。じゃもう一曲は何にしよかな」
タテナシの胸元が緩く、キャミソールの中が見えておる。か、飾り気のあり真っ赤に派手な下着……しかも瑞々しいほどにキメのある乳房に谷間……これはツナがいなくて正解であったの。
「よし、これに決めた」
と、タテナシは歌い始める。
やはりわしの知らぬ曲じゃ。
わしは注文したエビの素揚げをぽりぽり食べながら、タテナシの熱唱を眺めておった。
タテナシを呼んだ理由もあるのじゃ。
◇
「タテナシ」
僕が曲を終えたとき呼ばれる。
僕は炭酸ジュースを飲んだ。
それと小腹に貝の紐の揚げ物。
「ツナは無理をする。わしとお主で二人を愛するというのに嘘は無いのじゃろう。じゃが、二倍、あれはバカなので動こうとする。人間は何倍にもブーストできるほど高性能ではないのにやろうとする」
「今日は倒れてたしね」
「あれは陽にあたっただけじゃ、アホゆえ」
「アホゆえ」
「うむ、アホゆえ」
と、アオの顔は少し弛む。
「じゃあ僕がツナを癒すよ!」
スカートを揺らす。
真っ赤な下着だよ。
「そうじゃなーい!!!!!」
と、アオはすっごい怒る。
怒るとはちょっと違うかも。
アオの尻尾の一本がのたうちながら凄い勢いでしなってきたので触手足で白刃とり。僕は美脚でも筋肉の塊だからパワー負けないよ。
「違うの?」
アオはうなる。
僕を威嚇する。
気持ちはわかるんだ。
だってツナの彼女だ。
僕は……邪魔てのも。
「仕方ないなぁ。僕は肉体関係だけでいいよ。アオのいないところでだけ交尾するから」
「大問題じゃろそれは!? オープン浮気ウェルカム性行為は不味いじゃろ!?」
「そうかな? アオの言うとおりなのかも」
「お主と話しておると疲れる……」
「アオは裸見せたくないの、ツナに」
「見せるわけないであろうに……」
「僕は見て欲しいよ。ツルツルに剃ってる。見る? デリケートゾーン」
「見るわけないであろー!?」
「じゃあいつ見せれば良いのよ……」
「そ……そういうときじゃろ?」
「セックス?」
「……」
「普段から見えるほうがお得じゃない?」
「恥じらいは……大切であろう?」
僕の心にアオの言葉が刺さる。
蒸気ハンマーに殴られたよう。
火花を派手に散らすハンマー受けた。
「タテナシ、死んでおるのか?」
「ま……まだ僕は負けてないよ」
アオ、エリート風お姫様風アホの子という属性が多い女だと思ってたけど破壊力あるパンチもってるじゃん……。
なんか僕が恥ずかしくなってくる。
パンツ見せる前提てなに?
いつ脱がされて大丈夫て。
いや、初心貫徹!!!!!
ロボットは動いたら迷わない。
僕の心は不安も払い除ける!!
疑うな、迷うな、信じ抜け!!
「痴女が隣は恥ずかしいじゃろ……」
◇
タテナシの顔が死んでおる。
ど、どうしたのじゃ突然……。
「へへ……どうせ痴女よ……」
痴女という言葉が刺さっておる。
実は、破廉恥な娘ではないのか?
そういえば大学では露出過多な服装では無かった気がするの。何度も会っているというわけではないのじゃが。
好都合じゃの。
へっへっへっ。
このまま折れてしまえなのじゃ。
「決めた。ツナを寝とってくる」
「待てい、タテナシ、儂の目が世界で一番美しいうちは許さぬぞ」
「アオの目は欲で濁ってるからセーフ」
「どういう意味じゃ!?」
「穢らわしいのは己を隠し相手を責めること。男女で同じ部屋にいて夜な夜な遅くまで一緒なのは知ってる」
「仕事じゃ。緊急メンテナンスを手伝ってもらっただけじゃ人聞き悪い!」
「僕も……」
タテナシの言葉が詰まる。
「……ロボットのなんかあるから」
「嘘つけー! 嘘じゃ、タテナシは嘘を吐いておる! 絶対嘘じゃろ中身ゼロじゃ!!」
「嘘じゃないよ?」
タテナシは嘘の目をする。
正確には目線が斜め上を向き、記憶から思い出すのではなく、考えて創作するときの目線の運動しておる。
「アオ、嘘じゃないよ?」
「……嘘はともかくツナは倒れておるからゆっくりさせてやるのじゃ」
「寝込みを襲える」
「やめい」
ぽこん、と、尻尾で頭を叩く。
タテナシの頭に尻尾の塊じゃ。
ぺしん。と、触腕に弾かれた。
尻尾と触手の乱打が始まったのじゃ。
◇
「……はぁ……はぁ……」
「……はぁ……はぁ……」
僕とアオはソファで力尽きてる。
カラオケの時間はまだ残ってる。
「アオはどうなのさ。元カノとしてさ。堂々と浮気宣言とかされてるけど。僕はウェルカムオールオッケー。僕の穴の中まで見せつけられればなんでもいいや」
「露出狂。わしは……わしだけ見て欲しいの」
「女子てみんなそう。シェアすりゃいいよ」
「良くない、タテナシ。自分から離れる瞬間があると胸がキュッとなるのじゃぞ」
「う〜ん」
僕には、ちょっとわかんない。
見てくれる瞬間があれば充分。
それ以外はずっと忘れられる。
辛い瞬間より良い瞬間が欲しい。
ツナが僕をずっと見ない、と、なれば嫌だけど、一人も二人も大差ないというか、それで無くしちゃうなら社会で生きてけないよ。
「アオてメンヘラ?」
「違うわい!? なあにを言うておる!」
「依存して離したくないんでしょ? 誰かになびくダメ、目を離すダメ、病気だよ」
「ふ……普通じゃよ?」
「普通て正しいのかな、アオ」
「どういう意味じゃ、タテナシ」
「僕は、一般的じゃない、普通じゃない僕が、僕だと思ってる。全部見せつけてあげたいて人間が少数派な自覚はあるんだ」
「タテナシ、自覚あるのじゃな」
「うん、あるんだよ」
あるに決まってるよ。
服を着てるんだから。
「タテナシはなんでツナが好きなのじゃ」
「僕の全部を見てくれるから。アオは?」
「……儂の全部を受け止めてくれたから」
「同棲してるのに愛想尽かされてないね」
「喧嘩売っておるのか、タテナシ?」
僕よりも、アオは変態じゃん。
それってヘソに溜まった汗を舐めさせるくらい全部見せたてことじゃん。僕よりも変態だ。
やっぱりツナは全部見てくれるんだ。
「儂のがツナ好きじゃぞ」
「僕はツナを利用したい」
「えぇー!?」と、アオ。
アオの印象変わるなぁ。
猫被り狐被りじゃんか。
「でもさ、僕らてツナと全然種族が違うんだけど、ツナてどう思ってるんだろ。嫌だなぁ、と思ってても言えないんじゃない」
「えぇッ!? そんなこと無いはずじゃぞ。儂は世界で一番の美女であるしな」
アオて心が強すぎるよね?
「じゃあツナちょうだい、タテナシ」
「なんでじゃ!?」
「世界一の美女ならそのうち良い人見つかるって。だからツナは踏み台だったと言うことで」
「絶対ヤじゃからな!」
「やっぱダメか……」
◇
なんということ言うのじゃ!?
油断ならぬなタテナシとやら。
しかし……。
儂は、長いノーズと尻尾を触る。
あと儂は毛並みがもこもこじゃ。
タテナシの意見をまるっと呑むわけではないが確かに……ツナとは違うのじゃ。
今までは気にしたこともなかったの。
しかしニュースで儂は見たことある。
種族間の差別意識じゃ。
社会問題……らしいの。
「むむむ……」
タテナシを見る。
スキュラ種族の蛸じゃな。
儂より異形じゃからのー。
儂のが脈ありじゃろうな。
もふもふは愛されるものじゃ。
「図体は考えちゃうよ」
「ツナは個性的で羨ましいと“昔”言っておったぞ。その尻尾と顔と毛が良い、と、抜け毛を吸ってかなり目は腫れ鼻水流しておったが」
「狐アレルギー?」
「違うぞ」
それは、違うぞ。
「僕て警戒色なんだけど」
「派手な色じゃな」
「下の口で噛むと息が止まる毒液出せる」
「……し、神経毒……」
お互い悩みがあるもんじゃ。
ッて、なあに仲良くしようと!
「タテナシ、酒でも呑もうかの。ツナは下戸じゃからなかなか一緒に呑めん」
「僕は呑むよ強いお酒大好き」
注文した。
部屋に酒が持ち込まれる。
「カンパイ」
認めたわけではないのじゃ。
ただライバルにしようと思うのじゃ。
争い過ぎれば全てを失う。
万が一、儂が負けたとしても、ツナとの全てを断ち切ることをせず、根を残せば奪いかえす機会もあるであろうな。
今は、ツナの一番をキープするのじゃ。
ハーレムなど論外じゃ!!!!!!!!
「もっとツナみたいな人間がいっぱいの世界なら僕らのレアさが際立つとは思わないかい、アオ」
「確かにの。この世界は個性ばかりで個性がなくなってしもうておる。誰もが違う、違いすぎる、もう少し似ていても良い」
「祈っちゃいますか?」
「世界よ変われ、と?」
「僕祈っちゃいます」
と、タテナシは声をあげる。
「ダンジョンするスーパーファンタジーになれ! 僕らはレアモンだぞ!」
「全然関係ない願望じゃな!?」
さっきまでの話はどこいった!
なによりこんな場所から届くものか。
祈りとはこうやるのじゃぞ!!!!!
「ついてくるのじゃタテナシ!」
儂はぽわぽわする頭のまま、手抜きしたお祈りをするタテナシを連れ出す。
公道で両手をあげた。
天を呼び天に命じん。
「世界よ! 儂らの願いを聞けー!」
儂とタテナシ、そうとう酒を決めておる。
◇
悪酔いして転がりこんだ恋中の夜明け。
いいかげんに起きないともう昼間だぞ。
酷い顔色の客人が二人もいた。
二人は乙女らしからぬ寝ぼけ。
しじみ汁を同じような目で飲む。
二人は顔を見合わせてテレビだ。
そこにニュースが流れていた。
「嘘でしょ」
「嘘じゃろ」
テレビは今日の『ダンジョン予報』だ。
朝昼晩のお天気コーナでやってるのだ。
アオとタテナシさん何を驚いてるんだ?
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