第6話「ろ、ろ、露出狂──じゃなあい!」

「え? トオルさん、急に決まったな」


「前から話していたやつが決まったんだ。ほら、ロボ作ってるだろ? 飛脚くんのインフラを作って、巨大人型ロボの繋げるのが夢だった」


「ちゃんと覚えてる。しかし寂しくなるな」


「ツナが話を繋いでてよく言う!」


 と、トオルさんがびしばし叩く。


 俺とアオが付き合い始めてしばらく。


 世界樹の呪いはすっかり、仕事の日々で忘れてしまった頃、トオルさんが会社を辞めることになった。


 トオルさんのチームは八人。


 つまり九人がいなくなった。


「ツナくん、安心しろ、良い子を紹介してやる。してやる、と言うよりも、これは勝手なんだがもし気に入ったら面倒を見てやってほしい。頼む」


「別にいいぞ、トオルさん」


「相変わらず、軽いなぁ。簡単に助ける……変態のスキュラだが……頼む」


 アオの雷子商店街は上手くいっているようなのだが、賑やかだった家が、あっという間に静かになってしまった。


 永遠の別れではない。


 むしろトオルさん以前にも何度も経験があるし、連絡も頻繁、よく遊びにだって行く。


 だが、ちょっと寂しい。


「これ」


 と、アオに超軽い拳骨されてしまった。


 アオの尻尾の一本が拳骨の形していた。


「うじうじするこのではないぞ。わしがおるというになんじゃ、その態度は」


 それはそうだ。


 アオがいながら俺はなんと!


 だが、それとは別に。


 アオを愛しているとは別に。


 思考を切り替えると、新しいリソースが空いているというこが気になってしまう。


「アオ。今日は邪聖剣学園に行ってみよう」


「その前にお掃除じゃな」


 と、アオが「これ! これ! これ!」とワーフォックスの九本の白い尻尾で指差す。


 起つ鳥跡濁しまくりだった。


 後片付けをして仕事して。


 俺はアオに昼飯を出した。


 冷麺だ。


 野菜がダンボールで数多くあるので、全部、アオにぶち込んだら、死ぬほど反撃を喰らって、今は、キュウリやらトマトが山になっている。


 アオムシじゃないのに!


 ズルズルと冷麺を食べている。


 本日の午後の予定。


 アオは、イベントの企画準備。なにやらいつも、新しいことをたくらんでは、商売を広げようとがんばっているのが、アオなのだ。


 ふと、テレビが目についた。


 お昼の番組を、テレビ箱の中の妖精が気分で、描いたり演じたりしているのだが、地元のニュースぽいものをやっている。


「そうだ。邪聖剣学園に行ってみよう」


「行く前に栄養バランス考えるのじゃ」


 アオのケモ尻尾が掴んでいた。


 キュウリ。


 ミョウガ。


 カイワレダイコン。


 ハクサイの漬物。


 モヤシ。


 ホウレンソウ。


 山のように!


 山のように!



「シャキッとせんか!」


 と、アオが背中をさする。


 言葉よりアオが優しい。


 さすがはアオだぜ良い女だぜ……。


 でも俺はアオムシじゃないんだよ。


 邪聖剣学園の構内で、俺は、尻尾につきっきりで介抱されていた。背中をさすられ、肩を貸されそうになり、全周囲へと万が一に備えて護衛されている。


 ワーフォックスの尻尾に。


 一人シークレットサービスだ。


 そして、白い護衛たちは目立つ。


 邪聖剣学園の警備員や学生や教授、行き交う全ての人が異様さにざわついていた。


 有名人じゃないんです。


 俺はただの一般人です。


 なんか、すみません……。


 恥ずかしさはある。


 俺は、アオを見た。


 アオの真剣な目がサングラスの下にある。


 アオの尻尾以外は極めてクールに、ある意味では、他人のフリをしているかのように振る舞っている。


 だが本気で、俺を気にかけてくれている。


 こんなに愛されて拒絶ができるだろうか。


 できるわけがないだろ!!


「ありがとうアオ! 今度は俺がアオを守護るから安心してくれ! 悪いナンパは許さないぞ、良いナンパも許さないからな!」


 周囲はドン引きしていた。


 これで……良いのだ……。


 俺は灰になりそう恋をしている。


「あれ? アオ先輩だ!」


 不意に若々しい声が飛んだ。


 アオを『先輩』と呼んだ声だ。


 アオよりも若いだろう女性が数人、フレッシュで眩しく元気いっぱいに手を振っていた。


「お久しぶりです、アオ先輩!」


 アオとアオの後輩たちは楽しげだ。


 どうも俺が立ち入れる雰囲気じゃない。


 俺を気にしてちゃ話せるものも話せないだろう。アオを付いてこれない、ここに置いていく、なんて冗談ではあるが……。


「アオ、俺は俺で用事を片付けてくる。アオは久しぶりの友だちと話してこい。友達は大切だぞ」


「ツナ、それは──」


 アオが断ろうとするが、後輩たちが遮る。


 それにアオが鋭く声を差した。


「──わしには多少、無礼でも許そう。じゃが、このツナを蔑ろにすることは、わしが許さん」


「アオ。それじゃ冷たいよ」


「しかしツナ」


「なかなか再会なんて幸運は無いかもしれない。貴重だよ。会いたくても会えないことばかりだ。だから、アオに会いたいと慕ってくれている後輩たちの時間を、大切にしてあげてくれ」


「よしんば、と?」


 アオがジト目である。


 俺の内心を見透かしてる。


「な、なんのことかな?」


 仲良し後輩から従業員の一本釣りなんて考えてはいませんとも。


 アオとその後輩たちと別れた。


 アオはすっかり捕まってしまっているが、アオも後輩を気にかけているようだ。慕い慕われる先輩と後輩か……羨ましいな。


 眩しい。


 さて、俺もやることしないと。


 トオルさんの推薦のスキュラ少女の勧誘が目的なんだから。宗教じゃないから柔らかくな。それに、研究しているものも気になる。


 講義が終わって休み時間に接触する。


 トオルさん曰く変態らしいが、せいぜい、露出狂くらいだろ。うちには全裸で徘徊する透明人間だっていたんだ。


 露出狂の変態なぞ。


 しかしトオルさんが把握している講義てピンポイントすぎるのだ。確実に会えるのは少し先だな。


 そんなこんなで学園を探索していた。


「学園にいつのまに本屋なんて入ったんだ」


 俺はふと目についた店舗に入ってしまう。


 参考書がたっぷりだ。


 俺のときは、節目に纏めて買わされてた。


 こんな本屋として並んでいなかったがな。


「へぇ〜、面白いな」


 大型書店よりはずっと小さい。


 だが吹き抜けの二階建ての構造だ。


 階段の上にも下にも本が並ぶ!!


 俺ちょっと楽しくなってきたぞ。


 漫画みたいなものはまったく無い。


 分厚さに寄らず、専門書ばかりだ。


 漫画を立ち読みするのに寄りはしないな。


「魔導磁気学?」


 聞いたことのない分野だ。


 俺はハードカバーの背に指を伸ばす。


「僕じゃありません」


「へへッ。しらばっくれんな変態女!」


 人のいない本屋で穏やかじゃない雰囲気が響いていた。悪漢か珍獣でもあらわれたのか?


 書架の列を超えていくほど声が大きくなる。


 見えた。


 男が二、女が一。


 女を引き留めているのは男。


 ナンパかな?


 それにしてはちょっと乱暴だ。


 女の手首が強く握られていた。


 男たちが絡んでいた女は探していた人物だ。


 一にも二にもスキュラ種族の特徴が目に入る……頭足類、タコやイカのたぐいの触手を足に何本も、少なくとも見えるだけでも五本以上で立っている。


 上半身は人間の女の子と同じ。


 くせっ毛の強い長いウェーブの髪。


 長いまつ毛、おっとりした印象のアーモンド型の目だが、四角い瞳孔がどんな角度でも水平を保っている。


 スキュラのタコ足なのだが……。


 黄色の肌に青い輪の模様があるのだが。


…………う、う〜ん…………?


 長い丈のスカートを入っていてタコ足の太ももがむちむちしているように見えるのは、レースがあしらわれた黒タイツという高級なものを履いているからだろうか。


 いや違うガーターベルト!?


「あの、えっと……へへ……」


 と、女の子が、にへらぁ笑う。


 超・ギザ歯だ。


 女の子はゴソゴソとしている。


 女の子の手には棒状の固焼きパン。


 固焼きパンがスカートの中に入る。


 垂直に、ちょうど足の付け根にだ。


 ぬるぬると入っていく沈んでいく。


 あ……アウトー!!!!!!!!!

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