第九話 魔法少女と深淵の魔人①
「さて、いよいよダンジョン攻略だが、俺たちは四十六階層から攻略を進めることになる」
「はーい」
ダンジョン入口で紫電さんが中心になってブリーフィングを行っていた。
「知っての通り、このダンジョンは五階層ごとにボスがいるんだが、俺たちは五十階層のボスで足止めを食らっている状態だ」
「その攻略で私の力を使って欲しい、ということですよね?」
「そうだ、俺たちの異能でもダメージを与えられることは与えられるんだが、今一つ効果が薄くてな。毎回、時間切れになるんだわ」
「なるほど」
「そういう訳なんで、相沢はボスまでなるべく温存して、道中は氷室が中心になって攻略してくれ」
「わかったわ」
氷室さんが頷くと、紫電さんが場の雰囲気を和ませるように肩をすくめる。
「まぁ、そう言っちゃいるけどな。俺たちもサポートに回るから、安心しな」
「私も持久戦は問題無いはず……」
そう言って、昨日ホームセンターで購入したコンロとフライパンと包丁、そしてバターと塩コショウを取り出した。
「おいおい、キャンプに行くんじゃないんだぜ?」
「いや、キャンプに行くんじゃなくて、これが私専用の回復キットらしいんだよね」
私の言葉に、美咲以外の全員が「マジかよ」って顔をして見てくる。居た堪れなくなった私は視線で美咲に助けを求めると、代わりに説明してくれた。
「これはマジよ。葵の能力は異能じゃないからポーションじゃ回復できないの。まあ、実際に見ればわかるわ」
そう説明したが、相変わらず信じられないという目で私を見ていた。かと言って、美咲の説明を否定するだけの材料もないことから、腕を組んで思案していた紫電さんが一つの提案をしてきた。
「それじゃあ、腕試しっていう訳じゃないけど、四十六階層を相沢君に任せてもいいだろうか? その上で、回復を試してみる。それで効果があるようだったら、全面的に信用するということでどうだろう」
「わかりました」
私としてもさすがにボスだけって言うのは、気が引けたので彼の提案は逆に都合が良いと感じた。自分自身、美咲の言葉が半信半疑だったこともあったので、ちょうど良かった。
「それじゃあ、ここは私が攻略してみますね」
「おう、ヤバそうだったら、俺たちもサポートするから、思いっきりいけ」
「はいっ、『
さっそく魔法少女形態になった私は、ありったけの魔力を込めて魔法を使う。
「『
ダンジョンフィールド全体がキノコで覆われ、その中から毒々しい色をしたキノコが生えてきた。その直後、フロアのあちこちから断末魔の叫び声が聞こえてきた。
「うへぇ、こいつはえげつねぇな」
「さすがは葵ちゃんですわ」
「でも、どうやら、こっちに気付いたやつもいるようね。来るわよ」
紫電さんと氷室さんが私の魔法を見て感心していた。一方で、白瀬さんは終わっていないと、私に注意を促してきた。
「大丈夫です」
耐久力の高い魔物の一部がこちらへ向かって突進してくるのが見えた。こっちに向かってきているとはいっても、ほとんどの魔物は毒で死にかけていて、たどり着く前に力尽きるものも多かった。
「こいつは毒に耐性がありそう」
平然と突進してくる紫色の縞模様をしたイノシシを押さえるために前に進み出る。そして、突進を宿星剣で受け止めた。
「うわっ、あぶなっ」
受け止めたところでイノシシが口を開けて、液体を吐きかけてきた。どうやら、猛毒の唾液のようで、地面にできた水たまりから身体に悪そうな煙が上がっていた。紫電さんたちに攻撃が行かないように、イノシシの頭上を飛び越えると背中側に回る。そのついでに挑発も兼ねて斬撃を飛ばした。
「ぶぉぉぉん」
斬撃を受けたイノシシは怒ったようで、私の方を向いて突進を仕掛けようと準備していた。
「そうはいかないよ」
すかさず近寄って斬撃を放つが、イノシシは二本の牙で剣を受け止めると身体を捻って回転させる。そのまま剣ごと回転に巻き込まれてしまった。
「うわあぁぁぁぁ。いててて」
回転させながら振り回し、その勢いのまま投げ飛ばされたため、イノシシとの距離が空いてしまう。回転させられて少し朦朧としていた私は、そのままイノシシの突進を受けてしまう。
「うわぁぁぁぁ」
吹き飛ばされた私の位置に合わせるようにしてスピードを調整して突進されたことで、まるで空中コンボのように何回も突進を受けてしまう。
「葵ちゃん!」
「まって、まだ早いわ」
その様子を見ていた氷室さんが加勢しようとしたが、美咲に止められていた。おそらく、彼女も気付いていたのだろう。イノシシの突進を食らっても、私が大したダメージを受けていないことを。
何回か突進を受けて、壁際まで追い詰められたところで、空中で壁を蹴ってイノシシの背中に回る。
「さて、今度はこっちの番かな」
今度は剣に魔力を最大限に込める。すると、剣に刻まれた七つの星が白く輝き出した。その輝きは剣を覆い、光の刃のように見える。イノシシは振り向きざまに牙を振り回してきたが、それを華麗にかわして剣を振るう。
「ぶもぉぉぉ」
私の斬撃によって、牙を斬り落とされたイノシシは驚いたような表情で暴れ回る。しかし、そんな攻撃が当たるはずもなく、全て回避する。すれ違いざまに横一閃に薙ぎ払うと、イノシシの身体は上下に真っ二つに分かれてしまった。
「お疲れ、まあまあってとこじゃね」
「葵ちゃん、カッコ良かったです」
「それで、回復はどうするんだ?」
戦闘が終わったのと同時に、私の所にみんなが駆け寄ってきて健闘を称えてくれた。そして、肝心の回復の時間がやってきた。
「まずは、栽培キットを安全なところに置いて」
美咲の指示に従って、転移装置の真裏に栽培キットを置いた。そして、包丁を渡される。
「そしたら、キノッピーを呼んで」
「何の用だッピ」
指示に従ってキノッピーを呼ぶと、美咲が次の指示を出す。
「そしたら、キノッピーを一口大にカットして」
「えっ?」
「な、なんだッピ?」
「いいから早く!」
「うわ、やめるんだッピ」
キノッピーも若干抵抗してきたが、変身したままの私の方が圧倒的に強く、あっという間にキノッピーは一口大にカットされてしまった。
「そしたら、バターで炒めて塩コショウで味付けするのよ」
バターを溶かしたフライパンでキノッピーを炒めてから塩コショウで味付けをした。
「おいしくできました?!」
「焼きのタイミングもバッチリね。まさにこんがりキノッピーってところかしら」
「もしかして、これを食べるんじゃないよね?」
「いや、食べるのよ。葵が」
「ええぇぇ……」
フライパンの上にある、こんがりキノッピーを恐る恐る口につける。予想に反して、とても美味しかった。マツタケのような芳醇な香りに、しめじのような濃厚な味がバターの脂とマッチして、塩コショウの味を引き立てていた。
「お、美味しい……。えっ?」
何より食べた直後から、私の魔力だけでなくダメージもみるみるうちに回復していった。
「これは……?」
「これでわかったでしょ? 葵が回復する一番の方法はキノッピーを食べることよ。仮にも魔王だから魔力が豊富なのよ」
「でも、キノッピーがいなくなっちゃったら……」
「安心して」
キノッピーを食べてしまった罪悪感に駆られていると、美咲は先ほど設置した栽培キットを指差した。そこからにょきにょきっと、巨大なキノコが生えてきた。と思ったら、そのキノコは僕に向かって、猛スピードで射出された。
「何をするんだッピ。死ぬかと思ったんだッピ!」
「えっ、キノッピー、生きてたの?」
「栽培キットのおかげだッピ」
「そう、こいつは栽培キットが近くにあれば復活できるのよ」
何故、キノコ栽培キットを買ったのか、やっと理由が分かった。これはキノッピーにとっての復活ポイントということらしい。
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