第7話「頭が九倍賢い美少女」
「てめー、この変態タコ女が!」
と、スキュラの女の子が掴まれている。
スキュラ……と言っても目立ち度で言えばワーフォックスの本数の多い尻尾と同じくらいだろう。
アオは尻尾だがスキュラは足てな違いだ。
黄色の地に青い輪の模様が気になるんだが。
「こらこら美少女だからと揶揄ってはいかん」
と、俺は物知り爺さんのように介入。
スキュラ嬢は片腕は股間の固焼きパン、残る手は掴まれている。なんだこれ?
待て待て、取り敢えず話し合おう。
普通にぶん殴られた。
拳が頰を揺らし、顎や頭蓋骨をビリビリと振動させて、ついでに倒れて頭も切れて血が出た。
「お、俺のせいじゃねぇぞ!?」
と、ナンパぽいことをしていた奴がうろたえる。ちょっと血を見た程度でビビってると、旋盤で千切れとんだ指をもって病院に行けないぞ。
ちょっと静かにしてくれ。
俺の頭がぬるぬるしてる。
「タテナシ! テメェが悪いんだ」
「へへッ……そんなぁ……」
「にやにや顔のタコ女め! お前がなんとかしろよ! 俺は悪くねぇ、全部タテナシのせいだ!」
女の子の悲鳴が聞こえた。
誰かが俺を発見したようだ。
ちょっとした騒動を聞いた。
カメラのシャッタを切る音もだ。
「くそッくそッくそッ! 退け退け!」
「あいつ逃げるぞー!!」
そこへ邪聖剣学園の警備員が駆け付けた。
ハーピー種族だ。翼の腕、鳥の足、空を飛ぶ軽やかさを感じさせるようなハーピーの名前だが、真逆の重厚感ミニドラゴンの強脚の足音を響かせ来てくれた。
「大丈夫ですか? 安心してください、容疑者は共和平等法違反者として追跡中です! 頭の傷を診ます!」
と、ハーピーの人は救急箱から手当てしてくれた。ホッチキスがカシャ、カシャ、と、何度か俺の頭を震わせる。
「翼の手じゃ不便だから包帯はね」
と、ラミア種族のお姉さんが良い匂いのする体を揺らしながら包帯を頭に巻いてくれた。上半身は乙女、下半身は大蛇の女性だ。長い蛇の体は、集まる野次馬との線引きに横たわっていた。
「後は任せろ」
と、ハーピーお姉さんが鉤爪の足を鳴らした。……床に爪が喰いこんでいたしヒビが走る。ラミアお姉さんが救急箱を片付けてお辞儀をしてくれた。それを見てハーピーお姉さんも慌てて「協力を感謝する!」と、お辞儀をして去って行った。
「あー……大丈夫だった?」
微妙に気まずい。
「大丈夫」
と、スキュラ種族の女の子は言う。
なんなら両手にVサインが出てた。
少し変わった女の子なのだろうな。
「俺、ツナって言います。ツナ兄ちゃんで」
「私、タテナシです。タテナシ様と呼んで」
凄く変わってる女の子なのかもしれない。
俺はいつもと変わらない程度に軽く挨拶しておいた。名前の交換は大切だしな。
トオルさんの名前も出して結んでおくか。
「スキュラ種族のタテナシさん? 知ってるよ、先輩にトオルさんてのがいなかったか? トオルさんからロボットを研究する熱心な学生がいると聞いた。もしかして?」
「透明人間の?」
「そう!」
「トオルさん口軽いからスーパー美少女の僕を自慢したかったんだろうね。そうだよ、僕だ」
スーパー美少女とは聞いてないが。
少なくとも人見知りではなさそうだ。
よかった。
俺は人と話すの苦手なんだよ。
しかし……賓乳な胸だ。
スキュラ種族の特徴であるボリュームある下半身のせいかツルペタに見える。ボリュームの問題ではないな。普通になだらかな海のような胸だ。
タテナシさんの四角い瞳はそのまま。
彼女は首を傾げながら、にまぁ笑い。
「ツナさん、お昼食べそびれました。一緒に食事しませんか。恩人に奢らせてください!」
「随分と積極的だ。照れちゃうよ」
そして俺は死ぬほど後悔したんだ。
「ん♡ こんなに深い♡」
「タテナシさん、タテナシさん」
邪聖剣学園の屋上。
暇な学生がたむろしたり、バレーボールやらする涼しい場所で、水棲種族が日光浴したりするミニプールがあったりする場所だ。
暑い日差しでもけっこう涼しい。
だが今は、俺とタテナシさんだけだ。
先程、屋上にやってきたマーメイド種族もいたが、顔を真っ赤にして来た道を戻ってしまった。俺の引き留める手はむなしく宙を掴んでいたわけだな。
「やめい」
俺はチョップした。
タテナシさんはスカートの端を口で咥えて、スキュラ種族の下の口で、硬くて長いパンを食べている。
俺はそれを見せつけられている。
たまにいるよね。
食べてるところを見てほしいての。
わかってる、わかってるんだよな。
スキュラ種族の身体的な違いだな?
「卑猥なんですけど」
「他種はみんなそう言う……」
と、タテナシさんは涙目で言う。
俺はそれを聞いて思ったのである。
だろうな!!
スカートの中で食べるな!
タテナシさんのスカートのなかは乙女の秘密ではあるのだが、ちゃんと、頭足類の口があった。
つまりは格納されている口だ。
口球の筋肉の塊があり、食べるときにはキチン質で嘴状の顎板──カラストンビとも言われているな──が飛びだす。
口の中にはヤスリみたいな歯舌もある。
タコだか貝だか軟体類だかて感じだな。
ちゃんと食べてる。
「……」
ちょっと落ちこんだタテナシさんが、もにゅもにゅと固焼きパンを食べる。
タテナシさんの顔は可愛い。
スーパー美少女だろう間違いない。
俺はタテナシさんの下の口を見た。
長い固焼きパン、俺も食べたことがある。
歯が折れるくらい硬くて食べられなかった。そして笑われた。スープにひたして柔らかくするのよー、と。
俺はタテナシさんが食べているものを見た──カラストンビで固焼きパンが超音波包丁かよてくらいすっぱり綺麗な断面に切断されていた。
怖くね?
「ご馳走様でした」
と、タテナシさんの食事が終わる。
カラストンビが開かれて、歯舌が指先についたパン屑を舐めとった。そしてカラストンビはするすると口球の筋肉のなかに沈んでいき僅かな跡だけが残る。
「こんなに見られたのは初めて……照れちゃいますよ、ツナくん……エッチ」
「いや、普通に怖いんだがタテナシさん」
「そんなに素直に言われるのも初めて……」
タテナシさんは照れ顔から、ちょっと呆れて、照れても呆れてもいない、なんというか、普通の表情になった。
表情の七変化だな。
「どうだった?」
と、タテナシさんはふんすと鼻を鳴らす。
「……どう?」
「興奮したかな!? 僕は今すっごく興奮しているのだけど!」と、タテナシさんは距離を詰めてきた。
タコ足がするりと屋上を走る。
魅力的な上半身すぎて下半身を失念していた。上半身を微動もさせないなんてホバークラフトかよ!?
すげぇ……。
俺はドキリと胸が高く鳴った。
同時に、なんでこんなことを?と、やぼに聞いてしまいそうになったのを呑みこんだ。
カラストンビは恐ろしかった。
もはや凶器だろあんなものは。
だが、どうだったかと言われれば……。
ちょっと、ちょっとだけな。
え……エロいんじゃないか?
「……」
何故か、タテナシさんがにまぁと笑う。
なんでだよまだ俺は言ってないだろ!?
「怖いこともあったけど大収穫だ」
と、タテナシさんはいやんいやんと、頬を手でおさえながら、くねくねと揺れた。
ちょうど予鈴の鐘の音が鳴っていた。
次の講義が始まろうとしているのだ。
「次のコマがあるんだ。行かなくちゃ」
七変化のタテナシさんは一瞬で切り替わり、真顔でそう言った。
「あの、これ……」
しかしタテナシさんの次は、まるで告白するかのようなうぶな声色で恥ずかしげに四角い瞳で見つめてくる。
メモ紙の切れ端だ。
何かを素早く書く。
電話番号、連絡先だ。
「またね、ツナお兄ちゃん」
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